繋ぐ空に虹が架かる

ゆっけ

第1話-前編 「異なる世界」

第1話「異なる世界」


この世界は獣人と呼ばれるヒトとケモノのハーフ種族が人類の大半を占めている。

そんな世界の地球の一国『日本』

この日本では喪失技術ロストテクノロジーなどと呼ばれる特殊な武器は政府などに申請することで携帯することが出来る。

そんな日本の瀬坂せさか府、剣山つるぎやま市、星彩せいさい区の"有浦高等学校"

ここに通う1年生の熊獣人,天崎マルタ。

彼の友人には狼獣人の虹貞サグラ、龍獣人の風巻ナタマ、チーター獣人の氷柱ユガ


――――――――――――――――――


「ん…あれ……」

 マルタが目を開けると青い空が四方を囲んでいる、空気を切り裂く強風がマルタの肌を撫でる。

マルタ達は高いところから自由落下で落ちていた。

「………えぇぇ!?」

 マルタが慌てているとナタマが一言

「落ち着け、マルタ」

「そうだよマルタ、冷静に………」

 サグラはマルタを諭そうとするが、恐怖で声を塞いでしまった。

「着地なら、マルタが我輩たちの重力を操作すればどうにかなるだろう?」

 ナタマはいたって冷静に解決案を示した。

だが、マルタは何処か不安げにしていた。

マルタの持っている能力は『重力操作』であるが、高さが不明瞭であり、魔力が持つのかわからなかったからだからである。

「やるしかないよねぇ」

 覚悟を決めたマルタは能力を発動して重力を操作し

 落下速度をゆっくりにする事で事なきを得た。

「おっとっと、、何とか出来た…」

 マルタはナタマを見た。

「だから言っただろう?」

「……無事に唱えれた感じ?」

 ユガはきょとんとした顔で3人に問いかけた。

「どういう事!?」

 サグラはユガに掴みかかるがユガはケロッとしている

何故こんなことになっていたのかと言うと……

―数分前―

今は6月中旬の夕暮れである

「最近さぁ〜異世界転生とか転移系が流行ってるじゃん?」

 ユガがスマホを見ながらサグラへ問いかける。

「流行よりは少し前のジャンルじゃない…?」

 サグラは微妙に否定する。

 それを聞いてユガはサグラへ問いかける。

「1回ぐらいあんな体験したくない?」

「うーん……痛い思いはしたくないなぁ」

 サグラが否定的な意見をしているといつの間にかユガの隣に来ていたナタマが一言

「そんな幻想になにがあるのだ?」

「…………そんなナタマにはこれを持ってもらおう」

 とユガがある紙をナタマに差し出した。

その紙にはよく見るようなシンプルなデザインの魔法陣が書かれていた。

 3人がワチャワチャしていると、マルタがやってきて

「何してるの?」

 と、ナタマ達に訊ねた。

「ユガからなんか魔法陣を持ってくれと言われてな」

 そう言いながらナタマが持っている魔法陣は青白く、淡い光を放っていた。

「それじゃあやるか!」

 ユガが呪文を唱えている間に、マルタはナタマに質問していた。

「そういやこの魔法陣は?」

「え?知らないぞ?」

 そうナタマが言うとマルタは顔色を変えてナタマへ問う。

「えっ!?大事なところじゃないの?」

「ユガは変なことするやつじゃないだろう?」

 そんな会話してる所に割り込むようにサグラが2人に向かって言った。

「なっ……なんかヤバくない…?」

魔法陣を見ると、淡い光ぐらいだった光量がかなり増していた。

『アベストルアストローム!!』

 ユガが最後の一節を読み上げると共に、一気に光が増大し、4人を飲み込んだ。


――――


「まぁまぁ、ユガに悪気は無いし………で、ユガが唱えた魔法って?」

 マルタは周囲を見回しながらユガへ問いかける。

「異世界に転移するテレポート系の魔法らしいんだよね」

「周りには何も無さそうだが……」

 ナタマも周囲を見回しながら呟いた。

「うーん……」

 マルタが更に目を凝らして見ると…

「あっ…あっちに道っぽいのがあるかも」

 と、何もなさそうな方を指さした

「とりあえず…行く?」

 サグラは不安を混ぜながら提案した。

「行かなきゃ始まらないよね」

「それじゃあ……出発!」

 マルタ達は草木を越え、あぜ道へ出た。

「うむ……ここは右か?」

 ナタマの選択に合わせて、マルタ達は右へあぜ道を進み始めた。


 しばらく道を進んでいると……

「っ……ん?」

「どしたの?ナタマ」

 サグラがナタマに聞くとナタマは向こうに指を指しながら

「あっちに気配がする……2人か?」と呟いた

「…………居るね」

 ユガが凝視していると、左右で2人ずつ隠れているのが見えた。

「どうするの……?」

 マルタが小声でみんなに相談するとユガが提案した。

「とりあえず奴らの油断を誘おう」

 ユガの提案に合わせて、マルタ達はあえて歩いていった。

 さらに歩いた頃…

「……!」

 ナタマはバリアを展開して、奇襲を回避した。

「やっぱり…山賊か!」

 サグラが叫ぶと横から4人の多種族な山賊が出てきた

 A「お前らはもう終わりだ!」

 B「そこにいるやつは…龍族!?」

 C「生け捕りにするぞ!!」

 D「今日は大儲けだ!」

「…………」

 ナタマは思わず声を閉じるがマルタが

「俺の友達に手出しさせない!」と

 マルタが武器を構え、山賊と対峙する。

 A「なら貧弱そうなそこのやつから狙うぜ!」

 Aは1番近くにいたサグラに襲いかかった。

「貧弱とか言うな!」

 サグラは山賊の棍棒を掴み、ぶん投げた。

 A「!?」

 B「!?……絶対生きては返さねぇ!」

 一斉に3人がサグラへ襲いかかる。

 しかし、次の瞬間――

晴天一撃スカイハイ・バーストっ!!」

 マルタの空中からの強力な一撃が山賊達へ直撃する。

「奇襲しか出来ないならこんぐらい……まて、まだ気絶してないな?」

 ナタマがそう言うと近くにいたCがナタマの足を掴んだ。

 C「ッチ、バレたか、せめてお前だけでも攫わせてもらう!」

「これなら……」

 ユガがCへ杖を振り下ろすと、かなり鈍い音が鳴った

 C「…」

「これで大丈夫かな……?」

 不安げに呟いたマルタにユガがサーチ魔法を展開しながら

「近くにはもう居ない…っぽい」と返事した。

「それじゃあ、また歩くとしよう!」

 マルタ達は再び道を歩き始めた。

 20分ほど談笑しながら歩くと、開けた場所へ出た。

「大きな道に出てきたかな」

「そうっぽいね」

 前に出ていたマルタとサグラがそう言った。

「ならこの道歩けばどちらにせよ町には着くかな」

 その言葉にナタマとユガが

「なら今度も右に行こう」

「おーう〜〜クラピカ理論」


 マルタ達はナタマの言った通りに進み、道を降り始めた。

 30分ほど降ると景色も人工物が多くなっていき、町の入口へ辿り着いた。

「疲れた……」

 そう言ったマルタは汗を額に貯めていた。

「とりあえず…大きな町っぽいし、宿を借りに行こう」

 街に入ろうとしたユガをナタマが静止しながら

「待て、我輩達はこの世界の通貨が分からないぞ…?」

 するとサグラが重そうな袋を手に持ちながら

「あっ、山賊から通貨っぽいの全部掻っ攫ってきたから……何日かは大丈夫じゃない?」と言うと、ユガが

「……サグラって自然にヤバい事するのね」と独り言を零した。

 その後、マルタ達は街の宿の一室を借り、その一室で休憩していた。

借りた部屋は洋室で、ベットが2つあるなかなかに大きい部屋だった。

「ふぅ……さてと………どうしよう」

 ベットに腰掛けながらマルタは呟いた。

「せめて帰る方法が分かってれば良かったんだけど……」

 椅子に腰掛けたユガが繋がるように話した。

「まぁ、どうにかなるだろう」

「ナタマっていっつもそんな感じだよね…」

 2人はそんな感じだった。

 マルタ達が頭を抱えていると…

「とりあえずさ……この世界の情報を少しでも集めるために周囲を探索しようよ」

 とユガがみんなに提案した。

「俺は賛成だけど......二人は?」

マルタは椅子でゆったりしているサグラとナタマへ問いかけた。

「僕もそれでいいと思うよ、ナタマは?」

「我輩もそれでいいぞ」

 そうして、準備を終えた4人は宿から町へ繰り出した。

街の景色は、中世ヨーロッパのような木材と石を基調とした家々があり、多種多様な獣人たちが暮らしていた。

「……なんか視線が気になるな」

 最後尾を歩いていたナタマが1歩前を歩いていたサグラに相談した。

4人の姿はこの時代には明らかに不適であり、注目を集めるのは無理もない。

「……気のせいでしょ」

「そんな物か……?」

 マルタ達は大通りから逸れ、横の裏道から街の入口に出た。

「この先はこの街から抜けるみたい」

 マルタは看板を読みながら呟いた。

「なら、周りの環境探ってもいいんじゃない?」

「それでいいと思うぞ」と2人がマルタへ話した。

 4人はそのまま街を抜け、小道を歩いていた。

 ある程度歩くと…突然ナタマが、自身の特殊能力であるドーム型シールドを展開した。

「ん...何か来るぞ」とナタマが叫ぶ。

 ???「……別に悪い人じゃないよ?」

「誰!?」

マルタは声の聞こえた方向に向いて尋ねた

そこには深緑色のローブを身につけた虎獣人が近づいてきた。

ナタマはシールドを閉じながら???へ近づいた。

 ???「………あっ、僕の名前はナイト、不安にさせて申し訳ない…」

「ナイト君……どうして俺達に?」

 マルタの質問に答えるようにナイトは関わってきた理由を語った。

「……最近あの街で犯罪行為が多くなっているんだ……だから見ない顔の君達を…」

「…………なら仕方ないかなぁ」

 ユガは納得いかない感じに反応した。

「君たちは何か悩んでいる感じがするし…何か手伝わせてくれないか?」

 ナイトがそう言うとマルタが

「別に俺は気にしてないから……いいよ!」

 その後、「マルタが良いならまぁ……」と3人は呟いた。

「……ありがとう!実は僕、錬金術師なんだ」

 ナイトがそう言うが、4人は首を傾げる。

「錬金術……?世界史とかで見たことあるけど……」とユガが言う。

 ナイトは思わず「えっ?」と声が漏れる。

「錬金術って結局失敗したやつでしょ?」

 サグラの言葉は至極真っ当なものであった。

 なにせ、4人の錬金術への認識は『古代から中世にあった、卑金属を貴金属に変換したり、不老不死の薬を得たりすることを目的とした技術』程度のものだった。

 ナイトの発言も話半分に聞いている4人にとっては微妙に理解し難いものだった。

「……なら僕の家で実演するよ、着いてきて!」

 ナイトがそう言うと彼の背中に白い翼のような物が生えた。

「えっ……!?」

 マルタ達はいきなりの変化に驚愕する。

「これが錬金術だよ!………半分ぐらい魔法との掛け合いだけど」

 ナイトはそう言いながらマルタやサグラを抱えて飛んでいく。

「我輩も飛べるぞ」

 ナタマはナイトについて行きながらそう言った。

「あれっ……?見た感じ鳥系の種族じゃないのに!?」

「我輩は龍族だぞ?」

 驚くナイトに、ナタマは平然のように語った。

「龍族……昔見た歴史書には載ってたけれど、存在していたんだ……!」

「そう……か…」

 ナタマはそんな反応のナイトに少し悲しい顔をした。

「ねぇねぇ、ナイト」

 しれっと杖に乗りながら着いていくユガが質問した。

「そういやサラッと飛んでるけど……どうしたの?」

「錬金術って具体的に何するの?木炭からダイヤモンドとか作ったり……?」

 ユガは半信半疑な声色でナイトに聞いた。

「ユガってそうゆうの割と好きじゃない?」

「うーん……言われればそうなんだけどさ…」

 サグラの疑問にユガは言い兼ねる。

 しばらく移動していると………

「あっ、見えたよ!僕のアトリエ!」

 そこには中々大きい樹木の下にぽつんと一軒家が建っていた。

「…中々な家の広さだな」

「ここら辺は僕の所有地だからね」

 とナイトは得意げに語った。

「僕の家にようこそ!」

彼の家はパステルブルー色の木材を主軸に、白色の装飾や藍色の屋根など、空をイメージされているような家の外装だった。

ナイトの家に入ると、リビングとダイニングがあり、隣の部屋は寝室だろうか、ベットが置いてあった。

5人が椅子に腰掛けると、マルタがナイトに向かって

「ねぇ、傍の大きな木ってなんの木なの?」と質問した。

「それはね……これなんだ」

するとナイトは鞄から果物のような物を取り出した。

それは空色をベースにしているが中身は宝石のような輝きを放っていた。

 「何これ?」

 「なんか宝石みたいで綺麗だけど…」

サグラとユガが覗き込みながらナイトに訊いた。

「これは『宝果石ベリージュエル』と言って、錬金術の重要アイテムなんだけど、ここら辺ではあの木でしか採れないんだ」

とナイトは説明した。

説明を聞いてナタマが質問した。

「そうか…んでこれをどうやって使うのだ?」

するとナイトが椅子から立ち

「それじゃ、使い方の説明ついでに僕の錬金室を紹介するよ」

 そう言ってナイトが指を鳴らすと、寝室のドアが変化した後、ドアの先の景色が変わった。

「これで僕の錬金室に繋がったよ、ついてきて!」

「その魔法は!?」

ユガはナイトの行使した魔法に目を輝かせた。

「そう言うのは後で聞け」

「早く行くよ」

サグラとナタマは呆れながらユガを置いていこうとした。

「一番乗り〜!」

マルタはノリノリでナイトへついて行った。

「ちょ…!?置いていかないで!」

ユガは慌ててドアへ駆け走る

「全員入った?」

そうやってナイトがドアを閉めた。

部屋の中は薄紫色のカーペットの上に置いてある大釜を中心に様々な本や武器、色々な瓶が棚に置いてあった。

「見たことない物ばっかだな〜」

 サグラは棚に置かれた瓶を眺めながら言った。

 何かの欠片、謎の果実の漬物、めっちゃヤバそうな薬……数えたらキリがなかった。

「うーん……今日は〜」

 ナイトは棚から複数の素材を取り出しながら呟く。

 ナイトが取り出した素材の札にはこう書かれていた。

 ・天鷹の爪

 ・エンプラーの魔力漬け

 ・スターストーン

「全部何か……怪しいな」

「そうだね…」

ユガとナタマは小声で会話する。

「それをどうするの?」

マルタがナイトへ質問する。

「この素材を小鍋の中に入れて……」

ナイトはそう言いながら素材を鍋の中に入れ、手際よく作業を続ける。

「…何ができるんだろ」

安全な端っこのほうで眺めてるサグラが口篭もった。

「錬金術ってやっぱり摩訶不思議なんだな〜」

目を輝かせながらユガが言った。

テキパキと作業を進め、大釜の中身が黄緑色に変化している中、ナイトは手持ちのカバンからある瓶を取り出した。

「最後にこれを入れたら…!」

ナイトが瓶の中身をいれると、大釜の中身が光り輝き、大釜の液体の色が黄色になり、ナイトの表情が一気に明るくなった。

「これは何?」

マルタが釜を覗き込む、中身の液体はどこか甘い匂いがしているがどこか不思議な力を感じていた。

「これは『ホバーポーション』だね、…実際に試してみる?」

ナイトが説明しながら空瓶にポーションを詰める。

そして4人は(気になるけど…自分が飲むのはちょっと……)と同じ考えをよぎらせていた。

「…じゃんけんで決めよう!」

マルタが真っ先に声を上げた。

3人も許諾し、じゃんけんして犠牲飲む人を決めることになった

「「「「じゃんけん……!!」」」」


ーーーーーーーーー


ナイトのアトリエを後にし、外に出た5人は開けた場所に来た。

「改めて、嫌なのだが…」

壮絶なじゃんけんを経て、ユガとの最終対決に敗北を喫したナタマが、薬を飲むことになったが…なかなか覚悟を決めきれずにいた。

「…早く飲んでよ」

サグラが圧をかけながら催促するも未だに飲めずにいた。

「……毒は入ってないから大丈夫だよ?」

ナイトが優しくナタマを説得する。

「ええい!為せば成るだろ!」

ナタマは自棄気味になりながらもポーションを飲み干した。

…するとナタマの体に変な感覚が走る

「…大丈夫?」

マルタが不安げにナタマへ問いかける。

「どこかふわふわしているが…別に変なところはないな…」

そんな会話をしているとナタマの体が勝手に浮き始める

「ほんとに大丈夫!?」

ユガが心配するがナタマは呑気そうに返事した。

「力を使わなくても浮いてるなんて不思議な感覚だな」

地上から1-2mほど浮いたところでナタマは、ゆっくりと回転し始めた

「これがホバーポーションだけど……どう?」

「別に我輩には関係ないが、飛べない奴らには便利だと思うぞー」

ナタマは冷静に薬の感想を伝えた。

しばらくふわふわ回転するナタマを眺める4人だったが…

「…飽きてきたんだが」とナタマが4人に伝えてきた。

「俺も同じこと考えてた」

マルタはあくびをしながら喋った。

「そろそろ効果が切れると思うけど…」

ナイトはちょっと不安そうに口にした。

するとナタマの体が地面に近づき、ゆっくりと地面に落下した。

「ま…楽しかったな」

ナタマは背伸びしながら喋った。

「それじゃ、寝てる二人を起こそうか」

マルタはそう言いながら眠ってしまっていたサグラの肩を揺らして起こした。

「んぇ…終わったの?」

サグラが目をこすりながら尋ねた。

「終わったよ、ほら……ユガも起きて!」

マルタがサグラへ説明しながら、ユガの肩も揺らして起こす。

「自分は寝てないよー?」

未だに眠たげにしながらも、ユガは寝ていないと主張する。

「はいはい……そういうことにしておくぞ?」

ナタマが呆れながらも返事をした。

異世界で錬金術を体験をしたマルタ達だったが、空はもう夕焼けを描いていた。

「ナイト君……ありがとうね!」

マルタはナイトへ改めて感謝を示した。

「大丈夫だよ、………もう夜も暗いし僕が街まで送るよ」

ナイトの言葉に甘え、4人はナイトに送ってもらい、最初の街まで戻ってきた。

その後1度宿に戻り、この世界の食事や風呂をそれぞれ堪能し、再度宿の部屋に戻ってきた。

「何か、旅行した感じで楽しいな」

「そうだね……俺達、出会ってまだ1ヶ月もないのにこんなに仲良くなって……」

マルタとナタマは椅子に座りながら喋っていた。

空は程よく暗くなり、月明かりが室内を淡く、優しく包み込むように照らしていた。

「あっ!星が良く見えるかも」

マルタは少しわくわくしながら宿屋の窓を開けた。

「……綺麗だな」

空には満天の星々が瞬き、静寂な時とまだ冷たい空気が彼らに捕らえ所の無い気持ちを作り出す。

「綺麗だね……」

いつの間にか起きていたサグラが夜空を見ながら呟いた。

「うん…本当に………」

マルタもそれに続くように頷いた。

高校入学から1ヶ月もない彼らに降り注ぐ摩訶不思議な体験……今はそんな非日常の中にある平穏。

解決策もない今の4人にはそれを噛み締めるだけなのだった。

「そろそろ我輩は寝るぞ、どうせ明日からも大変なのだ、お前らも早く寝るんだぞ」

ナタマはそう言って窓を閉めて、布団の所へ向かっていく。

「「はーい」」

2人もそれに従い、布団へ潜り、目を閉じる。

「おやすみ〜……」

最後にマルタがそう呟いて眠りについた。

ユガの不意に放った一言から始まった異世界転移……

そんな日が終わりを告げた。


第1話前編 [完]

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