第四話:平行線
練習が始まると、頼と由香は二人で仲良く練習に行ってしまった。
「はぁ〜〜」
神凪は寂しそうにため息をつく。
(いや、なんで寂しいみたいな雰囲気出してんの、自分!)
気持ちを切り替えるように、自分の頬を軽く叩く。
(ちゃんと本気を出せるように練習しよ!)
神凪はボールカゴからボールを手に取ると、コートへ向かおうとする。
その時、目の前に二つの影が現れた。
そこには、先に練習に向かったはずの頼と由香が立っていた。
「あの……泉火さん」
神凪が口を開く前に、頼が話し始める。
「ん? どうしたの? あ、名前呼びでいいからね」
ナチュラルに親しくなるため、名前で呼ぶように促す。
「あ、はい。えっと、神凪さんってバレーできたりしますか?」
神凪はキョトンとした表情を浮かべる。
「うん? できるよ。ていうか、私バレー部だし」
その答えを聞いた頼は、安堵した表情を浮かべ、小さく頭を下げて言った。
「あの、バレーを俺たちに教えてくれませんか?」
「うん、いいよ。……っていうか、『俺たち』?」
(バレー苦手なのかな?)
そう疑問に思いながらも、当然のように了承する。
(ていうか、俺たちってことは……)
恐る恐る神凪は頼の後ろに目をやると、由香が自分に指を差して立っていた。
(やっぱり……)
さっき頼との会話に割り込んできたせいか、神凪の中で由香の印象はあまり良くない。
おそらく、あの横入りもわざとではなかったのだろうが……。
(この子、あんまり好きじゃないけど……まあ、いっか)
「あ〜、なるほど。了解、任せて! 何でも聞いて!」
「さすが泉火さん!」
由香が笑顔でそう言うと、神凪も「もちろん!」と気持ちを押し込めながら胸を張る。
そして、神凪は20分間、頼たちの練習を見て思った。
(この人たち、めっちゃ下手!)
そう、驚くほどのド下手だったのだ。
(レシーブをやらせたらボールが全然腕に当たらないし、スマッシュも簡単なものをやらせてみたら全然手に当たらない……。当たったと思ったら人に飛ばすし……)
「僕ら、全然ダメだね〜」
軽く笑う由香に、少し呆れ気味の目を向ける頼と神凪。
そのとき体育館にホイッスルの音が鳴り響く。
「はーい、練習はそこまで。それじゃあ、今から実際に試合をやってみますよ〜」
(あ、終わった)
案の定、試合では勝てるはずもなく……。
それでも、なんとか同点ギリギリに届かないくらいには頑張れた。
(やばい……久しぶりに、こんなに疲れた)
ひどく息を切らしながら体育の授業を終えると、神凪は先生のもとへと小走りで向かい、話しかける。
「先生、少し頼み事があるんですけど……」
先生との話を終え、更衣室へ向かおうとしたとき、友達二人組がこちらへ走ってくる。
「さっきの試合、すごかったね!」
「マジで感動したし!」
その言葉に、神凪は疲れと笑顔が入り混じった表情を見せる。
「……大丈夫?」
「大丈夫だよ! ただ……ちょっっとだけ疲れただけ!」
明らかに「ちょっと」のレベルではないほど疲れた顔の神凪を見て、友達は優しく声をかける。
「ちょっとには見えないけど……まあ、一旦早めに教室に戻って休みな」
そう言いながら、神凪の背中をそっと押す。
「了解〜。ありがとうぉ〜」
優しい友達に感謝しながら、体育館を出ようとする。
そのとき、体育館の一番後ろにある長椅子に座っている頼と由香が目に入った。
瞬間、頼とばっちり目が合う。
神凪は思わず微笑みながら手を振った。
すると、頼も応えるように手を振り返す。
そうして体育館を出ると更衣室で着替えを済ませ、少し早めに教室へ戻り、自分の席でうつ伏せになる。
そして、先生との会話を思い出した。
***
『先生、少し頼み事があるんですけど……』
『ん? どうしたんですか?』
『明日の放課後、確か部活がない日だったと思うので、体育館を借りたいんです』
『え!? 急にどうしたんですか?』
先生は驚いた顔を浮かべる。
『バレーの練習をしたいんです。無理にとは言いません。正直、ダメ元のお願いなので……』
申し訳なさそうに先生を見る神凪。
先生は小さく微笑みながら頷く。
『分かりました。他の先生方に相談してみますね。ただ、一つだけ聞かせてください。なぜ急にバレーの練習を? 練習だけなら、部活でできると思うのですが』
その問いに、神凪は少し顔を赤らめながら小声で答えた。
『頼くんが……試合で負けて、悔しそうにしてたので。少しでもできるようにしてあげたいなって……』
先生は再び驚いた表情を浮かべると、微笑みながら一言。
『青春ね〜』
『え!? 別にそういう意図ではないですからね!』
***
(なぜか、あの会話が心地よく感じた)
そう考えながら、神凪は誰にも見られないように机に伏せ、そっと微笑んだ。
そして放課後。
神凪は一人で下校していた。
理由は単純。
今日はみんなが部活の日だったが、自分は休むことにした。
どうしても買いたいものがあったから。
今日は、神凪の親の結婚記念日。
そして……不本意ながら、神凪にとっての初恋(?)をした記念日でもある。
そうして訪れたのは、花屋。
すでに買う花は決めていた。
「キキョウとコチョウランを二本ずつください」
少し間を置き、もう一言付け足す。
「あと、ペンタスも」
それらを購入すると、ウキウキしながら家へと足を進める。
先ほど買った花は、今日という日にふさわしい花言葉を持つもの。
花言葉にはあまり詳しくないが、頑張って調べて見つけたのだ。
「喜んでくれるかな〜」
そう両親が笑顔で喜んでくれる光景を想像しながら呟くと、マンションに到着し、階段を上がって自宅へ直行する。
「ただいまぁ!」
いつもより少し元気を込めた声を響かせる。
しかし、玄関を開けた瞬間、目の前に広がっていたのは――
赤い液体。
まるで何かを引きずったかのように、それはリビングの扉まで続いていた。
「え?」
思わず声が漏れる。
状況が理解できない。
頭が追いつかないまま、神凪は本能的にスマホを手に取り、警察へ電話しようとする。
――親は無事なのか?
いや、無闇に中へ入るほうが危険だ。
そう判断した瞬間――
ドンッ!
突然、背中を誰かに押された。
「きゃっ!」
バランスを崩し、赤い液体の上へ倒れ込む。
ビチャッ
嫌な音が響いた。
倒れた拍子に、少しドロッとした液体が衣服にべっとりと付く。
「ひっ……!」
すぐに立ち上がろうとするが、手元にスマホがないことに気づく。
(さっき転んだときに……)
必死に探そうとしたそのとき――
バタンッ!
突然、背後で扉が閉まる音がした。
反射的に振り向く。
そこには――
ガタイの大きな男が、神凪を見下ろすように立っていた。
「ぁ……ぁ……」
恐怖で声がかすれる。
男がゆっくりと手を伸ばしてくる。
「やだ! やめっ……うっ……」
その手は神凪の首へと伸び、力強く掴むと締め付け始める。
「や……め……」
苦しくて声にならない。
そのとき――
ギィ……
リビングの扉が開いた。
同時に、首を絞める力が緩む。
「がはっ! はぁ……はぁ……」
肺に酸素が戻るのを感じる。
しかし次の瞬間――
男の手が神凪の顔を掴み、強引にリビングの方へ向けさせた。
そこには、さらにガタイの大きな男が、何かを両手に持って立っていた。
その手には、ありえないものが握られていた。
「あ……ぁ……」
声が出ない。
いや、こんなものを目の当たりにして、声が出せるほうがおかしい。
神凪は本気でそう思った。
なぜなら――
今朝、普通に出勤していったはずの父親が――
首だけの姿になって、片手に掴まれていたのだから。
そして、もう片手には意識が朦朧としている母親。
「あぁ……やっと来たか」
一番ガタイの大きな男が、返り血を浴びた姿で口を開く。
「よかったじゃねえか」
ニヤリと笑う。
「死ぬ前に、真実を自分の口から話せそうで」
男は母を神凪の前へ投げ捨てると、腰から剣を抜き、母へと向ける。
「さぁ、さっさと話してやれよ。今までの家族ごっこの“真実”をよ」
またしても理解し難い言葉が飛び出す。
その言葉に押されるように、母が口を開いた。
「神凪……ごめんね……。なんて言えばいいか、わからない……。ただ純粋に、私は、お父さんは……」
神凪はその言葉の意味をすぐには理解できなかった。
「おせぇ」
男は苛立ったように呟くと、剣を母の手の甲へ突き刺した。
「ぁぁぁぁぁっ!!」
母の悲鳴が、廊下中に響き渡る。
涙を浮かべながら、彼女は続けた。
「私たちは……神凪を拾っただけの……親でもなんでもない、ただの他人……」
「え……?」
神凪の口から、思わず声が漏れる。
「私は、昔から子供を産めない体で……。でも、それでも子供が欲しくて……。施設から迎えようか、なんて話をしていたときに……」
母は神凪の顔を見るのが辛くなったのか、視線を落とす。
「ゴミ置き場で、籠に入った神凪を見つけたの」
ボロボロと涙を流しながら、彼女は続けた。
「運命だと思ったの。神様からのプレゼントだって……本気で思った。でも……籠の中には、神凪と一緒に“紙”も入ってた。今でも、しっかり覚えてる」
一息つくと、母は震える声で言った。
「“
心が張り裂けそうな思いになる。
それでもなお、なぜか――怒りどころか、悲しみさえも湧いてこない。
ただ、心の中は“無”で埋め尽くされていた。
「ごめんなさい……。でも、それでも私は、あなたの母親だと本気で思ってる。だから……!」
母は最後の力を振り絞り、一番ガタイの大きい男の手から離れると、神凪の後ろにいた男を突き飛ばす。
その瞬間、男の手から神凪の体が解放された。
「逃げて!!」
――その言葉を聞いた瞬間。
一瞬、神凪の心の中で何かが動いた気がした。
次の瞬間、目の前に文字が浮かび上がる。
【特殊スキル: 神願奪取 取得の為の条件、精神的決意が定まりました………取得に失敗。代用スキルを取得に挑戦………成功しました】
そして、一度文字が消えたかと思うと、再び現れる。
【特殊スキル: 現能操作 取得の為の条件、精神的決意が定まりました】
――訳がわからなかった。
でも、少なくとも今の状況でどうにかできるものではない、と直感的に悟る。
神凪はすぐさま自宅を飛び出し、マンションの階段へ向かおうとする。
しかし――
階段は、ガタイの大きな男たちで埋め尽くされていた。
(ここから逃げ切るには……)
必死に考える。
どうすればいい? どれが最善の方法なのか?
そして、導き出した答えは――
三階から飛び降りる。
落ちれば大怪我は間違いない。
だが、捕まれば……それは“死”を意味する。
そして――
ドサッ!!
着地した先には、ゴミ袋が大量に散らばっていた。
「助かった……?」
そう思ったのも束の間、 マンションの入り口から、男たちがゾロゾロと出てくる。
「やべっ!」
神凪はすぐに立ち上がり、駆け出す。
そのとき――
着地に使われたゴミ袋の中から、一枚の紙が舞い落ちた。
“
――まるで、それが運命だったかのように。
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