生徒会長 東崎千春の暇つぶし

坂餅

ガーデニング部

第1話

 この学校の生徒会長――東崎千春とうざきちはるは、パイプ椅子に座りながら、重苦しい息を吐き、頭を振って後ろで纏められた髪の毛を振り回す。


 ここは生徒会室。長テーブルとパイプ椅子がロの字に並んでいる、他の教室よりも少し狭い部屋だ。


 今は千春以外に生徒会役員はいない。そもそも今日は生徒会が集まる日では無いのだ。


「……やることないなー」


 なんのためにやって来たのか。やることの無い千春は生徒会室を後にする。


 昼間とはまた違った騒がしさのある放課後の学校で、千春は迷うこと無く図書室へ向かう。そこには、千春の幼いころからの友人が今日もいるはずだ。


               ◎


 図書室は、そこだけ周りの空間から隔絶されているかと思う程静まり返っている。放課後ながら、生徒の数はそこそこ。


 千春はそんな図書室に入り、一番窓際で本を読んでいる生徒の下へ向かう。


「やっほ」


 千春が声をかけると、その生徒は読んでいる園芸植物の図鑑を見るのを止めて顔を上げる。


「ちーちゃんか」


 やって来た人物が千春だと分かると、その生徒は再び本を読み始める。


 西崎千秋にしざきちあき――千春とは幼稚園から一緒の生徒である。


「おいおいおい、無視するんじゃあない」


 千春はそんな千秋の耳たぶを指で弾く。


 千秋は舌打ちをして千春を睨む。一見、気の弱そうな少女に見えるのだが、千秋はそこそこ気が強く、戦えば強い。だからしつこくちょっかいをかけ続けると、そのうち怒って投げ飛ばされる羽目になる。


 そろそろ怒られるだろうな、と千春は千秋の耳たぶを触る手を止める。


 ようやく苛立ちの原因が無くなり、本に集中しようとした千秋だったが、隣に人がいるのが落ち着かないため、本を閉じて元の棚にまで返しに行き、そしてそのまま図書室を後にする。


 その後を追いかけた千春が、図書室から出ると、そこで腕を組んで待っていた千秋がいた。


「なによ? 人の邪魔して」


 苛立ちを隠そうとしない幼馴染の強い視線を受け流しながら、千春は事もなげに言う。


「暇だった」

「帰れ」

「いいじゃん、手伝うからさー」

「邪魔してんのよ」


 千春の肩を殴って、千秋は移動を始める。


 痛い部分に入った肩を押さえがら、その後を追いかける千春である。



 前を歩く千秋の姿は、もみの木みたいだった。髪の毛は外に向かって流されており、下の部分はスカートが担っている。木の幹は千秋の脚だ。


 以前それを言うと、嬉しそうに笑っていたから、敢えてそういう髪形をしているのだろう。


 クリスマスになれば飾り付けでもしてやろうと考えながら、千春は千秋についていく。


 そしてやって来たのは、ガーデニング部が管理している花壇だ。


「今なに植えてるの?」


 その煉瓦で作られた花壇は、ガーデニング部の部員がそれぞれ自分の花壇を作り管理している。花壇の数は全部で五つで、そのうちの一つがまだ花の咲いていない状態だった。


「シクラメンよ」

「んーシクラメン。知ってる知ってる」

「十月だから、そろそろ咲き始めるわよ」


 見ると、ピンクや薄紫の蕾があった。


「いいねー」

「ところで、ちーちゃん――」

「言いたいことは分かる。でも一応聞こうではないか」

「遮らないでよ。部費、もう少し増やせない?」

「それ生徒会の権限あんまり強くないんだよねー、金が関係しているから」


 するとまた舌打ちをした千秋である。


「なんのために生徒会長やってるんだか……」

「学校の平和を守るためさ☆」


 前髪をかき上げながらそう言う千春。


「……あながち間違っていないのよね」


 そう言いながら、呆れたように笑う千秋であった。

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