第44話 ファナ、爵位持ち魔族に啖呵を切る
「おい! わかってるんだぞ! ここに魔王の遺産相続者がいることは!」
「――うっさいわね! そんなに怒鳴り散らさなくても聞こえてるわよ!」
カツンとヒールを鳴らして冒険者教会のバルコニーに立ち、
見上げた先には、やたらチャラっぽい武闘派の生意気そうな魔族がいた。
「こっちはいま超〜っ絶に虫の居所が悪いの! 八つ当たりされたくなかったらとっととしっぽを巻いて帰れ馬鹿!」
「――はっ」
私の
「お前か? 彼の方の遺産を受け取ったのは」
「さあね。知りたければ力づくで聞き出せば?」
――完全に、こっちが悪役のセリフである。
「おいファナ」
「わかってるわよ。わかってて挑発してんの」
後から追いかけてきたエリクに向かって、小声で答える。
相手の魔族は間違いなく爵位持ちだ。
魔力の気配でわかる。
とんでもなく練られてるし、確実に手練れだ。
「こないだやった方法でやるか?」
エリクの言った方法というのは、魔王の人形を転変させる時に使った術式のことだ。
――でも。
「だめよ。あの術式は消したもの」
「はっ……?」
私の答えに、エリクが驚いた声を出す。
仕方ないじゃん!
神にーちゃんと約束したんだから!
あの禁術は消すって!
そもそも、あれをガチで魔族に使ったら私、今度こそ昇天だしね!
「だから、正攻法でねじ伏せるわよ」
「ええ……?」
正攻法って言ってもなあ……、とエリクが困ったように嘆く。
「そこの魔族! あんた爵位持ちだと思うけど、大人しく私の管理下に入るなら命だけは助けてあげるわ!」
そもそも、神にーちゃんからも『ゆくゆくは冒険者コンに魔族も参加させるように』って言われてるしね!
早々に管理下に入れて、冒険者コンに参加させたら一石二鳥じゃない?
という甘い考えが脳裏をよぎる。
しかし、そんな私の考えも虚しく――。
「……長きに渡り人間を見てきたが、お前のような
と、ぎりりと怒りをたぎらせて
ああー!
はいはい!
そうですよね!
さすがに魔族をそこらの盗賊と同じ扱いで扱ったのが怒りに触れたのだろう。
こめかみに青筋が立ってるのが遠くからでも良く見えた。
「おいお前……、あんまり挑発するなよ……」
「ファナ、助太刀しよう」
呆れるエリクに被せるように、いつのまにか背後に現れていたシリウスが助太刀を申し出てくる。
「魔術顧問師匠、俺も……!」
さらに、その後ろからやってきたリーゼントも。
――でも。
「大丈夫。ていうかあいつのターゲットは私だし。あなたたちはパーティー参加者と近隣住民に被害が出ないようサポートしてくれる?」
そう言って、シリウスとリーゼントに向かってにっと笑って見せる。
「あ、でもエリクは居残りよ。あなた私の相方なんだから」
それに魔王の遺産の相続者というのであれば、私とエリクで魔王の人形を倒したようなものなのだからエリクも同罪――じゃない共同相続者と言っても過言ではない! はずだ! 多分!
エリクもエリクで、私の言葉に「当たり前だろ、もとからそのつもりだ」と軽口で返してくる。
まったく、頼もしい相方である。
そんなやりとりをしていたら、予告なく爵位持ち魔族が尖塔の上から魔術を放ってきた。
どがぁぁぁぁぁあん……!
「おい、いつまでよそ見してる。ふざけるのもいい加減にしないとこの街ごと丸焼きにするぞ」
「丸焼きにされるのは、どっちかしらね――
返事のついでと言わんばかりに、無詠唱で練っていた魔術を魔族に向かって放つ。
……あれ?
私の魔術、なんか前より強力になってる?
「……なるほどな。女。名を聞いておいてやろう」
「人に名前を聞くなら、先に名乗るのが礼儀じゃない?」
ああ言えばこういう、とか思わないように。
というか考えるより先に口がでちゃうんだから仕方ないじゃない!
「【
「ファナ・ノーワンよ」
その、名乗り合いを皮切りに。
ヴァラーの放つ空気がすっと変わった。
「いざ――尋常に参る」
戦いの火蓋が、切って落とされた瞬間だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます