第16話 ファナ、エリクに正体を明かす
そうしてメルトが立ち去った後。
しんと部屋に静けさが訪れた中。
私はおもむろに口を開いた。
「……まあだからその。私がその……えーと、伝説の魔術師ってやつなわけよ」
なんとなく、自分から伝説だのなんだのいうのはなんとなく気恥ずかしくて、思わず口籠もりながらエリクに告げる。
まあ正確には、伝説の魔術師だった――なんだけど。
今はもう名乗っていないその名前を
私はそう思ってるんだけどね。
過去の栄光は過去の栄光だ。
当時やったことに誇りを持つことは悪いことではないけれど。
でも結局は今が全てだ。
私は常に、今の自分を一番好きでいたいんで!
「色々と事情があって、ファラ・アストリアだった魂が私に生まれ変わったわけだけど……。それがなんだっていうのよ。私は私でしょ」
別に今更『大魔術師様! へへ〜!』なんて
そもそも私は、昔も今もただ単純に魔術の研究がしたいだけなのだ。
私から『大魔術師って呼べー!』なんて強要した記憶もないやい!
「……なんとコメントをしたらいいのか、ぱっとわからないんだが」
「うん」
エリクが、言葉を選びながら私に向けて紡いでくるのに、相槌で返す。
「とりあえず、やっぱりお前は面白い女なんだってことはわかった」
――ずこっ。
「あと、俺がものすごく持ってるってことも」
「そこっ?」
「ああ。だって、そういうことだろ?」
泰然とした笑みを浮かべながら、エリクがそう告げてくる。
「――そうね」
……ああ。
この人、わかってるんだなあ。
私が、【大魔術師のファラ】として扱われるよりも【ただの面白い女】として扱われた方が気が楽なのだということを。
対等でいようとしてくれる。
そうしようとしてくれることが、妙に嬉しかった。
言われた言葉を肯定するように、こっちも不敵に笑い返す。
「私は私で楽しく生きていたいだけ。好きなことをして生きていたい。それが今更『大魔術師様が転生した! ばんざーい!』なんて望まないし。よくないとおもう、その、私が転生したって知れるのは……」
よくないしね、と言おうとしたのだが。
なんだ?
なんか上手く言えないな……。
後半、自らの意思に反して言葉を上手く紡げないことに違和感を感じていると、私が言いたい先を察したエリクが皆まで言わずとも言いたいことを補填してくれた。
「……そうだな。そういう力があると思われて、悪用されてもよくないしな」
「うんうん! そゆことそゆこと!」
さすが、察し能力の高い男。
私の言いたいことをちゃんと理解してくれている。
『記憶を維持したまま転生する術』を編み出した張本人かつ、その術が禁術だと神様からお叱りを受けてしまった身としてはさあ。
『【大魔術師ファラが、記憶を維持したまま転生する術で転生したらしいぜ?』
『マ゛? 俺も研究してみようかな!?』
みたいな事態は避けたいわけよ。
あ、そっか!
だからか?
さっき、エリクに上手く伝えられなかったことも、禁術についての供述についてはなにかペナルティがついてるのかも。
「とりあえずファナの前世については、
「そうね。そうしてもらえると嬉しい」
私がふぬふぬと考え事をしていると、エリクが真面目な顔でそう告げてきたので、それについて是非もない私は素直に
「――ファナ」
「ん?」
「俺はさ。別にファナが何者だろうと、俺の仲間でいてくれて、俺を助けてくれるならなんでもいいから」
「うん」
「だから、困ったことがあったらなんでも言ってくれ。力になるから」
この人さあ。
……やっぱいいやつだな。
エリクは私のことを『面白い女だ』と
そういうエリクだって十分『面白い男』だと思う。
「じゃあ、改めてよろしくね。お仲間の王子殿下」
「ああ、相方の大魔術師殿」
……おい。
秘密にしておくと言った瞬間にこれかい。
まあ、最初にふっかけたのは私なのだけど。
――まあいいか。
冒険者コンの時にも思ったけれど。
今回、どうやら私は相当な当たりを引いたらしい。
頼りになる、居心地の良い仲間。
住み良い住居。
潤沢な研究施設。
この環境が続くうちは、いましばらくこの幸運を享受させてもらおう。
そんなことを思いながら――。
☆ ☆ ☆
「師匠っっ! 申し訳ありませんでしたぁっ!」
「……は?」
「聞けば、師匠は特別顧問の師匠だとか……。であれば、我々としても師として仰ぐべきであると……」
「えー、やめてよ気持ち悪い」
冗談ではなく本気でそう告げるが、黒髪オールバックを筆頭にした一同はまったく答えた様子もない。
どうやら、私がエリクと話し合っている間にメルトが魔術師たちに説明していたらしい。
「幼いながらに類いまれなる魔術の才を発揮し、エルフである特別顧問をも師匠にするその天才ぶり……、おみそれしました……!』
まさか転生の話までしたのではとギョッとしたが、どうやらそこは先ほどのエリクとの気まずい空気を察して濁してくれたようだ。
一体どういう設定だよとは思ったが、あえて何も言い返さずに黙っておいた。
結果、おかげで宮廷魔術師たちから除け者にされず、なんなら勝手に師匠と呼ばれて懐かれるようになったわけだけれど。
ついでに、特別顧問師匠として空いている時間になぜか技術指導に駆り出されるようになったりもしたのだけれど。
まあおかげで王宮内での居心地がいい状況が保たれているので、いいかと思うことにした。
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