八話「過去は忘れられても戻らず、現在は進む」

花道から弁当を受け取って、今日は昨日みたいにおじいちゃんおばあちゃんに捕まる事無く、交番に着いて中へはいる。

...昨日と同じで中は薄暗く、俺は周りを警戒しながら中へ入ってく。

仮眠室を横目で少し見てみるが中には誰もおらず、それではといれだろうかとそっちに向かう。扉をノックしてみるが反応は無い、ドアノブにそっと手をかけて少し引いてみる、どうやら鍵は閉めてないらしく隙間から声をかける。


「薬水先輩、また吐いてるんですか?」


しかし反応がない、何処だろうと思い振り向こうとした矢先、 反対の手から「ガシャン」と昨日も聞いた音が聞こえた。


「ここだよぉ...しんじんくぅん...」


声が聞こえた方向は俺が先程まで歩いてきた方向で慌ててそっちを見る。

そこには薬水先輩がいて、その腕には手錠がかけられていた。俺はゆっくりと薬水先輩の手錠の鎖の先をゆっくり辿ってみる。


いや、嘘だろ...?

その鎖の先には俺の腕があった。俺はなにかの勘違いだと思い、俺の腕にかかっている手錠から薬水先輩の腕にかかってる手錠へと視線を戻す。

うん、繋がっていた。


「これで、私のものだよ...しんじんく」


「薬水先輩!!」


次に写った光景は、確か...千代さんだったか。

千代さんが俺と薬水先輩を繋いでいた手錠の鎖をチョップで壊した。俺は目の前で起こった光景が信じられなかったが、時が遅くなったかのように、鎖の破片が宙へ舞っている光景が目に焼き付けられる。


「....」


「あ、手錠も外しますね」


バキッと俺腕にかけられていた手錠は、ポテチの袋を開けられるかのように裂けた。

怖い。シンプルに恐怖。

いや待てよ、もしかしたらそういうジョークグッズかもしれない...

そう考え直して薬水先輩に顔を向けると、薬水先輩は不満そうな顔をしたあと、「やっぱり興味がそそられるねぇ」と言って、口角を上げて不気味な笑い声が聞こえてきそうな興味津々な顔で千代さんを見ていた。


「えっと...凄い筋力...ですね?」


俺が恐る恐るそう聞くと、千代さんはにこにことした表情で答えてくれる。


「ないですよ全然!!これは力じゃなくて技術の方で...あ、後で教えましょうか!貴方なら壁を真っ二つにでき」


「少し気になるけど、教えなくて結構です!!」


壁を真っ二つとか聞こえたけど嘘だよな?

嘘だよね?別の次元じゃん。バトル漫画じゃん。というかバトル×ギャグ漫画でよく見る絵じゃん、やだよ?なりたくないよ?気になるけどね?気になるけどね?

というか技術と言ったのか?女性で手錠を壊せることができるってことは、本当に壁を真っ二つに?いや、さすがに嘘だろう。


「えぇ...教えたいのに〜」


「ちよくぅん...それを教えて相手が習得してしまったらつまるところ結婚になるんじゃなかったかぁい?」


「あ、そうでしたね。私って忘れっぽくて」


あっぶねぇぇぇぇぇ!!その情報早く教えてくれてまじ感謝です薬水先輩!!


「それで、習得しま」


「せん!」


思いっきり断った。

その後二人は嵐のように去っていき、俺はそれを見送ったあと警官服に着替えた。

そういえば...近くの交番キャラ濃ゆい人しか居ないのだろうか...

というか今思い出すと、同じ警察学校の同期もキャラが濃ゆかった気がする...鷹を使って犯罪者を捕まえる雀くんや、ヒーロー着地でどんなところから落下しても無傷の悪矢くん....うん。キャラが濃ゆい。

俺って他の人に比べたら普通だったのだろうか...いやまぁ...他の人に比べたらダメなのはわかるけど...。

とりあえず、今日も交番の中で誰か来ないかゆっくり待っておこう。

と言っても今日も誰も来ないだろう...なんて思っていると、慌てた様子で俺と同年齢ぐらいであろう土で汚れた作業着を着た男性がやってきた。


「お、落し物来なかったか!?」


俺はこいつの顔どこかで見た事あるなと思いながらも対応をする。


「何を落としたんですか?」


「指輪だ指輪!!紫の宝石が付いているヤツ!」


指輪と聞いて目を見開く、確かにそれはとても大事なものだし、土で汚れている作業着を着ているためおそらく農家であろうか...広大な畑の中小さな指輪を見つけるのはひと苦労だろう。


「し、少々お待ちください!」


そう言って、落し物ボックスの中を見るが、中はすっからかんで何も無かった。俺は言いずらそうにその男性にそのことを伝える。


「そ、そんなぁ...奮発して買ったのに...無理に仕事する時持っていくんじゃなかった...」


「お嫁さんも許してくださるでしょうから、お気を確かに!」


項垂れている男性を慰めていると、胸ポケットになにか光るものがみえた。


「あ、あの...胸ポケットになにか入っていませんか?」


「え?」


男性が胸ポケットに手を入れて何かを掴むと目を見開いて、素早くそれを取りだし目で確認する。

間違いなくそれは紫色の宝石がハマっている男性が探してたであろう指輪だった。


「よかったぁ....ありがとうつかむん!これで嫁さんを悲しませることはないぞ!!」


「良かったです...え?」


いまさっき...この人はなんと言ったつかむん?つまり俺の幼少期を知っている人物だ。

しかし、結婚報告など来てないし、見覚えもほんとんどない...いや、待てよ...1人だけ思い当たりがあった。


「もしかして、荘吉そうきち....か?」


川谷 荘吉かわたに そうきち記憶の中では確かいじめっ子...とうかかまって欲しいのかちょっかいを良くしていたのを思い出す。特に花道によくちょっかいを出していて俺と勇鬼に成敗されていた。

しかし本人は気にすることも無く、何度も色んな人に迷惑をかけ過ぎて、それで嫌われたのたのか、確か中学ぐらいには徹底的に無視されて不登校になってしまっていた。


「...久しぶり、つかむん。そしてごめんなさい...昔よく...ほら...ちょっかい出しすぎてただろ?それなのに良く話を聞いてくれて..」


そう言って荘吉は気まずそうな笑顔を向ける。


「本当は...顔を出さない方がいいかなとか思ってたんだが...指輪をなくしちまってここにあるかなと思って...」


「嫌。俺は気にしてないが...それより嫁さんいたんだな」


「そう言ってくれるとありがたいよ...お嫁さんは、俺が不登校の時期に良くしてくれた人でな...少し年齢は離れているが、俺にはもったいない人だよ」


「そうなのか、それは良かったな。そういえば、花道とかには謝ったのか?」


「顔は...その...気まづくて見せられてねぇ...手紙を送っる形で謝ったけど返信は来ねえな...まぁ、見られずに捨てられたのかもだが...」


「なるほど...、少し俺が伝えて置こうか?迷惑かもだが...」


「いやいい。謝る時は俺がきっちり謝りてえからな...あんがとよ、そんな事言ってくれて。俺なんかで良ければお前が何かに困ってたらなんでも言ってくれて、できる限り全力で手伝ったり、相談に乗るからよ」


そう言って、荘吉は交番から出ようとする。

俺はそれと呼び止めて少し違う場面かもだが、先に確認しようと聞く。


「山旅...勇鬼って...覚えてるか?」


その名前を言った途端、荘吉は顎に手を当てて考える動作をする。


「...すまねぇ...誰だ?都会の方で有名な人か?」


「...いや、なんでもない、答えてくれてありがとう」


「? おう、大丈夫だ。なんだ、その人物を探してるなら俺も探しておくが...」


「いや、小学生時代確かそんな名前のやついたような気がしただけだ」


「うーん。すまねぇ、本当に記憶にねえな...すまん!」


「大丈夫。それじゃあ仕事頑張ってな」


「おう」


会話を終えると、俺は荘吉を見送る。

そしてため息を履いた。


「勇鬼を覚えているのは...本当に俺だけなのか...?」


そう独り言を零しながら、デスクに着いている椅子に座り、頭を回転させる。


花道も荘吉もあのじいちゃんばあちゃんも、村の皆は本当に記憶にないように見える。

だとしたらなぜ俺だけ記憶があるのだろう...


鬼様...そうだ、確か俺が勇鬼の事を少し思いだ時、花道に聞いたら「鬼様じゃない?」と言った。しかし、勇鬼を鬼様と考えると少し違う点がある。

まず鬼様は、昔知った話によるとこの村に住み着いた鬼で、とある村人に惚れたという話だが、勇鬼は元々ここに住んでいたし...例えば鬼様が人になり代われる、鬼だとしたらなぜ俺に鬼の角を隠さないのだろう。そもそもそうした場合、あの本にそう書かれているはずだ。

そして俺は確かに村人なのだろうが最近まで離れていたから違うし....うーん。

分からない。

まだピースが足りない気がする。


花道に聞いたらおそらくそのピースが手に入るのだろうか...パトロールの時少し聞いてみるか?

いや、あいつは忙しいだろうし...いや、確か...

俺は渡された弁当箱を確認すると、店で売ってありそうな可愛らしい2段の弁当箱で、表蓋にはメモ帳で「食べ終わったら返してきてね」という可愛らしい文字とこれまた可愛らしい、鳥の絵が添えられていた。


この時世間話ついでに聞いてみるか。

しかし、花道と言っても鬼様に着いて知ってる情報にも限界があるだろうし、誰か一人でもいいからなにか知ってそうな人物を見つけたいところだ。


....とりあえず俺は、時間もちょうどお昼だし腹が減ったため、早速弁当を開けて食べ始めるのだった。

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