番外編:happy Valentine

 神凪は大きく息を吸い込み、元気よく声を上げた。


「Happy Valentine!」


「ハピバレ」

「ハ……? って何ですか?」


 神凪が驚いたような顔をする。


「え!? 芽衣ちゃん、バレンタイン知らないの!?」

「まあ、元々日本の行事じゃないしな」


 頼が冷静に答えると、神凪は腕を組み、「ふっふっふ」と怪しげな笑みを浮かべた。


「それじゃあ説明しよう! バレンタインとは、2月14日に女子が異性へチョコレートを渡すラブラブ行事である。そして!」


 意気揚々と語る神凪に呆れた表情を浮かべる頼をよそに、一息ついて、再び口を開く。


「友チョコ、本命チョコ、義理チョコ、世話チョコ……etc」


 神凪はカッと目を見開き、力強く宣言する。


「チョコを、たくさんの意味を込めて渡せる、そんな日なのだ!」


 満足げに言い終えると、芽衣は「へ〜」と言ったような表情を見せた。


「なんか知らないうちに、変な行事が増えてますね」

「変と言うな、変と〜」


 神凪が頬をぷくっと膨らませた、そのとき――


「異議ありっす!」


「むむ! その声は!」


 声のする方へ顔を向けると、遠くの方に、豆粒ほどの大きさでオットーと『ソティリア』の仲間たちが見えた。


「え、遠っ」

「そこの君たち〜、もうちょい近づいてくれないかな〜?」


 神凪の言葉を受け、オットーたちは近づいてくる。


 そして――


「異議ありっす!」


「それはもう分かったから。で、異議ありってどういうこと?」


 軽く返され、少し寂しそうな表情を見せるオットー。

 しかし、気を取り直し、息を吐いて口を開く。


「そんなのもちろん、日本のバレンタインのあり方に決まってるっす!」


 その言葉に、神凪は首を傾げる。


「え? バレンタインってどこも同じじゃないの?」

「ノー、ノー! チョコを渡す習慣なんて、日本だけっす!」


 神凪は眉をひそめ、疑わしげな表情を浮かべる。


「え〜、本当に?」

「本当っす! 発祥地のヨーロッパでは、“チョコを渡す”んじゃなくて、“家族に贈り物をする”のが一般的なんすっから!」


 神凪がさらに疑いの目を向けると、ヴェネが笑いながら口を開いた。


「はは、本当だよ。元々ヨーロッパに住んでいた僕らが言うんだ。嘘じゃないよ」


 すると頼は「そういえば」と思い出したように口を挟む。


「ソティリアの海外勢は、元々どこ出身なんだ?」


 それに答えるように、オットーが手を挙げる。


「僕はドイツっす!」


 アイリーンも続く。


「私は……アイルランド……」


 ヴェネも微笑みながら答えた。


「僕は ギリシアギリシャ だよ」


「へ〜、みんなヨーロッパ出身なんだな」


 すると、琺瑯時(ほろうじ)がつまらなそうな顔をしながら、ポツリと呟いた。


「てか、バレンタインってチョコ渡すの、日本だけなんだな。初めて知った」

「え? 本当ですか?」


 実狡が「マジか」と言わんばかりの表情で琺瑯時を見る。


「世間知らずな僕でも知ってたのに……」

「あ? 喧嘩なら買うぞ」

「すみませんでした!!」


 琺瑯時が鋭い目つきで睨みつけると、実狡は即座に腰を低くし、速攻で謝る。


「はは、喧嘩はやめなよ」


 ヴェネが笑いながら仲裁に入ると、芽衣がポツリと呟いた。


「いろんな国で、行事のやり方が違うんですね……」


 その言葉に、ヴェネはニコッと微笑みながら 「そうだよ」 と一言返す。


「なんか、他の国ではどうなのか知りたくなってきた」


 神凪は顎に手を添え、一息吸い込むと――


「教えてぇ〜、“字の文”センセ〜イ」


…………。


  もちろん、答えが返ってくることはn ――


「そういうのいいんで、教えて〜」


……………。


「おい、困ってるぞ。メタ発言と、作中のキャラが字の文に話しかけることに」


 頼が救いの言葉を投げかける。


「大丈夫、大丈夫! これ入れとけば!」


  →※あくまでも番外編としてお楽しみください


「せこ」


 本当に頼様の言う通りでございます。


「ちょっと説明してくれるだけでいいからさ〜」


……………了解しました。


「いいんっすね」

「優しい地の文だね」


――オットーさん、ヴェネさん。反応しないでください。


「あ、はい。すみません(っす)」


 二人が同時に謝る。


 それでは、少しだけ 他国のバレンタイン事情 についてお話ししましょう。


「お〜!」(パチパチ)


 みんなが手を叩く。


 まず、 チョコレートを渡す国 は「 日本・韓国・台湾 」。

 また、一部ではありますが「 イタリア・アメリカ 」でも、まれにチョコを贈ることがあるそうです。

  さらに「台湾」では、女性ではなく男性からチョコを渡すのが一般的 とのこと。


「へ〜」


 神凪が、興味深そうな表情を浮かべる。


 そして――

 チョコレートの本場「ベルギー」では、チョコではなく花束やメッセージカードを贈るのが主流。

 ちなみに ベルギーでも、男性から贈るのが一般的。

 他のヨーロッパ諸国でも、チョコではなく 花束やメッセージカード、アクセサリー などを渡す習慣があり、バレンタインは 「恋の日」 や 「恋人たちが愛を育む日」 として認識されているそうです。


「よく知ってるっすね……」


  ※諸説あり


「あ、保険入れてきた」


  ――余談ですが。


「 サウジアラビア・イラン・マレーシア(一部地域)・インドネシア(一部地域)・パキスタン・ブルネイ・モルディブ 」などの国々では、宗教・文化・社会的な理由により バレンタイン自体が禁止 されているそうです。


「話そらそうとしたね……それにしても、バレンタインを禁止してる国があるなんて初めて知ったな」


 ヴェネさん。一言余分です。


「ごめんなさい」


 ヴェネが素直に謝ると、神凪が笑顔で一言。


「ありがとう〜」


どういたしまして。

あと念のため……


※あくまでも番外編としてお楽しみください


「ありがとう〜」


「ちなみに、誰かチョコ用意したよ〜って人、いる?」


 ヴェネが何気なく投げかけた質問に、反応する者がいた。


「あ……私……いいですか?」


 アイリーンが控えめに声を上げる。


「お、どうぞ」


 ヴェネは少し期待しながら促した。


「えっと……オットーさんに……」


「え!? 僕っすか!?」


 アイリーンは恥ずかしそうに顔を赤らめながら、オットーへと歩み寄る。


「いつもありがとうございます……。去年は何も渡せませんでしたが、今年こそはと思い用意しました……」


 オットーは驚きつつも、嬉しそうにチョコを受け取る。


「あ……ありがとうございますっす!」


 その嬉しさからか、思わず涙が滲む。


(僕、バレンタインに何かをもらったの、初めてっす……)


 そんなことを考えながら少ししんみりしていると、ヴェネが別の意味で涙を流しながら祝福の言葉をかける。


「よ……よかったね……」


 その後、誰もチョコを渡す者はおらず、静かに時間が流れた。


「これで終わりですかね」


 実狡がそう呟くと、琺瑯時がまたしてもつまらなそうな顔で、帰る準備を始める。


「実狡、帰ったら俺にチョコ用意しろよ」

「え!? あ、はい」


 二人に続くように、ソティリアのメンバーも帰り支度を始める。


「急に来ちゃってごめんね。楽しかったよ」


 ヴェネが組織のトップらしく礼を言い、皆は帰っていった。


「騒がしい奴らだったな」


 頼がボソッと呟くと、神凪が笑顔で頼の名前を呼ぶ。


「頼」


「ん? なんだ」


 頼が神凪のほうへ振り向くと、神凪が綺麗に包装された小さな長方形の箱を手に持っていた。


「あの……さっき恥ずかしくてあげられなかったけど、よければ……」


 頼は驚いた表情を見せたあと、にっこりと笑顔を作り、優しく箱を受け取る。


「ありがとう。大切に食べる」


「へへ……」


 神凪も少し照れくさそうに微笑む。


 すると、芽衣がそのプレゼントをじっと見つめながら、一言。


「中身、見てみましょうよ。気になります」

「確かに」

「え!?」


 プレゼントを開ける流れになり、神凪の額に冷や汗が流れる。


「い、いや〜……あとでゆっくり食べてほしいな〜なんて……」


 神凪の反応に違和感を覚えた頼は、彼女のお願いを聞き入れず、スルッと包装を解いた。


「あ!」


 神凪の驚きの声と同時に、箱の中から現れたのは――

コンビニなどで買える、アーモンド入りの一口サイズのチョコ。


  そのまま、商品丸ごと入っていた。


「あ〜……えっと〜……それは〜……」


 神凪が言い訳しようとするのをよそに、頼は普通に嬉しそうな顔を見せる。


「なんだ、びっくりしたな。中に虫のおもちゃでも入ってるのかと思ったぞ。普通に嬉しいよ。ありがとう」


 その言葉に、神凪は 「ホッ」 とするどころか、逆に罪悪感を覚え、顔を真っ赤にしながら頭を下げた。


「来年は……手作りします……」


 頼はよくわからなそうな顔をしながら、チョコをポケットへしまう。


  ――ちなみに。


 頼は学生時代、バレンタインになると 大量のチョコをもらっていた ので、手作りしていないことに罪悪感を感じる神凪の気持ちが、いまいち理解できなかった。


ここだけの話、である。


(今回も……全然話についていけなかったな〜……)


 そんな二人を隣で見ながら、芽衣は心の中でそう思うのだった。


「あ、芽衣ちゃんはチョコ食べられないから気をつけてね」

「猫妖怪でもダメなのか……?」


――ガーン。


  芽衣の、あまりにも残念そうな顔が滲み出ていた。

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