Subjects Runes ~高速詠唱と現代知識で戦乱の貴族社会をのし上がる~
くまひこ
第1章 超速爆炎の新入生
第1話 ボロンブラーク騎士学園
俺はアゾート・フェルーム15歳。
今日からボロンブラーク伯爵領にある騎士学園に入学する。
貴族の子弟は15歳になると騎士学園への入学を義務付けられるが、王国には全部で3か所の騎士学園が存在し、将来の騎士を育成するためにここで3年間、魔法や剣術などを学ぶ。
ここはその一つ、ボロンブラーク騎士学園。主に魔導騎士を育成する学校で、ボロンブラーク伯爵領だけでなくそれこそ王国各地から生徒が集まってくる。
俺は学園の校門をくぐると、横に並んで歩くもう一人の『男子生徒』に声をかけた。
「おまえ本当にその恰好で入学するのか?」
こいつは、ネオン・フェルーム15歳。
俺たち二人は、騎士爵・フェルーム家の一族であり、俺は分家の長男、ネオンは本家の次女だ。
ネオンは女子なのだが、ある理由により子供の頃から男子として育てられてきた。しかし学園入学のタイミングで女子に戻った方がいいのではと、俺は思っていた。
だから入学のために実家から出立する時、ネオンの父であるフェルーム家当主に、
「本当にネオンを男子生徒として入学させるのですか?」
と確認をしたのだが、当主は少し苦笑いを浮かべながら、
「ネオンのことをよろしく頼む」
と一言だけ言い、俺たちを送り出したのだった。
そんな俺の心配をよそに、当の本人は全く気にする様子もない。
「男子の方が慣れてるから、大丈夫だよ」
一抹の不安を感じつつも、ボロンブラーク騎士学園の校舎に向かって「よしっ」と気合いを入れて、俺たちは足を踏み出していった。
校舎の掲示板には新入生のクラスが張り出されており、その周りには既に人だかりができていた。
「さあ、俺たちのクラスはどこかな」
掲示板に張り出された名前を順番に見ていくが、ネオンが先に見つけた。
「二人とも騎士クラスB。同じクラスだ」
同じクラスになってほっとしたのか、ネオンがほほ笑みを浮かべる。その表情は彼女の姉である長女セレーネにとても良く似ている。
俺たちは男の兄弟という設定でこの学園に入学するが、現在2年生のセレーネとネオンが横に並ぶと、男装してることがバレてしまわないか心配になってくる。
ネオンが白くサラサラした髪に燃えるような赤い瞳、線が細くスラッとしたスタイルで貴公子然とした容姿なのに対し、俺の方は特に手入れをしていない乱雑な茶色の髪と赤茶色の瞳。平均より少し高めの身長以外は特に特徴がない。
ネオンにあわせるため、せめて髪ぐらいは何とかするか。
「クラスもわかったし、入学式の会場へ向かおう」
他の新入生たちとともに俺たちは会場となる講堂に入った。今年の新入生は全部で100名程度であり、席がクラスごとに分かれている。
「えーっと、俺たちのクラスは後ろから二つ目だな。」
座席付近にはクラスを示す表示板が立てられており、前から順番に上級クラス、騎士クラスA、B、Cと4クラス並んでいた。
上級クラスは男爵家以上の子弟のみが在籍するクラス。騎士クラスは下級貴族である準男爵や騎士爵家の子弟が在籍する。下級貴族は人数が多いので3つもクラスがあるのだ。
上位貴族だけが別クラスなのは、貴族の階級社会を厳格に反映したこともあるが、実技実習の内容が少し異なるという現実的な理由もその一つだ。
というのも魔力が重要視される貴族社会では、上位貴族ほど魔力の高い子弟が多く、逆に下級貴族は魔力が低い。中には魔力をほとんど持たない者までいる。
だから上級クラスの魔法実技は騎士クラスよりもレベルが高く、逆に騎士クラスは剣術実技に力を入れているため、中上級貴族の子弟であっても魔力が低い場合は希望して騎士クラスに在籍しているものも中にはいる。
上位貴族ほど魔力が強いのは必然であり、平民は魔力を持たず貴族が魔法を独占しているため魔力こそが貴族の権力の源泉。ゆえに、一族の中でも特に強い魔力を持つ者が当主に選ばれる。
だから当主や本家だけでなく、分家も含めて一族内にできるだけ多くの魔力保有者を確保するために、魔力保有者同士の政略結婚が盛んに行われる。
爵位が高くなるほどより多くの魔力保有者を一族に取り入れるため、結果として上位貴族の魔力が高くなる。
下級貴族も、一族に魔力保有者がいなくなれば貴族の資格を失い平民となる。そのため魔力保有者の確保のためにも、政略結婚に必死になる。
これが魔法大国・アージェント王国の貴族社会だ。
そんな考え事をしているうちに、いつの間にか入学式が始まっていた。
講堂の舞台上では、長い白ひげを蓄えたいかにも魔導師という風貌の学園長が登壇し、入学式のあいさつが行われている。その後は教師陣が勢揃いしての自己紹介。最後に生徒会一同の紹介という流れで進んでいく。
壇上では、現生徒会長のサルファー・ボロンブラークを中心に、生徒会役員が整列している。
サルファーはこの学園が立地しているボロンブラーク伯爵家の長男であり、次期領主が内定している。
俺たちフェルーム家は代々、ボロンブラーク伯爵家の直臣であり、サルファーは俺の主君だ。まだ直接話したことはないが一応の面識はある。
ほかの生徒会役員は初めて見る顔ばかりであり、おそらく王国内の遠くの領地から来た生徒なのだろう。
サルファーの隣には男女1人ずつ生徒会副会長が立っており、女子生徒の名前はフリュオリーネ・アウレウス。
確か王都でも有名な名門貴族のご令嬢でサルファーの婚約者だと聞いている。金髪碧眼でもの凄いレベルの美少女だが、どこか冷たい印象を受ける。
男子生徒の方はニコラ・デュレートというが、名前を聞いたことがない。どこの領地の出身なのだろうか。
生徒会の紹介も終わり入学式はつつがなく終了。俺たちはクラスごとに教室へ移動した。
俺たちの騎士クラスBは男女13名ずつの26名。
座席は既に決まっていて、俺は左の窓際の列の一番後ろだった。ネオンは教室の中央あたりの席になり、俺とは少し離れた場所になってしまった。
俺の前の席には体格のいい赤毛の男子が、右隣は青髪の女子が座っている。こちらから話しかける前に、赤毛の男子がこちらに振り返り、にっこり笑いながら話しかけてきた。
「俺はダン・アークだ。よろしく」
「アゾート・フェルームだ。こちらこそ」
俺たちが握手をしていると、
「私はマール・ポアソン。マールって呼んでね」
右隣の青髪の女子が人懐っこそうな明るい笑顔で、俺たちの握手の上に自らの両手を添えた。
「おう。俺のこともダンと呼んでくれ」
「俺もアゾートでいい。それと、」
俺は教室の中央の方に視線を向けて、
「あそこに白い髪の奴がいるだろ。あいつは弟のネオンだ」
「あいつお前の弟だったのか。入学式の時から目立ってたからな」
教室のあちらこちらでは、俺たち同様に近くの席同士で自己紹介が行われていた。
だがネオンに話しかける者は誰もおらず、少し遠巻きにした女子たちが、チラチラとネオンの方を見ている。
「お前の弟は入学式の時からあんな感じで、周りで気にしてる女子が結構いたぞ」
さっそく女子にモテてるけど、アイツ本当は女子なんだよな・・・。
「弟くん、すごくかっこいいね。後で紹介してね」
マールがキラキラした目で俺にお願いしてきた。
「ああ。後でみんなに紹介するよ」
「やったー」
「かー、イケメンはいいよな」
と、ダンはため息混じりに肩をすくめた。
初日はオリエンテーションのみで終了し、昼休みを挟んでから、午後は学園の施設見学と部活紹介、そして学生寮への入寮だ。
俺たちは3人は午後も一緒に行動することになり、ネオンにも声をかけた。
「ネオン飯にいくぞ。それから午後はコイツらも一緒に行動することになったが構わないか」
「ああもちろんさ。僕はネオン・フェルーム、アゾートの弟だ。よろしく」
「ダン・アークだ、ダンでいい」
「あのっ、マール・ポアソンです。マールとお呼びくださいっ」
「なんだよ。俺たちの時より口調が丁寧だな」
「そんなことはございません。いつもこんな感じですわ」
「嘘付け」
ダンのツッコミに「オホホホ」とごまかすマール。わりと気が合うのかなこの二人。
俺達4人は食堂に向かった。だが食堂は既にたくさんの生徒が利用しており、空いている席が見つからない。
「あそこが開いてるよ」
マールが駆け寄ったのは中庭に面したテラス席。
「眺めも良さそうだし、いい席が見つかったね」
タイミングよく4人分の座席が確保できたので、順番にランチを購入しに行こうとしたところ、
「君たちその席を退きたまえ」
後ろに数人の男子生徒がこちらを見下ろしていた。
「は? 俺たちが先に見つけた席なんだが」
ダンが不服そうに言い返すと、
「そこは下級貴族が座る席ではない。失せろ」
男子生徒がニヤニヤ笑っている。男子生徒の制服には中級貴族(子爵・男爵)の子弟であることを示すラインが2本入っている。下級貴族(準男爵・騎士爵)は1本、上級貴族(公爵・侯爵・伯爵)は3本のラインがあるため身分がわかりやすく識別できる。
まわりを見ると、テラス席に座っているのはラインが2本か3本入った制服を着ている生徒しかしない。こちらを見ながらクスクス笑ったり、小声で何かを言ったりしている。
どうやら本当に、上位貴族専用の座席らしい。
「感じ悪いな。あっちに行こう」
俺たちは早くこの場から立ち去ろうとすると、後ろの男子生徒が立ちふさがってきた。
「待てよ」
「なんだよ消えろって言ったのはそっちだろ」
「謝罪もなく立ち去るのか」
「なんだと」
「マナーも知らない下級のサルどもに、この学園のルールを教えてやったんだ。まず非礼を詫び、そしてこのお優しいハーディン様にお礼の一つも言ってみろよ」
まわりからは、俺たちをバカにしたような笑い声が聞こえる。
「まあその女子だけはここに残してやってもいいぞ」
そういってハーディンと名乗る男子生徒がマールの手首をつかんだ。マールはビクッと怯えてハーディンの手を振りほどこうとしたが、しっかり掴まれ振りほどけない。
「嫌がってるだろ。その手を放せ」
二人を引き離そうとハーディンの手をつかむが、
「俺に触るな下級のサルめ」
と吐き捨てると、いきなり俺の顔面を殴りつけた。
バギャッ!
いきなり殴られ倒れた俺は、ハーディンを睨みつけつつ立ち上がろうとした。だが次の瞬間、ドスンという音とともにハーディンが後ろ向きに倒れた。
「アゾートに手を出すな!」
見るとネオンがハーディンに足をかけて倒したのだ。
「貴様!」
俺たちは上位貴族とのこれ以上のトラブルを避けるため、ハーディンが立ち上がる前に急いでこの場を走り去った。
「待てよお前ら、許さんぞ!」
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