魔法も使えない無能はいらないと罵倒された挙句パーティーを追放された俺は新しい仲間と新たな人生を送ります。 〜お人好しで最弱な青年の最強へと至る成り上がり異世界ライフ〜

ニゲル

一章 クリスタル

第1話 理不尽な追放

「リュージ。お前もういらないわ」


 パーティーのリーダーであるバニスにみんな呼び出され、開口一番に俺は信じられない言葉を告げられる。今この部屋にいるのは俺含め五人。俺の他にバニス含めたパーティー全員がこの場にいる。


「いらない? 何だよ急に。どういうことだよ?」


 部屋に入って挨拶を交わすよりも先にその言葉を告げられた。あまりにも唐突すぎることに理解が追いつかない。

 いや、脳が理解を拒んでいただけなのかもしれない。


「はっきり言わないと分からないか? クビだよクビ! 魔法も使えず魔物と戦うことすらできないお前なんて必要ねぇんだよ!」

「どうして!? 俺は任された仕事はしっかりやってたし、戦えないことだってバニスは了承してくれてたじゃないか!」


 このパーティーに入る際、俺は魔法が使えず戦闘面では活躍できないことはしっかり説明していた。その上で戦えないなりにもこの半年間雑用等を必死に頑張ってきた。

 だからこそこの不当なクビの理由に納得できなかった。


「あぁ了承したさ。だが考えが変わった。戦えないお前をいつも視界の端に入れておくのがイライラしてしょうがねぇんだよ。まぁ端的に言えば情けないお前の姿を仕事中ずっと見続けるのに嫌気が刺したってところだな」

「そんな滅茶苦茶な……だ、大体他のみんなは、デポとデンリとシアもこれに賛成なのか?」


 俺は先程から黙ってバニスの話を聞いている他のメンバーの三人に助けを乞うように視線を向ける。

 その視線に真っ先に気づき最初に口を開いたのはこのパーティーのタンク兼アタッカーである大柄の男、デポだった。


「俺はバニスと一緒の意見だ。お前の戦えない姿は見ていて気分の良いものではない」


 本来無口でほとんど喋らない彼だったが、俺が初めて聞く彼の長文は俺に敵意を示し非難するものだった。

 彼のいつも見せない一面を見たせいか、それとも俺の無様な様子を見たせいか、ピンク髪の魔法使いであるデンリがケタケタと嘲るように笑い声を上げる。


「あはは! 往生際悪すぎ! いっつもダサくて面白いなーとは思ってたけど、これだけは確信を持って言えるわ。あんた今過去一ダサい!」


 パーティー内最年少である彼女は歳上だということなど気にせず遠慮せず罵倒する。彼女の魔法の才は未成熟なその年齢に合わないほどのもので、この場では俺なんかよりずっと立場が強い。

 だから馬鹿にされようが俺は反抗することはできない。屈辱を噛み締めるしかない。


「シ、シア……? 君も俺がクビになることに賛成なのか?」


 俺は縋るような思いで、聖女であり珍しい治癒魔法の使い手であるシアに意見を求める。


「正直言ってわたくしも戦闘は得意ではありません」

「だ、だよな。だから助け合って……」

「ですが」


 他の人と比べ優しい彼女だけは俺の味方をしてくれると思ったが、その淡い希望は俺の言葉を遮るかのように放たれた言葉によって掻き消される。


「いくら戦えないといっても、わたくしは回復ができますし、いざとなったら結界魔法である程度は身を守ることもできます。それに比べてリュージさんは何ですか? 攻撃も回復もできなければ数発攻撃をもらっただけで致命傷。正直情けないです」


 シアからも見放され、この場に俺の味方をしてくれる人はいないのだと思い知らされる。

 

「まぁそういうわけで、お前のクビは満場一致なんだわ。もちろんお前は数に入れてねぇけどな。だから今すぐに荷物を全部置いて出て行け」

「え? 荷物を?」

「あたりめぇだろうが!!」


 バニスは机を蹴り大きな音を立てながら怒鳴り俺の頬を殴りつける。

 殴られた箇所に強い痛みが走り、床に体を打ちつけるが俺に文句を言う力はない。これだけ理不尽なことをされても魔法が使えない俺は黙って苦渋を飲むしかないのだ。


「大体、半年前右も左も分からず無一文でそこら辺を彷徨っていたお前を拾ってやったんだぞ? それにこの世界について何も知らないお前に一から物事教えてやったのは誰だ? あ?」

「それは……」


 俺は言い返すことができなかった。半年前俺は通り魔に殺されて気づいたらこの異世界に来ていて、何も分からず困っていたところをバニスに拾ってもらったのだ。

 実際彼にはこの世界について色々教えてもらったし恩もある。


「分かったよ。もう本当にここで……お別れなんだな」


 俺は持っていたあまり多くない荷物を全て彼に差し出し、また半年前のように無一文になった状態で部屋の扉に手を掛ける。


「そのうち使えるようになるかと期待してたが、がっかりだぜ」


 部屋から出て行く際、バニスがわざと俺に聞こえるように大きな声でわざとらしく話し出す。それに続いて他メンバーの笑い声が響く。

 俺はそれを聞こえないふりをしてこの場から立ち去ることしかできなかった。

 半年間築き上げた彼らとの絆は全て偽りであり、それが断たれる音が俺の頭の中に響くのだった。

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