第七話-2:ユウとリ-ゼロッテ

 リーゼロッテがカウンターの席に腰を下ろすと、ユウはしばし彼女を眺めた。昼間の陽気な彼女の雰囲気とは違い、今の彼女はどこか穏やかで、少し疲れたような表情をしていた。


 「ちょっと待っててくれ」


 そう告げると、ユウは店の奥から古びた木箱を引っ張り出した。その中には、店のメニューには載せていない特別なエールが収められていた。かつて、店を始めた時に購入したもので、滅多に口に出来ることのない一品だ。


 「これは?」


 ユウがグラスにエールを注ぎ、カウンター越しに差し出すと、リーゼロッテが少し首を傾げた。


 「ちょっと特別なエールだよ。お疲れさま」



 彼の言葉に、リーゼロッテの瞳がわずかに揺れる。その中には、驚きと、それを上回る嬉しさが混じっていた。


 「……ありがとう」


 彼女はグラスを手に取り、そっとユウのグラスに軽く触れさせた。カチン、と小さな音が響き、二人は同時にグラスを口に運ぶ。


 エールを味わいながら、リーゼロッテはカウンター越しにユウを見つめた。その視線は柔らかく、普段の冒険者としての毅然とした雰囲気とは異なる、素直な感情を映し出していた。


 「本当にいろいろ助かったわ。ユウがいなかったら、わたしはここにいなかったかもしれない」


 彼女の言葉には、いつもの軽い調子はなく、むしろ真剣さが滲んでいた。


 「そんな大したことしてないよ。リーゼロッテ。君が最後までやり遂げたんだ」


 ユウは照れくさそうに笑いながら答えたが、その表情にはどこか嬉しさが隠れていた。



 会話を重ねる中で、二人の距離は徐々に縮まっていった。彼女の語る冒険の話や仲間たちの思い出に耳を傾けながら、ユウはふと、自分がどれだけ彼女の存在を意識しているかを自覚した。


 「本当は……怖かったの」


 彼女がふいに零した言葉に、ユウは目を見開いた。


 「怖かった?」


 問い返すと、リーゼロッテはグラスの中身を見つめたまま、小さく頷いた。


 「誰かを守りたいと思って戦っていたけど、結局、全部を守れるわけじゃない。失うたびに、自分の弱さを思い知らされる」


 彼女の声は震えていた。ユウはその想いにどう応えていいのか分からず、一瞬言葉を探した。


 「でも……君はちゃんと戦った。すべて完璧にはいかないさ。でも、そうやって今までやってこれたんだろ?」


 彼の言葉に、彼女は静かに頷いた。けれど、その瞳は潤み、どこか孤独そうな影を落としていた。


 気付けばユウは、カウンターを回り込み、彼女の隣に立っていた。そっと彼女の肩に手を置き、少しだけ体を近づける。


 「……大丈夫だよ。俺がいる限り、君は一人じゃない」


 その言葉に、リーゼロッテは彼を見上げた。視線が交わり、二人の間に言葉では伝えきれない何かが流れ込むようだった。


 「ユウ……」


 彼女の声は、微かに震えていたが、その響きには確かな感情が込められていた。


 ユウはそのまま、彼女の肩にかけた手を優しく引き寄せた。リーゼロッテもまた、彼に身を委ねるように体を傾けた。二人の距離が次第に縮まり、静かな店内に、互いの息遣いだけが響いていた――。

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