第12話

手伝ってやる人は誰もいない。この教室のやつらはみんなあれは高梨の役目だと誰もが思っている。松木たちだって頼んですぐに離れて自分たちの好きなことをする。そうしていいものだと思っている。



そんなわけねえよ。

なんで文句も何も言わないんだよ。


なんて、その理由は聞かなくたって解っているんだ。



だったらおれが助けてやればいい。手伝ってやればいい。遊園地で出会う前から思ってはいるんだけどどうしたってそうできない。



「そういえば高梨ちゃんのほうもここのボタン取れてたなあ」


「え…」



松木が派手なピンクの色をした爪でおれのブレザーのボタンを指差す。昨日付けてもらったボタンを。



「予備があるなら、ああいう真面目な子は持ってそうだしボタンつけだって上手そうなのにねえ」



ボタンつけは上手だよ。すげえ上手だよ。


そんな言葉が出かかった。



どういうことだよ。おまえも取れてたのに予備をくれた?それとも予備なんか初めからなくて、自分のをおれにくれた…?どっちでもあいつはやりそうだ。


おれのなんか松木から奪い返せばいい。


自分を犠牲にしなくたっていいんだよ。なのに、あいつはおれが松木からボタンを奪えないことを理解している。



「高梨ちゃんって優しいよねえ。ノートもすごくわかりやすくて感動しちゃう」



優しいけどそれだけじゃない。


だけどきみがしていることが松木たちにとってそういうものになっているのなら、それはきみにとってのご褒美のようなものになるのかもしれない。

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