不当に婚約破棄されたので冒険者コンに参加したらつよつよ王子とマッチングしました

遠都衣(とお とい)

第1話 元伝説の魔術師令嬢、家から追い出される





 ――ある日突然、婚約者から婚約破棄だと吐き捨てられた。



「ファナ・クレイドル! お前のような魔術にしか興味のない魔術馬鹿とは今日限りで婚約破棄だ!」


 ――と。


「……え? はあ……」

「ごめんなさいお姉様……! ぜんぶ、メアリが悪いのっ……!」

「君が謝ることはないメアリ。これは運命なのだ。唯一君が悪いとするのならば、その優しさと美しさから生み出される君の魅力が強すぎることだ」

「コーネリアス様ぁ……!」


 そういいながら、ひたっ! と身を寄せ合う元婚約者と実妹メアリ

 目の前で白けるほどの茶番を見せられて、私は思わず大きなため息が出そうになるのを辛うじて飲み込んだ。


 コーネリアス・バーケンレーグ。

 それが、目の前に立つ私の婚約者の名前だ。

 バーケンレーグ子爵家の次男で、今この瞬間に私の婚約者ではなくなった男。


「……そういうわけだファナ。そしてお前には、このままこの家から出ていってもらう」

「……え?」


 婚約者になったばかりの男から、婚約破棄だけではなくあろうことか家を出ていけ発言までされて、意味がわからず疑問符を投げかける。


「もともとお前との結婚はお祖父様が取り決めたことだ。『クレイドル家の長女をめとれ』という話だったが、お前がいなくなればメアリが長女になるだろう」


 だからお前は急病で死んだことにしてこの家から姿を消せば、メアリが長女になって問題がなくなるだろう――? と。


 ………………はあ?

 ええ〜〜っ?

 なにそれ?

 あまりにも勝手すぎない?


 さも当然といった顔でのたまうコーネリアスをドン引きしながら見つめた。


 そうしてそれから、コーネリアスの背後にいる両親に目線を向けると、こちらとぱちりと目があった両親は、ばつが悪そうにささっとこちらから目を背けた。


 ……ああ、なるほど。

 

 貴族でありながら財政が逼迫ひっぱくしている我が家は、裕福なバーケンレーグとの婚姻によってなんとか状況を立て直そうとしていた。


 コーネリアスと私との結婚がダメになり計画が白紙に戻るよりは、妹が繋いでくれるのであれば姉を切り捨ててでも掴んでおきたい――というのが両親の本心なのだろう。


 ……まあいいけどさあ。


 もともと自分がこの家で厄介者として扱われていたのはわかっていた。

 両親もわかりやすく可愛らしく甘えてくる妹ばかりを溺愛していたし、魔術の研究なんてものに興味を持つわたしをよく思っていなかったのも知っていた。


 それでも、産み育ててくれた恩義とか家族として巡り合った縁みたいなものを重んじて、居心地は悪いながらもこの家でじっと耐えてきたけれども。


 向こうがこっちを切り捨てようとするなら、ここらが潮時かな!

 と思いながら、相対する人々に向かってにっこりと微笑んだ。


「わかりました! じゃあこれを機に家族の縁も切るということで! 短い間でしたけどお世話になりました!」


 そうやって元気に別れの言葉を言い放つ。


 くよくよしたって仕方ない。

 恨み節を吐いても、有益なものなんて生まれない。

 人にはどうしたって合う、合わないがある。


 この家の経済状況を辛うじて保っていたのは他ならぬ自分でもあったわけだが、それよりも家族はバーケンレーグ家との繋がりを選んだということだろう。


 ならばもはや何も言うまい。

 そう思ってさっぱりと家族に挨拶をし、生まれ育った家を去ることに決めた。


 妙に用意周到なコーネリアスからは『何があっても二度とこの家の人間だと名乗らず、お互い再び縁を結ぶことはないと誓え』と証文まで書かされたが、こちらとしても別にそれに異論はなかったので大人しくサインした。


「……ふん。最後の最後まで、なんとも可愛げのない女だ」

「…………」


 さらさらと黙ってサインする自分に、コーネリアスが冷たく吐き捨てる。 


 ……ふんだ。

 まあ別に、もともと望んでもいない結婚に縛られるのはこちらとしても良しとするところではなかったしちょうどいいんですけどっ!

 そう思いながら、コーネリアスの吐き捨てた言葉を無言で受け流す。


「それではみなさま、ごきげんよう」


 こうして、突然婚約者からの婚約破棄と家族からの追放のダブルコンボを受けた私は、生まれ育った家から大人しく立ち去り。


 ここから新しい、【ただのファナ】としての人生の第一歩を、歩み始めたのだった――。




 ◇


 


 ――さてここで、私のことを少し自己紹介しておこう。

 

 私の名前はファナ・クレイドル。

 しがない伯爵令嬢である。

 そして、突然なんだと思うなかれ。

 

 私には――前世の記憶がある。


 前世で超超超〜優秀な魔術師だった私は、今世も前世の記憶を引き継いで生まれ変わった。

 なぜかと言うと――、前世で取り組んでいた魔術の研究を、死んだ次の生も続けたかったからだ。


 そのために、既存の研究と並行し【生まれ変わった後も記憶を引き継ぐ術】を研究し編み出し、実行したらその場で即死んでしまった。

 

 そうして、死んだ先のあの世で神様に怒られた。


 『――お前、そりゃあ禁術だよ』って。


 まあそりゃそうだ。

 輪廻転生に絡んじゃうもん、神域に触れちゃう力だよね。

 そうだよねえ――と深く納得した私に。


 神様は私の目の前で、大きく嘆息した後にこう言ったのだ。


 『編み出しちまったもんは、まあしゃあない……。1回目だから目を瞑ってやるが2回目はないからな』と。


 こうして、幸いにもというか『一度目だからお咎めなし』という温情を受けた私は、禁術の記憶だけ綺麗さっぱり消された後、今のこの姿ファナ・クレイドルとして生まれ変わったのだった。


 ファナ・クレイドルとしての人生は――、まあ先ほど見ての通りだ。


 平民に生まれるよりは境遇はよかったと思うが、今やそれも失ってしまった。

 ――でもまあ、ロクでなしな人たちと一緒にいるより自活できた方が幸せか!

 傾きかけていた我が家の経済をそれとな〜く支えるのも結構大変だったし!


 だから結局何が言いたいのかと思うと、今回の出来事は驚きはしたものの、私としては結果オーライだったということだ。


 これで貴族というしがらみを離れて、魔術の研究に勤しめる!

『家のためにいい結婚をして家に貢献しろ』とか言ってくる輩ももういない!

 わーい! 自由な人生の始まりじゃーん! ひゃっほーい!


 ……と、テンション高く盛り上がったものの。

 とはいえね、とりあえず。


 差し当たり、拠点となる家を探さないとなあ。

 何は無くとも、必要なのは研究施設と寝泊まりする場所。


 お金はまあ、これまでこつこつと貯めてきたお金があるから何とかなるかな。


 そう思いながら私は、とりあえず近くの街に向かって、とことこと歩き出したのであった。


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