Rose meets Lilly. -『腐』は『姫』に恋をする -
日夜 棲家
第1話 腐っている私
その頬に手を添える。
彼女の目が大きく見開かれた。
「えっ? 何? どういう風の吹き回し?」
そして悪戯っぽく笑ってそう言ってくる彼女。
確かに“らしくない”。
たぶん、気が迷っているんだ。
そうに違いない。
「……うるさい。笑うな。そんな顔するんだったらもうやめる」
「あー! 待って、待って! やめないで! 謝るから!」
恥ずかしくなってやろうとしていたことをやめようとすると。
彼女は慌てて謝罪をしてきて。
「ごめんなさい! ……ね? お願いっ」
手を合わせて彼女は首を少しだけ傾げる。
……狙ってやってるんじゃないだろうな?
そのあざとすぎるポーズと、
それを可愛いと思ってしまった自分自身に思わず溜息が出た。
彼女の方を見ると期待する眼差し。
何でそんなに嬉しいと感じるのだろうか?
髪をガシガシと掻く。
もうどうにでもなれ。
――私はできるだけ素早く彼女の口を塞いだ。
私の口で。
顔の熱で、なんの味がしたかなんてわからない。
……ああ。
本当にわからない。
私はどうしてこんなことになってしまったのだろうか……。
・
・
・
・
・
出会いは最悪だった。
遡ること一カ月前。
学校帰り。
私は捗っていた。
私は、学校の有名人である
――クラスメイトでモデルの
大菊君はクール系のモデルだから顔とスタイルがよくて女子にモテる。
たぶん、うちの学校の女子だけじゃなくて他校の女子にも人気があると思う。
私はそういったことには疎いし、教えてくれる友だちもいないからよくは知らないのだけれど。
そんな私が大菊君をつけている理由。
それは
――大菊君の隣に別の生徒の姿があったから。
私にとっては特ダネも特ダネ、大スキャンダルだった。
他の人からしてみればそうでもないかもしれないけれど。
大菊君と一緒にいる生徒は
竜胆君は大菊君と同じモデル……というわけではない。
失礼だが、あまりパッとする容姿とも言えない。
竜胆君は私とは違うクラスで、交友関係が壊滅的である私が本来なら知り得るはずのない人物だった。
それなのに私が知っていたのは……。
彼が大菊君の幼馴染で、あまりいい印象を抱かれていなかったから。
クラスで話題になっていた。
私はその会話の中に入っていってはいないけれど。
「竜胆勝利は大菊君に釣り合っていない」とか。
「大菊君はもっと大菊君のレベル(顔)と合った人と付き合うべき」とか。
「竜胆勝利が大菊君の近くにいると、自分でもお近づきになれるんじゃ!? って勘違いして接触してくる奴が出てくるからやめてほしい」とか。
だから私は竜胆君のことを知っていたのだ。
そして、これのどこが大スキャンダルなのか、という話なのだけれど。
この二人、距離感がおかしいのである。
まず、待ち合わせの仕方。
彼らは裏門を使っていた。
大菊君が竜胆君のことを待つ、という形で。
うちの学校の裏門は使い勝手が悪いのに。
正門より距離があるし、あまり使われないからと整備の手を抜かれてその周辺の道が藪みたいになっているし、そもそもずっと閉まったままだし。
裏門を使うのは正門を使えないド陰キャくらいなもの。
うちの学校において陽キャ代表と言っても過言ではない大菊君が使うのは違和感があった。
……まあ、大菊君は有名人だから人目のないところで落ち着きたかった、と言われればそれまでなんだけれど。
次、スキンシップ過多。
二人が裏門周辺の植物が伸びきっていて狭い道を通ってる時。
竜胆君の肩が大菊君の肩にぶつかると、ぶつけられた大菊君がわざと竜胆君に肩をぶつけ返して、肩のぶつけ合いが始まった。
それから肩を軽くパンチし合ったり、カバンでパンチを受け止めたり。
最終的には仲直りのしるしなのか、肩を組んで。
……これ、近くない?
で、最後。
普通に間接キス。
狭い道を抜けて広いけれど人通りが少ない場所に出た時に立ち止まり、竜胆君がカバンから菓子パンを取り出して。
竜胆君がその封を切って食べ始めたのだけれど、大菊君がそれを見て「一口ちょうだい」って言い出した。
竜胆君は普通に差し出して大菊君は菓子パンに齧りついた。
――竜胆君の食べかけの部分を。
それを盗み見て私は
「これはやばい。容姿だけなら大菊×竜胆だけど、今のを見ると竜胆×大菊の方がしっくりくる。これ、完全に大菊君、誘い受けでしょ? クール系のイケメンである大菊君がネコってる、ってギャップがあってグッとくる! やっぱり竜胆×大菊で固定で! リバはない! 私、ナマモノはなしかと思ってたけど、意外といけるのか……!?」
興奮していた。
めっちゃ早口で捲くし立ててた。
私にはもう、彼らがべたべたしているようにしか見えていなかった。
それが彼らの普通で、ただ単に幼馴染と青春を謳歌していただけなのだとしても。
私は
――腐っていた。
妄想で生きている人種――それが
竜胆君と大菊君がデキている、という妄想だけでご飯三杯はいける。
……あっ、間違えた、ブラックコーヒーバケツ一杯はいける。
竜胆君と大菊君がじゃれ合っているのを見るだけで、私の栄養になる。
だから私は、クラスの人たちのように「彼らが釣り合っていない」とは思わない。
これほど最高の組み合わせもなかなかないだろう。
……まあ、そう思うようになったのも今、この瞬間からなのだけれど。
これまでは別になんとも思っていなかったし……。
ただ、こうなってくると。
竜胆君は少しカワイイ系の要素があるように見えてくる。
背がそれほど高くないからだろうか?
線も細めだし。
……などと、考えている場合ではなかった。
二人がこちらを見ていた。
訝しげに。
興奮して声を出してしまった所為で私の存在に二人が気づいたみたいだ。
「……
大菊君に声をかけられる。
何してるの? とはこっちが聞きたいのだけれど……。
あと大菊君、クラスメイトとはいえ陰の私のことを知っていたのか――じゃない。
この状況はあまりよろしくない。
気づかれたのが裏門の付近だったならまだ言い訳の仕様があった。
あそこは草木に覆われている狭い道で、前に二人で並ばれたら抜けないから後ろをついていても不自然じゃない。
けれど、もうその区域は抜けている。
私は二人の雰囲気が気になりすぎて、少し離れた位置をキープしながらずっとついてきてしまっていた。
いわば私は、二人をストーキングしていたのだ。
……まずい。
上手い言い訳が思いつかない……っ。
かと言って黙っていては怪しまれる。
私はとっさに思いついたことを口にした。
「た、たまたま。通りかかっただけ」
……うん。
我ながらひどい。
こんなので納得するやつはいない。
「たまたま通りがかったって……。お前、足止めてんじゃん……」
案の定、竜胆君にツッコまれた。
……そうですよね、はい。
通りがかったなら足止めないで通り過ぎてるだろ、って話ですよね、はい。
声をかけようかな? って迷うほど仲が良いわけでもないんだから……。
竜胆君の言っていることはごもっともなんだけれども。
私はこれからも二人のべたべたを見たい。
シュガーをマスプロしてほしい。
そのためには二人に警戒されたくない。
だから私は押し切った。
「ほ、ほんとう! じゃあ……!」
そう言い終えるや否や、私は二人を横切って進んで行った。
少し進むと路地裏へと続く道が見えてくる。
そこに入って振り返り、二人の様子を確認しようとした。
しかし――
「なあ、ちょっと付き合えよ」
その路地裏には男二人と王子様のような人という三人の先客がいて。
何やらお取り込み中のようだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます