第2話
蛮族一式装備冒険者が次に脚を向けたのは、中央広場からやや外れた所に
ある石造りの頑丈そうな建物だった
開け放たれたままの扉の左右には、警備兵二名が槍を携えて立哨している
二名の警備兵は、無言で蛮族一式装備冒険者に視線を送る
その眼差しは、まるで品定めでもするかのようであり、警戒心を露わにしている
しかし、蛮族一式装備冒険者は、それを気にする素振りもなく悠然と
歩を進めて、建物の中へと入っていく
蛮族一式装備冒険者の姿が消えると同時に、警備兵が左右どちらとも
なく息を吐いた
「あれが噂の・・・」
警備兵の片方がそうつぶやく
「ああ、そうだ」
と、もう一人の警備兵が相槌を打つ
建物内に入ると、前方にカウンターがあり眉が太い
中年男性が座っていた
蛮族一式装備冒険者が近づくと、中年男性は視線だけを
そちらに向ける
ずかずかとカウンター前まで近づくと、骸骨が刻まれている
掌サイズのコインを提示した
「 『冒険者ギルド』総本部からの『通達』通り、
単独で潜る事を許可してやる
右手の部屋から階段を降りろ」
愛想のかけらもない声で眉が太い中年男性が言う
蛮族一式装備冒険者は無言でその指示に従い、部屋の中に入っていた
「総本部は何を考えているやら」
眉が太い中年男性は蛮族一式装備冒険者の後ろ姿を見送りながら、そう呟く
何処かほっとした様な表情を浮かべている
眉が太い中年男性は、カウンター下から紙を取り出しペンを走らせる
書き終えると、それを折り畳み封筒に入れて封をした
宛先を書き記して、裏には差出人の名を記す
そして、ギルドの紋章を印す
――――数年ほど前から『冒険者ギルド』総本部より、各地域の主だった
迷宮都市に通達された内容がある
それは……
『蛮族一式装備冒険者に対しての『特別待遇』と『かの人物に対して無闇な詮索や
危害をくわえてはならない』という決まりごとである。
その通達を受けた各支部ギルド職員達は、困惑した
また、その通達は冒険者からなる『クラン』に対しても極秘で通達され、同様の
内容が伝えられた。
なぜ、そのような通達がなされたのか、関係者が困惑した
特にこの数年間、各地域の『汚れ仕事』専属の冒険者ギルド職員、一握りの
一流冒険者の間では『蛮族一式装備冒険者』の情報を聞くだけで
口を堅く閉じて、ドラゴンを相手でも恐れない猛者が震え上がっていた
何かしら蛮族一式装備冒険者の底知れぬパワーを目撃したと思われるのだが――――
元々から口の堅い者達が揃っているため、真相は不明のままであった
「どうでもよくはない事なんだが・・・」
眉が太い中年男性は再び声を発した。
迷宮へと潜るには基本『六人編成』が推奨されている
だが、蛮族一式装備冒険者はパーティーも組まずに単独のまま、
迷宮へ潜っていった
一人という状態で探索するのは危険なため、本来であれば
冒険者ギルド職員により制止される。
しかし、誰も止める事はしなかった
これが如何に異様な事な事か―――――
薄暗い迷宮内を烈風が吹き抜けていく
その正体は、蛮族一式装備冒険者だ
歩みは軽やかに駆け抜け、その背後では血風が舞い上がっていた
血風の正体は、この迷宮に棲み付く無数の魔物達の死骸だった
屍は迷宮の床に転がり、そしてゆっくりと沈んでいく
それはまるで、迷宮が生み出した新たな魔物として吸収されていく
様にみえた
蛮族一式装備冒険者は、沈んだ魔物に見向きもせず歩を進める
薄暗い迷宮を吹き抜けるその姿は、一陣の烈風だ
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