第20話
誰にも構われたくないくせに、周りがガランと空いていた頃を思い出せなくてそんな風に今更なる勇気がないおれと、誰かのために何かをして自分の存在を確かめていく。
生まれた頃から同じ苗字と名前でできているのに、ぜんぜんちがう。きみとおれは、ちがう。
だから高梨みたいな人間になりたかった。
そんなことばかりを考えている、弱い、人間だ。それなのにきみはこんなやつを好きだと言ってくれた。
「でも誰にも知られたくないな」
聴き取るのがやっとな小さい声でつぶやかれた言葉には、じんわりとあたたかさが含まれている。
ここでこうやって高梨と話せること。うれしくて失いたくない。もう知らなかった頃には戻れない。戻りたくない。
「おれも」
「え?」
「高梨ががんばってるってこと、誰にも言いたくない。ごめんな」
前に松木に無理やり読まされた少女漫画のヒーローは、クラスで浮いてる女子の秘めた優しさを知って、手を差し伸べてクラスの輪に入れてあげていた。そんなヒーローにヒロインも惹かれていた。
そういうようになれたらよかった。
けれどできない。
それは、高梨のことを誰にも言いたくないって思いと、意気地のないおれの勝手な思いのふたつが入り混じってヒーローから遠ざけてくる。
「言わなくていいよ。わたしは知られたくない」
だけど、毎日誰よりも過酷な朝を無邪気に押し付けられたままで、彼女はいいのか。
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