第2話 目覚め

男が目を覚ましたとき、まだ、頭がぼんやりとした。目の前に広がるのは、見覚えのない天井。冷たい木の床と、どこか古びた部屋の匂いが漂っていた。心臓が少し速く打つ。呼吸が浅く、体が重い――ただ、あの森で意識を失ったことだけは確かだった。

ゆっくりと目をこすりながら、周囲を見回す。どうやら、自分はベッドの上に寝かされているようだ。白いシーツに包まれ、薄手の毛布が掛けられている。その上に横たわる自分の体が、どこか異様に軽く感じた。

しばらく、考えを巡らせていると、ノックの音が聞こえた。声で応えると、

「――あ、目が覚めましたか?」

ドアが開けられると同時に、優しい声が響いた。日本人と思われる少女がこちらを見つめていた。その顔には、やや不安そうな色が浮かんでいる。彼女は白いワンピースのような服を着ており、おかっぱの黒髪で、年齢はまだ十代半ばくらいだろうか。目を細め、笑顔を浮かべながらも、心配そうに男に近づく。

「大丈夫ですか? あの時、すごく苦しそうだったから…」

その少女は、男の状態を気遣って声をかけてきた。

男は、ふと胸に手を当てる。息が少し乱れる。そうだ、喘息の発作が出たのだ。薬も吸入器もないまま、どれだけ苦しんだかを思い出す。

「…ありがとう。助かったのかな?」

口から出た言葉はかすれていた。全身の力が抜けて、しばらく黙ってしまう。しかし、少女はすぐに頷いた。

「はい、私たちが助けました。安心してください、もう大丈夫です。」

その言葉に、男は安心する一方で、どうして自分がここにいるのか、どこでどうやって助けられたのかが気になった。成人男性を目の前の女の子が一人で運べるとはとても思えない。

「……起きた?」

その少女の後ろから、もう一人の少女が姿を現した。彼女は腕を組んで立っており、少し警戒した眼差しで男を見つめている。最初の少女とは対照的に、クールな印象を受けるが、どこか落ち着いた雰囲気も漂っていた。ポニーテールでスポーティな見た目である。

男は、まだ頭がぼんやりしていたが、二人の存在を感じ取る。彼女たちが自分を助けてくれたことは分かる。だが、なぜ助けてくれたのか、その理由が気になる。どうして、この少女たちは自分に手を差し伸べてくれたのだろうか。

その時、最初の少女が少し躊躇しながらも、自己紹介を始めた。

「ごめんなさい、自己紹介が遅れました。私は田中咲那です。」

サナと名乗った少女は、少し恥ずかしそうに頭をかきながら、優しい笑顔を見せた。その表情には、男を安心させる何かがあった。

「佐藤智哉です。」

男も自己紹介を終え、目線がポニテの少女に向かう。

「鈴木結希、です。」

ユキはサナとは違い、少し冷たい調子で名前を言い、トモヤをじっと見つめた。警戒しているのか、それとも単に無表情なのか、判断がつかなかったが、その視線はどこか鋭かった。

トモヤは軽く頭を下げながら、感謝の言葉を口にした。

「田中さん、鈴木さん…ありがとうございます。お二人のおかげで助かりました。」

サナは安心したように微笑み、ユキは少しだけ頷いて無言でその場を静かに見守っていた。

トモヤは、ふと周囲を見渡す。まだ自分の状況が掴めない。あの森からどうやってここに運ばれたのか、全く覚えがない。頭の中で、たくさんの疑問が渦巻く。

「…ここは、どこでしょう?」

不安げに、トモヤは口を開いた。その問いに、二人は少し顔を見合わせ、しばらくの沈黙が流れた

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る