たとえ君が鬼になっても、僕が君を取り戻す
高田正人
第1話:”かざり”が、私を○○て
◆
君に言えないことがあるんだ。
一つだけ、お願いしてもいいかな?
もし私がどうしても、我慢できなくなったら。
その時は、君が――
”かざり”が、私を○○て。
◆
「
僕は剣の先生である祖父から、この言葉を聞かされて育った。
僕が学んだのは、ただひたすら、鬼を斬るための剣技だ。
久賀家は「鬼斬り」の家だから。
鬼。
遠い昔、人と何か別の生物が混じって生まれた存在。
昔は酒吞童子とか茨木童子とかが大暴れしたらしいけど、今は違う。
鬼の血を引く人はいるけど、みんな普通に暮らしている。
久賀かざり。
それが僕の名前だ。
鬼斬りの家、久賀家の長男。
「しかし惜しい」
ある日の夕方。僕の家にある道場。
祖父は修練を終えた僕を見て、残念そうに言った。
祖父はこのところ、少し体調が悪いようだ。
「お前に似合うのは木刀ではない」
「やっぱり真剣ですか?」
僕は、真剣が好きになれなかった。
重みも、鋭さも、形も怖い。
あんな危ないものを、好きになれる人の気がしれない。
「いや。真剣でもない。もっと純粋な剣が、気の弱いお前にはふさわしい」
「すみません。もっと練習します」
僕は素直に頭を下げるしかない。
気性が激しくがんこな祖父。戦いが嫌いな僕は、祖父にとって見苦しいだろう。
でも、祖父は首を左右に振った。
「『
「それは?」
「鬼の骨を芯として打った刀。鬼斬りのほまれだ。生涯に一度めぐり合えるかどうかという一振りだが」
「先生(修練の時は祖父をこう呼んだ)は、それを持っていますか?」
「折った」
「そう……ですか」
そんな貴重なものが折れるほどの、昔の祖父の戦いぶりに寒気がする。
祖父は若いころ、鬼と命がけの戦いを何度もしたらしい。
鬼の血を引く人が、その血に狂うことがある。
その時こそ、鬼斬りの出番だ。
鬼の血をしずめるために、鬼斬りは全力で戦う。
結果、どちらかが命を失うとしても。
「かざり。もしその時が来たならば、髄刀を持つ縁が自然とできるだろう」
「はい、先生」
祖父は言葉を選んでいるようだった。
もしかすると、孫に祖父らしいことをしたかったのかもしれない。
でも、祖父はただこう言った。
「お前の秘剣から魔剣が花開く時が、俺は楽しみだ」
秘剣『残月』。
これを基本として、その先にあるあってはならない剣技。
魔剣『
祖父は、剣に取りつかれていた。
僕はあの人のようになりたくない。
そう思った自分が悲しかった。
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