第17話 長く白い雲の国
主な登場人物
西園寺秋
早稲田大学文学部国文科2回生。九条本社秘書部長 サマーマンションに住む。柔道初段。空手初段。古武術西園寺流師範。神戸五輪柔道金メダル、マラソン金メダル。全日本女子空手選手権優勝。立夏の親友。幽霊と仲が良い。かなりの美少女。関西弁を話す。
九条立夏
マサチューセッツ工科大学卒、理学博士。早稲田大学文学部国文科2回生。九条財閥の跡取り。多くの特許や会社を所有し、遊んで暮らしたい。秋の言うことは聞く。小さくて童顔のため、中学生に見える。関西弁を話す。
上谷優也
三崎銀行鳥取支店課長兼務三崎銀行執行役員。身長180cm。柔和。男前。早稲田大学法学部卒。空手4段 全日本空手選手権優勝
下山恵(メグ)
東京大学教育学部体育学科5回生(1年留年)大学1年と5年でオリンピック連覇柔道4段 九条本社秘書課課長(見習い)
西島昴
神戸大学経済学部卒 脳死から蘇生した唯一の人間。九条物産課長。空手4段 全日本空手選手権準優勝。
西島栞
西島昴の妹。県立西神中央高校卒。慶応大学通信課程法学部在学中。書道の師範。三崎銀行東京支店の秘書課係長兼務九条本社総務課係長
今川静
15歳 今川ツインズの姉 県立布引高校1年生 空手部 3段 全国高校空手選手権女子の部優勝
今川秀
15歳 今川ツインズの弟 県立布引高校1年生 空手部 3段 全国高校空手選手権男子の部優勝
深泥桃 (ピーちゃん)
桃=ピーチで通称ピーちゃん。東京大学法学部卒。24歳。弓道全国6連覇。射撃日本選手権2連覇。射撃日本代表。飛び道具の扱いは天才的。女性に人気がある。
坂城辰吉
坂城建設の社長。
坂城陽子
坂城建設の福社長。坂城辰吉の妻。
坂城陽菜
坂城辰吉・陽子の長女、御坊臨海高校1年生
1.涼しいところに行こう
1-1.夏はどこかへ行こう
立夏
「暑いなあ。今日は40℃をこえるらしいで。」
秋
「私の部屋でエアコンをガンガンにかけて、何を言うとるんや。」
立夏
「ところで、ナッピーはどこへ行ったんや。」
秋
「北アルプスの涼しいとこで岩登りや。」
立夏
「去年は避暑にオーストラリアに行ったやん。今年はどこへ行こか?秋、どこがええ?」
秋
「私?私は秋やから夏のことはわかれへん。雨が少のうて、気温が20℃ぐらいで景色のきれいなとこがええ。」
立夏
「う~ん、それじゃ、オークランドに行こか?」
秋
「聞いたことないで、どこにあるんか全然わからへんわ。」
立夏
「受験の地理で出て来るやろ。」
秋
「私、日本史で受験したから知らん。」
立夏
「そうか、日本史で受験したんやったらわかれへんなあ。ニュージーランドや。『長い白い雲の国』や。」
秋
「『長い白い雲の国』か。おとぎ話みたいでなんかゾクゾクするなあ。メンバーは砂漠の毒蜘蛛とゾンビと東大の留年アイドルとゾンビ妹とでええか?」
立夏
「今川ツインズと金田一.....ピーちゃんも連れて行こう。問題が起こった時の責任を取らせるためやで。」
秋
「金田一はまた旅に出たようや。」
立夏
「よう、そんな金あったな。オーストラリアの二の舞になるんとちゃうか?」
秋
「三葉虫の研究でかなり貰ったらしいねん。三葉虫学会から『人間国宝』にしてくれと要望が出とるらしいんや。金田一の頭は世界の宝やとまで言われとうねんて。」
秋はメールで、
「西園寺秋です。来る8月9日土曜日9:00から避暑でニュージーランドに行きます。参加希望の方は西園寺秋までご連絡をお願いします。なお、ピーちゃんさんは強制参加です。
予定:関空ーオークランド国際空港ー関空 5泊6日
ホテル オークランド国際ホテル5泊
例によって交通費と宿泊代、食費はたぶん無料です。パスポート必携。
オークランド(ニュージーランド)は南半球ですので、8月は真冬です。気温は7℃~15℃ぐらいです。冬用の服の準備をしておいてください。今年は暖冬らしいので、もう少し気温が高いかも。
治安はそこそこいいですが、手荷物には気を付けましょう。
参加 不参加」
1-2.スペシャルファーストクラス待合室
当日は立夏の寝坊で30分ほど出発が遅れたが、立夏はみんなのATMなので、誰も文句を言わなかった。
今川ツインズの登録を済ませて待合室に入ると、早速案内があった。
「オークランド国際空港行は1時間半後に搭乗案内を致します。」
立夏
「ところで、今川ツインズは全国大会どうやったん?」
秋
「二人とも危なげなく優勝したで。」
優也
「若いだけあって、物覚えがよく、練習通りの動きが出来ていたと思います。」
静
「なぜか、みんな動きが遅いんです。だから何を狙ってるのか丸判りで....」
昴
「俺らと一緒に練習しとうからな。」
秀
「僕はくじ運がよかったです。優勝候補やダークホースと言われてた相手はみんな逆ブロックで、僕は余裕を持って戦えました。番狂わせで優勝候補が負けてしまい、結局、無名の相手が決勝に出てきたのですが、ヘロヘロで。強い相手とばかり戦ってきたので疲れたのでしょうね。倒すのがかわいそうなぐらいでした。」
立夏
「倒すのが前提やのん?」
秋
「あんなのに負けたら出禁やで。」
立夏
「空手道は勝ち負けちゃうんやろ。」
秋
「何言うとんのん。勝てると分かっとっても、一生懸命練習してきた相手を全力で叩き潰すのが礼儀やろ。全日本の時立夏が言うとったんやで。」
立夏
「それで3人も病院送りにしたんか。私のせいやったんか!」
秋
「今年は高校日本選抜に選ばれてないのん?」
秀
「選ばれてます。」
栞
「ところで、クッキー作ってきたんやけど食べる?」
ツインズ
「いただきます!」
昴
「あの、僕も欲しいんですけど。」(兄なんですけど)
秋
「私も欲しいわ。」
ピーちゃん
「ボクもついでに。残り物でいいので。」
立夏
「ところで、メグの姿が見えへんけど?」
秋
「おかしい。食べ物と聞いたら飛んでくるのんに。」
メグ
「は~い、東大留年アイドルのメグちんれす。たれか、わたひを、呼んだ~。」
ピーちゃん
「メグ、もう出来上がってますよ。」
メグ
「お師匠たんも、いっぱいいっぱいどうれすか?」
秀
「メグさん東大やったんですか?勉強できるですね。尊敬します。」
秋
「メグを尊敬したらあかん。あいつはどこも通る大学がなくて、東大に行ったんや。ピーちゃんの方がましや。」
ピーちゃん
「まし......」
静
「意味わかれへんけど、ほんまですか?」
メグ
「ほんまやで。私アホやけど一生懸命勉強して卒業できるんや。」
立夏
「何か関西弁っぽくなっとうで。まあ、卒論は私が書いたんやけどな。」
秋
「立夏が書いたから大丈夫や。」
静
「どうしてですか?」
秋
「立夏はマサチューセッツ工科大学を飛び級で卒業して、論文審査で理学博士になっとうねん。ダイナマイト賞の候補になったこともあるらしいから、世界的にもけっこう有名な学者らしい。もっともダイナマイト賞の賞金など、どうでもええぐらいの資産を持っとるからな。」
静
「そんな偉い博士が、何で早稲田大学文学部に?」
立夏
「別に偉くないで、普通や思うんやけど、バンバン飛び級したもんで友達がおらんのや。」
秋
「友達を作りに来たと言うとる。それで、滑り止めが東大の理Ⅲやで。それを軽く蹴って早稲田大学の文学部に来たんや。」
立夏
「勉強なんか、夜にちょろっとやれば済むやろ。理Ⅲが3番やから一番簡単やと思とった。私は九条財閥に縛られとうから、医者になれへん。努力・根性・精神力のタイプの言葉は嫌いや。でも、能力もないのに、努力と根性だけで日本のトップクラスにおるのが、優也と昴の二人や。」
優也&昴
「ひ、酷い。」
立夏
「君らは、他に能力があるやないか。まあ、秋や私ほどやないけど。」
秀
「ところで、立夏さんの資産って、いくらぐらいあるんですか?」
立夏
「また、そんな無粋なことを。私の個人資産はだいたい16兆円ぐらいかな。」
秋
「また、資産が増えとうやないか。どこかの国家予算ぐらいあるやんか。」
立夏
「ギリシャや台湾ぐらいかな?鉄道やおもちゃや野球やサッカーなどでなんぼでも増えるんやもん。それに三崎財閥も韮草グループも好調やし....。もう十分、遊んで暮らせるだけの金があるんやけどな。」
秋
「九条グループの経営はどないするんや。」
立夏
「和彦兄ちゃんに経営してもらおう。私は夏は涼しいところで、冬は暖かいところで、春と秋は日本で遊んで暮らすつもりやのに。別荘よりホテル住まいの方がええな。なんでもしてくれるし。」
秋
「横着者!」
1-3.スペシャルファーストクラス
「12:00発、オークランド国際空港行にご搭乗の方は、スペシャルファーストクラスにお進みください。オークランドまでは10時間30分かかります。」
みんなはぞろぞろだらだらとスペシャルファーストクラスへ入った。
秋
「20席あるので好きな席に座って下さい。窓側は景色がきれいし、眠りたいときは内側の席がフラットまで倒れてカーテンも閉じれるので、好きな方を使って下さいね。飲み物、食事はいつでも用意ができますので、4人いるCAのお姉さんに頼んでください。また、わからないこともCAのお姉さんにお聞き下さい。」
メグ
「おしゃけはあるのでせうか?」
立夏
「シャケの季節はまだです。」
優也
「おしゃけはあるのでしゃうか?」
立夏
「シャケの季節はまだや言うとうやろ。」
秋
「優也、また飲みおったな。」
優也
「お許しくだしゃい。師匠。でも、『鍾乳洞と平家落人村』の話では師匠もにょんでいたではにゃいでしゅか?」
秋
「私は私、君らは君ら。決めるのは私。私を批判するのんか?」
優也
「おゆりゅしくだしゃい。秋師匠。破門にしないで~。」
秀
「秋さんって、全国空手選手権男子優勝の優也さんより強いんですか?」
昴
「間違いなく強い。間違いがあっても強い。運が悪ければ、優也さんは残念ながら半殺しにされて病院送りになるやろなぁ。」
立夏
「運が良ければ、お菊の元へ行けるけどな。」
秀
「優也さんの必殺の真空飛膝蹴りも通用しないんですか。」
秋
「モチのロン。あんなん当たる方がどうかしとるわ。反則技やし。」
優也
「師匠の蹴りの方が反則だっしゃろう。」
昴
「その通りです。」
立夏
「そうやな。」
静
「秋さんってそんなにすごいのですか?」
ピーちゃん
「すごいです。」
優也
「しゅごいで~す。」
メグ
「しゅごいと言うもんじゃないです。化け物でしゅ。」
昴
「全日本の試合では、全力の蹴りが頭に入らんように注意したらしい。全力のがまともに入ると脳内出血を起こしたり、頭蓋骨が陥没したり、首の骨が折れたり、首がもげたりするらしいから。特に3回戦で当たった被害者は、ブロックした腕ごとへし折られた上に鎖骨骨折、肋骨3本にひびいれられたんや。」
静
「ひええ~。」
秀
「ところで、ピーちゃんさんは何が得意なんですか?」
立夏
「ピーちゃんは警察庁の警部という以外に、残念ながら何の取柄もないねん。」
秋
「立夏、ピーちゃんを虐めたらかわいそうや。ピーちゃんは弓道の全国大会で6連覇中、射撃でも日本代表やねん。私たち格闘技をしてる者からすれば、安全な遠くから相手を狙うとんでもない卑怯者やねん。卑怯者が使う、飛び道具の名手やで。つまりが卑怯者の名手やねん。」
ピーちゃん
「ひ、卑怯者とは、ひ、ひどい。」
ジェット機はニュージーランドを目指して飛んで行く。
2.ニュージーランド着
2-1.病気をする少女
CA1
「お客様の中にお医者様はおられ.....ませんね。」
立夏
「学生です。」
秋
「学生です。」
栞
「高校を卒業しました。」
メグ
「東大の留年アイドルで、酔っ払いでしゅ。」
優也
「銀行員で空手家なんでしゅう。うぃ~」
昴
「総務課長で空手家です。」
ピーちゃん
「警察庁の警部です。弓道が得意です。」
立夏
「東大の医学部やったら合格したで。」
秋
「家庭の都合で医者になられんのに、医学部受けたんやろ。」
立夏
「ところで、医者がどうとか言うとったな。」
CA1
「もうよくわかりました。ありがとうございます。」
立夏
「何があったん?」
CA1
「お客様が頭痛とめまい、吐き気、咳が止まらないようなのです。」
みんなでエコノミークラスの方へ歩きながら、
立夏
「風邪を引いたんとちゃうやろか?」
CA1
「そうでおますな。気が付いたら風邪を引いとりしたというのはよくあることどすえ。搭乗の際にはどうもなかったのどすが、インフルエンザが飛行機内で爆発的に感染したという例もあるのどすえ。」
優也
「今はどうしているのですか?」
CA2
「お母さんに肩を抱かれていますが、かなり苦しそうです。」
立夏
「私たちのクラスに移して下さい。」
CA1
「ほんに、よろしいのどすか?」
立夏
「ここのシートはベッドの代わりになるので、エコノミークラスより楽でしょう。」
CA1
「そうどすな。誠に済みませんどす。」
立夏
「いやいや、気になさらんでええ。ところでCAさん、方言が出とるで。」
CA1
「うちは先祖代々、京都の和菓子店をやっているんどす。京都にお越しの際には祇園の『金龍軒』へぜひおこしやす。さて病人はだいぶん治まってきたようどすな、お父様は普通に心配してるんどすが、お母様がえらい心配してはるんどす。娘さんがかわいいんどすな。」
立夏
「中華料理屋みたいな屋号どすな。」
昴
「ふうん。そうですか。普通のお母さんは心配するやろね。」
やがて少女がお母さんに連れられてやってきた。
母親
「ご迷惑かけて申し訳ありません。私もついておきたいのですが宜しいですか?」
昴
「申し訳ありませんが、伝染性の病気だったら患る人が一人でも少ない方がいいので、ここはCAさんが4人いるので面倒を見てくれます。」
ピーちゃん
「昴さん、冷たいんですね。」
昴
「ピーちゃんさんは女性には優しいですもんね。」
ピーちゃん
「なにおう。その通りだけど。」
昴
「そう言えば、長男に『ロリ王』の『高所恐怖症』がいましたね。」
ピーちゃん
「いるけど、ボクのせいじゃないだろう。あれは妄想の異世界に生きとる奴や。弟として恥ずかしい。」
秋
「ピーちゃんのせいやないのになあ、ごっつい恥ずかしいやろなあ。その気持ちわかるで。」
立夏
「あれでなんで警視正になれるんやろ。」
ピーちゃん
「そんなこと言われると、なんか惨めな気持ちになってきます。」
少女の症状は治まったようで、寝息が聞こえる。
立夏
「まあまあ、そのぐらいにしとき。ピーちゃん、食事しながら唾を飛ばして喋ったらあかん。汚した床は掃除しときよ。」
昴
「俺も海を見ながら食事にしよう。」
秋
「私らも食べよか?」
立夏
「うん。」
昴
「おっ、持ってくるのが早いな。」
CA3
「レンジでチンするだけですから。」
2-2.オークランド国際空港
離陸してから10時間半後、ジェット機は無事にニュージーランドのオークランド国際空港に到着した。
秋
「立夏、これは涼しい言うより寒いで。」
立夏
「時差があるから、もう真夜中の1時半や。寒いのは当たり前。さっさとホテルに行くで。」
その時、前を歩いていた少女が突然、階段から足を滑らせた。
秋
「危ない。」
階段を駆け下りて、少女の体を支えた。
「陽菜、どうした?」
お父さんらしい人が言った。
坂城陽菜
「誰かに押されたのかな。」
昴
「あなたの後ろには誰もいませんでしたよ。」
陽菜
「めまいが少し残っているせいかな?」
立夏
「私、リカちゃん。今あなたの後ろにいるの。あっ、押しちゃった。ごめんね 💛」
秋
「恐がらすんじゃない!」
坂城陽子
「私はこの子の母の坂城陽子と申します。娘の陽菜を助けて頂いてありがとうございます。陽菜、よかったね。心配しちゃった。どこかで休む?」
坂城陽菜
「ううん、いい。皆さんのおかげで飛行機の中でゆっくり休めたから。」
坂城辰吉
「父の坂城辰吉です。感謝いたします。」
秋
「私は西園寺秋と申します。当然のことをしたまでです。お気になさらないで下さい。」
坂城辰吉
「西園寺秋。どこかで聞いた覚えがありますが、どこだったか?失礼しました。」
立夏
「秋、そろそろ行くで。」
坂城辰吉
「あちらの方もどこかでお見かけしたような。娘の友だちではないようですし。」
立夏
「九条立夏と申します。早稲田大学の2回生でこの5月で20歳になりました。」
坂城辰吉
「これは、九条の姫様でしたか。お目にかかれて光栄です。何かの折にお呼び頂けたらありがたいです。」
立夏は名刺を受けとった。
立夏
「では、九条土建の三郎社長に言っておきます。会社は和歌山の御坊にあるのですね。ちょっと失礼しますね。もしもし、三郎兄ちゃん。夜遅くにごめんな。」
九条三郎
「立夏か。まだ起きとるからいいよ。何の用かな。」
立夏
「今、ニュージーランドやねんけど、ちょっと、使こてみて欲しい会社があるんや。」
九条三郎
「立夏がいい会社と言えば、無条件で使うよ。おまえの見る目は確かだ。」
立夏
「真面目に正確な仕事をする会社やなと思うけど、速度は分かれへんで。急ぎの仕事には向かんかも。電話代わるな。」
坂城辰吉
「初めまして、坂城と申します。坂城建設の社長をしております。上り坂の坂に姫路城の城で『さかき』と読みます。会社は和歌山の御坊というところにありまして、十津川村に支社があります。和歌山県南部と十津川村付近で主に活動しております。社員は御坊本社約70人,十津川支社約30人です。建築の他に土木工事もやっています。」
九条三郎
「帰国しましたら、ご連絡お願いします。南紀から紀伊半島南部にかけては、協力会社が少なくて困っていたところです。ちょっとした土木の仕事が多いですが、宜しいですか?」
坂城辰吉
「もちろん、望むところです。日本に戻りましたら、お伺いさせて頂きます。」
立夏
「これが三郎兄ちゃんの名刺です。では、私たちは失礼してホテルに向かいます。」
坂城陽菜が小声で辰吉に話しかけた。
「あの人誰?中学生みたいやけど、知り合いなの?」
坂城辰吉
「知り合いじゃないよ。一番知り合いになりたい人だ。九条立夏。九条財閥48社、関係各社を入れると250社を超える財閥の次期総帥。日本の経済界のトップだ。解散した三崎財閥を個人で買収したらしい。その数12社、関係各社を入れると80社を超える。あと、旧韮草グループ8社も買い取ったらしい。関係各社は15社ぐらいだ。個人でも中規模の財閥を持っている。風変わりだが優秀な人材を集めとると聞いた。それが後に続く連中だろう。」
秋
「立夏は、兄弟の名刺を持っとるんか?」
立夏
「主な社員の名刺も持っとるで。秋の名刺ももちろんある。会社紹介は私のアルバイトみたいなもんやから。」
秋
「なんで、いい会社かどうかわかるのん?」
立夏
「見たらわかるやん。尻取り3兄弟のスカウトを見たやろ。ギフテッドのない人でも有用かどうかは判る。会社も同じや。あの会社は三郎兄ちゃんのとこには有用やねん。」
秋
「絶対?間違いなく?」
立夏
「絶対かどうかは知らんけど、今まで間違うたことはないねん。」
3.オークランド九条ホテル
3-1.ホテル受付
坂城辰吉
「おや、みなさんもこちらのホテルに宿泊予定なんですか?」
立夏
「奇遇ですね。陽菜さんは大丈夫ですか?」
坂城陽菜
「大丈夫です。」
受付
「5泊の予定ですね。基本料金を前払いでお願いします。朝食、夕食付ですが、ルームサービス等は別料金となります。1部屋1泊500ドルですので7500ドル頂きます。」
※1ニュージーランドドル(NZ$)=87~89円ぐらい。90円で計算すればおつりがくる。
立夏
「ざっと70万円弱やな。たいした額やないから私が払とくわ。あっちのお客さんの部屋代も一緒で。」
受付
「そうしますと、950ドルとなります。」
立夏
「1100ドル払うから私たちと同じグレードにしてくれるか?」
受付
「部屋が空いてますので、5泊でよろしいですか?」
立夏
「坂城さん。5泊でいいですか?」
坂城辰吉
「そんな長い間こちらにいる予定ではないのですが。」
立夏
「ツアーで来ているわけではないのでしょう。涼しいところでのんびりとしましょう。ということで5泊で。」
秋
「今日はもう遅いから、寝ましょうか。」
ピーちゃん
「夜食はないんでしょうか?」
受付
「ありません。」
4.立夏とメグのオークランド観光案内
オークランドは150万都市だけあって、そこそこ観光地みたいなものがあります。ランド繋がりのディズニーランドにも見てみたいものがありますが、全く関係ありません。
4-1.【ケリー・タールトンズ水族館】32NZ$
立夏
「ここは海洋学者のケリー・タールトンが発案したんやで。」
メグ
「初めて聞く名前ですね。」
立夏
「廃墟となった下水処理場を改造して作ったんや。」
メグ
「下水で育てているんですか?」
立夏
「....」
メグ
「広いな。須磨の水族園とどっちが広いんかな?」
※須磨水族園は現在、神戸須磨シーワールドになっています。
立夏
「ペンギンの飼育数は世界一、世界初の海底トンネルの水槽などがあるんや。 さらに世界最大のエイを飼育していて、スパイニー・シー・ドラゴンというタツノオトシゴが見られるのも、世界中でここだけや。」
メグ
「ふうん?」
立夏
「メグ、見たくないのん?」
メグ
「見たいですが、イメージがわかないんです。」
4-2.【スカイタワー】32NZ$
立夏
「スカイタワーは高さ328mで、ニュージーランドで1番高い建物やねん。」
メグ
「街のシンボルですね。でも、東京タワーにさえ及びませんね。」
※東京タワーは333m。
立夏
「タワーの地上階は複合施設になっとるねん。」
メグ
「レストラン、カフェ、バー、ホテル、カジノなどがあります。ワインが飲めます。」
立夏
「展望台に上がると大パノラマの絶景を楽しめるんやで。」
メグ
「タワー内にはカフェやレストランではオークランドの街並みを一望できるので、観光客には人気があります。」
立夏
「1時間で1周回る回転展望台もあるねん。」
メグ
「回転展望台やったら須磨浦公園にもありますけど。」
立夏
「タワーの屋外展望台を歩く『スカイウォーク』や、192mの高さからワイヤーをつたって落下体験ができる『スカイジャンプ』など、スカイ警視正が確実に全部漏らす恐い施設があるんやで。」
※スカイジャンプとはいわゆるバンジージャンプ
メグ
「明石海峡大橋にも支柱から300m落ちるバンジーがあるらしいですが。」
※ありません
4-3.【クイーン・ストリート】無料
メグ
「これがオークランドのメインストリートです。」
立夏
「高級ブランド店からお土産物屋、デパート、カフェ、レストランなど、多くのお店が軒を連ねるショッピングの中心地やで。」
メグ
「金がなんぼあっても足らんとこです。でも心配ありません。我らのATMに払えないものはないのです。」
立夏
「ATMって私のことか。まあ、みんなで1千万円も使わんやろ。ここはシティ散策の起点にもなっとるで。」
メグ
「ここでお土産を買いましょう。お土産にはワインがいいですよ。」
立夏
「また、ええかげんなことを。」
4-4.【マウント・イーデン】無料
立夏
「オークランドには50余りの死火山があるねん。」
メグ
「マウント・イーデンはオークランド中心部に位置する死火山で、山頂からはオークランドの街を一望できます。」
立夏
「山の周りにはウォーキングコースがあり、地元民もウォーキングやランニングを楽しむスポットやで。」
メグ
「酔っぱらいには、ランニングは無理ですよ。酔いが回ってしまいます。」
立夏
「マウント・イーデンの頂上では噴火口跡を見学できます。50m程の深さのクレーターは見応えがあります。」
メグ
「オークランドの中心部からタクシーで10分程度、バスで20分程度、走って30分とアクセスがいいので、多くの観光客が訪れます。バスの本数も多いので気軽に訪れることができます。」
立夏
「20分〜30分程度で山頂まで行けるので、軽いハイキング感覚で登山を楽しめるのがポイントです。」
メグ
「山をなめたらあかん!」
※その通り!
4-5.【デボンポート】無料(フェリー代別)
立夏
「オークランドを訪れたら、ぜひ足を運んでみたいのが対岸の『デボンポート』や。」
メグ
「オークランド港からフェリーでたった15分で行ける小さな港町です。泳げばもう少しかかります。」
立夏
「市街地のすぐそばとは思えへん落ち着いた雰囲気で、かわいいカフェやショップがあるんや。」
メグ
「また、後ろにあるマウント・ビクトリアの頂上から美しい景色を楽しんだりと、ワインを飲みながら、のんびり散策するのにぴったりなエリアです。」
立夏
「飲みながらの散歩は危ないで。」
4-6.【オークランド動物園】25NZ$
立夏
「オークランド動物園は、ニュージーランド最大の動物園や。」
メグ
「広大な敷地面積を誇る園内で約130種類の動物を見学できます。」
立夏
「ニュージーランドの生物として有名な「キウイバード」も飼育されとってな、この土地ならではの動物と触れ合えるらしいで。」
メグ
「似とるけど、フルーツの『キウイ』と違います。」
立夏
「動物園内にも緑豊かな自然が多く、山やジャングルの中を歩きながら動物を見学しているような気分になるんや。なるべく自然に近い状態での飼育スタイルやから、動物との距離が近いんや。様々な動物を間近で観察できるねん。」
メグ
「石の上には動かないサソリがいて、毒蛇が尻尾から落ちてきます。気を付けましょう。」
立夏
「川口ひろし探検隊と違うわ。」
メグ
「♫ ひろしは素手で払いのける ♫」
立夏
「園内にはカフェもあるので休憩がてら食事を楽しむこともできるんや。家族連れでものんびりと楽しめる動物園やで。」
4-7.【ワン・トゥリー・ヒル】無料
立夏
「ワン・トゥリー・ヒルは標高183mの死火山で、見晴らしがいい絶景スポットとして有名です。」
メグ
「小さくても火山ですよ。噴火したらどうするんですか?」
立夏
「死火山は噴火せえへんねん。」
メグ
「そうか、それなら安心ですね。」
立夏
「ワン・トゥリー・ヒル最大の魅力は羊の放牧を見学できるんや。テレビや雑誌でよく見かけるニュージーランドらしい景色を楽しめるんや。」
メグ
「つまり、アルプスの少女ハイジの世界に浸れるということですね。」
立夏
「全然違う。頂上までのトレッキングコースの途中で羊の群れを見れるのがポイントや。」
メグ
「立て、立つんだ、クララ?と言った情景が。」
※「立て、立つんだ、ジョー」
立夏
「運が良ければ羊と一緒に写真を撮れるで。この土地の景色を求めて世界中から仰山の人が訪れて来るんや。春には桜や木蓮などが咲き誇り、お花見を堪能できるのも特徴やで。」
メグ
「お花見にはこたつと酒があれば最高です。」
立夏
「登山初心者にも登りやすいトレッキングコースなので、家族連れでも安心してトレッキングを楽しめます。」
メグ
「山をなめてはいけないんだ~。」
立夏
「現存するオークランド最古の建物、アカシア・コテージも保存されています。」
4-8.【ホビット村】84NZ$
立夏
「映画『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズのスピンオフ作品として人気を集めた『ホビット』三部作の撮影が行われたセットが『ホビット村』として残されとるんや。」
メグ
「映画見ないからわからない。」
※映画を見見ないなら知らなくても仕方がない
立夏
「世界中から映画ファンが訪れる人気の観光地になっとるで。」
メグ
「映画見ないからわからない。」
立夏
「オークランドから車で約2時間弱の距離なので、日帰りツアーに参加するのがおすすめやで。」
メグ
「ランニングでは4時間以上かかるので、走らん方が。」
立夏
「ファンタジーの世界に入り込んでしまったかのような時間をお過ごし下さい。」
4-9.【ワイトモ洞窟】79NZ$
立夏
「オークランドからちょいと離れた人気の観光地は、片道2時間半で行けるワイトモ洞窟や。」
メグ
「暗くて狭いところは、本能的に嫌いです。」
立夏
「洞窟内はじめじめしとって、水が流れとるんやて。」
メグ
「暗くて、狭くて、じめじめしとるとこは恐い。」
立夏
「洞窟内は、地下水脈が流れ、天井一面にツチボタルの放つ青白い光が広がっている神秘的な場所や。」
メグ
「青白い光はいやや!恐いねん。」
立夏
「メグ、関西弁になっとうで。」
メグ
「行き帰りにホビット村にも行けます。」
4-10.【ワイヘケ島】無料(船代別)
立夏
「オークランドから船で1時間ほどで行ける島や。素晴らしい景色と素敵なワイナリー巡りを楽しめるんや。」
メグ
「未成年はワインを飲めないから、楽しくないんじゃ?まあ、私が飲めればどうでもいいですけど。」
立夏
「ポートで当日チケットがあるさかい、気軽に訪れることが可能や。」
メグ
「島に着いたら、まず、ワイナリー巡りですね。未成年は飲めないけど。」
立夏
「また、アルコールかいな。島内を巡るバスツアーが豊富やけど、車や自転車のレンタルも可能や。ワイナリー巡りいうのんもあるから、他の島にしょっか?」
メグ
「この島がいいです!アルコール飲んで自転車はちょっときついです。酔っ払い運転もダメだろし。」
立夏
「羊の放牧風景なども見ることができて、カフェでゆっくりのんびりしたり、砂浜をだらだら歩いたりとニュージーランドのゆったりとした時間を満喫できるんや。」
メグ
「ゆっくりとワインを楽しみましょう。」
立夏
「まだ飲むんか。」
4-11.その他
【オークランド戦争記念博物館】32NZ$ぐらい
ニュージーランドの歴史と人々を紹介する。芸術作品と工芸品を探索できる。
【オークランド博物館】25NZ$
南半球屈指の博物館と言われており、マオリ族と太平洋地域の貴重なコレクションで知られている。
【オークランドアートギャラリー】20NZ$
マオリ民族の美術品、14世紀からの西洋美術作品、現代アート作品などを所蔵している。
【ニュージーランド海洋博物館】23NZ$ぐらい
世界有数の海洋国家の歴史を知ろう。日本も海洋国家だし。
【ハーバーブリッジ】無料(アトラクション別)
シティ側と対岸のノースショアを結ぶ全長1020m、高さ43mの自動車専用道路でバンジージャンプとブリッジクライムができる。ブリッジクライムって橋登りのことかな?
【ニューマーケット】無料
国内外の有名ファッションブランドのショップが立ち並ぶエリア。
【ポンソンビー】無料
おしゃれな雑貨店やレストラン、カフェ、バーが集まっている地域。
【レインボーズエンドテーマパーク】?NZ$
オークランド随一の遊園地で、コースターやフリーフォールなどのアトラクションが揃っている。
【ロトルア】無料(入浴料別)
ロトルア湖のほとりにあり、地熱活動(温泉)とマオリ文化で知られている。
【ランギトト島】無料(船代別)
険しい溶岩、青々と茂る原生林、砂浜の入り江などの景観を見ることができる。ここも川口ひろしの世界かも?
【ティリティリ・マタンギ島】無料(船代別)
野生生物保護区、鳥類の保護、手付かずの自然の美しさで知られている。こちらの方が毒蛇が出そうではある。
5.市内観光
5-1.ケリー・タールトンズ水族館
秋
「ここが立夏とメグが推薦しとった水族館やな。」
優也
「なかなか、立派ではないか。」
立夏
「おっ、砂漠の毒虫が甦っとうで。」
優也
「酷すぎます。踏まれたら死んでしまうような気がします。」
秋
「メグには、サメと水中戦をやってもらおか。」
メグ
「水中線なんか無理です。秋さん勝てるんですか。」
秋
「勝てるわけないやろ。半魚人とちゃうで。半魚人はサメより強いんか?知らんけど。」
メグ
「ところで、下水の臭いがしませんね。」
昴
「ペンギンの数が世界一か。ほんまに仰山おるなあ。」
栞
「そやけど、水族館なんか来たん何年振りやろか?」
立夏
「デートで神戸須磨シーワールドに行けへんのん?」
昴
「栞、好きな男がおるんか?」
栞
「兄ちゃんより強い人がおったら考えるかな?」
優也
「全国の決勝で昴に勝った俺のことだな?でも俺には心に決めた人がいるんだ、諦めてくれ。」
秋
「人とちゃうやん。幽霊やんか。」
栞
「人間以外に恋するのは、変態の一種や。カミキリムシやセアカゴケグモに恋するんと一緒や。」
優也
「なんで今日はこんなに言われるんだ。変態の毒虫にされてしまった。」
ピーちゃん
「ボクのことでしょう。飛び道具は最強ですよ。」
栞
「卑怯者の六連覇。『変態ロリ王』の兄貴付き。絶対ダメや。」
ピーちゃん
「どうせダメと思とったけど、思いのほか酷い言葉。」
その時坂城陽菜がベンチに腰かけているのを見つけた。
静
「どうしました。」
坂城陽菜
「お母さんの靴を踏んで、足首を捻挫したみたいです。」
坂城陽子
「私が不注意でした。」
秋
「それは、テーピングした方がいいですね。私が巻きましょう。捻挫はよくありますから。」
立夏
「秋、その救急箱はどこから出てきたんや。」
優也
「ところでお父さんはどうしたのですか?」
坂城陽菜
「先に行ってます。」
優也
「先に?」
栞
「歩けるなら、一緒に行きませんか?疲れたら担いでくれる者もおるし。」
坂城陽菜
「お言葉に甘えます。お母さんは薬をもらいに行ってます。」
坂城陽子
「陽菜、大丈夫?薬はないみたいなの。」
坂城陽菜
「大丈夫よお母さん、テーピングしてもらったから。私は皆さんとゆっくり回るから、お父さんと久しぶりにデートしててね。」
坂城陽菜は御坊海浜南高校の1年生と言うことで、同学年の今川ツインズと仲良く話をしていた。
坂城陽菜
「布引高校ってどんなところ」
静
「県立では神戸で5番目ぐらいの進学校です。私たちは真ん中の少し上ぐらいですね。」
坂城陽菜
「御坊海浜南高校は和歌山では、下から数えた方が早いレベルですね。御坊3航行の内、3番目ぐらいの進学率です。私は上位の成績ですが、海浜南のトップでは大したことないと言われます。」
秋
「あれ、軽い捻挫やな。腫れとるわけでもないし、内出血もしてない。大したことはあらへん。緩めにテーピングしたんやけど、普通に歩いとるし。」
立夏
「そうか?大したことないんか?そら、よかった....のかな?まあ、いろんな事情があるんやろ。」
5-2.【クイーン・ストリート】
立夏
「お土産はかさばらんもんにしてな。持ち運びが大変やで。」
静
「何が名物なんですか?」
秋
「食べ物なら、マヌカハニー、ワイン、クッキー、チョコレート、紅茶かな。ファッション系なら、ヒスイ、羊毛、オールブラックスの品、化粧品もあるらしいけど、私が化粧せんからわからん。」
栞
「秋さんぐらい美人やったら、化粧なんかいらんでしょ。彼氏ぐらいはおったんではないんですか?」
秋
「中高は少人数学校の実験校やったし、高2からは女子高やったし、受験もあったし。私だけ年上やったし。大学に入ってもこんなんばっかしやし。おまけに毎日の習慣で練習しよったら、もっと強くなっとうし。弟子も増えたし、道場も増えたし、子供柔道も増えたし。男の入る隙間があらへん。私より強い男やったらつきおうてもええけど。」
立夏
「秋は、幽霊に勝っとるからなあ、あとは半魚人ぐらいやな。魔獣は弱いらしいから。秋はすでに人間の域を超えとるさかい。」
ピーちゃん
「やっぱり、秋さんに勝てるのはボクだけですよ。」
秋
「飛び道具なしでも?」
坂城陽菜
「秋さんって強いんですね。」
秀
「強いで。オリンピックの柔道で相手を半殺しにして金メダルを取った人や。」
坂城陽菜
「あ、知ってる。あの人か。後でサインもらおう。」
秋
「ホテルに戻ってからの方がええで、持ち運ぶのんにかさばるから。」
静
「空手の全日本優勝者で、対戦相手を3人も病院送りにしたらしい。」
坂城陽菜
「ひえぇ~」
立夏
「秋は化け物なんか言われるのん、慣れてもとるし。空手男子全国優勝の優也、準優勝の昴、秋と戦ってみるか?本気で。」
優也
「病院送りになるんいやや。」
昴
「首がもげるんいやや。」
静
「ほんまに首がもげるんですか?」
秋
「人間には試したことがないけど、知床合宿の時、倒した7頭のヒグマの内、3頭の首を飛ばしたからなあ。たぶん人間でも首が飛ぶかと....」
静
「ほんまや!人間の首やったら確実に飛ぶやん。」
立夏
「今川ツインズも全国優勝しとうで。」
坂城陽菜
「すごいじゃないですか。」
そういいながら、みんなはお土産を選んで、お金はATMの立夏が払った。
立夏
「待てメグ。ワインの輸入業を始めるつもりなんか?5~6本ぐらいにしとけよ。」
メグ
「毎晩飲むのと、帰りの飛行機で飲むのと、帰ってから飲むのとで8本にして下さい。人の金と思うとつい使いたくなるので。」
5-3.マウント・イーデン
静
「次は山登りになるんやけど、陽菜ちゃん大丈夫?」
坂城陽菜
「あんまり痛くないから大丈夫だと思う。テーピングが上手だったんだね。」
山頂まで行くと、知った顔がいた。
陽菜
「あら、お母さんは?」
坂城辰吉
「たった今、お花摘みに行ったぞ。」
坂城陽子はすぐに戻ってきた。
坂城陽子
「あら、陽菜来たのね。捻挫してるんだから無理しちゃだめよ。」
坂城辰吉
「陽子、陽菜にそないなことを言ってはいかん。皆さんが一緒に連れて来てくれたのだね。」
坂城陽菜
「うん、皆さんにいろんな話を聞かせてもらった。」
その時陽菜は足を滑らせて噴火口のほうへ転がり落ちた。
秋
「お~い、大丈夫か?」
坂城陽菜
「草むらだから大丈夫。」
立夏
「今から、砂漠の毒虫とゾンビの昴が助けに行くからな。待っとけよ~。」
坂城陽子
「陽菜、大丈夫?けがしなかった?」
坂城辰吉
「陽子のせいじゃないよ。」
坂城陽子
「でも、陽菜はまだ子どもなんですよ。学校では友達もいないようですが。陽菜は私がついていなくちゃだめなのよ。」
坂城辰吉
「皆さんといっしょなら迷惑をかけるのでは?」
立夏
「別に迷惑じゃありませんけど。楽しんでいますし。」
秋
「今日はこれまでや。明日は動物園を中心に、その次は貸し切りバスで」
5-4.オークランド動物園
秋
「ここはニュージーランド最大で、130種類の動物がみれるんやったなあ。」
メグ
「何種類見たか数えとこ。」
立夏
「同じ動物が2回出てきたらどないすんのん?」
メグ
「間違うかも知れない。」
秋
「メグ、アホ言うとらんと。」
立夏
「実はこないだ杉並の上白河先生とこに遊びに行ったときに、あそこのセカンドドラゴンおっと竜二やったが、メグのことを聞きたがるねん。同じ大学やから、たまには研究室に遊びに行ったれや。もしかしたらメグに気があるかも知れへんで。」
メグ
「私、今までもてへんかったから、ようやく春が来た。」
立夏
「メグの正体見たら枯れ尾花。」
秋
「上白河先生とこによく遊びに行くんか?」
立夏
「まあ、大学も合わせて月に2~3回やけどな。それで、伺ったときには先生が病気の話をしてくるんや。おかげで、医学の知識もかなり増えたで。」
立夏
「ものすごく頭痛やめまいの多い女の子の事件が関係しとるかも知れへん。」
秋
「それは、もしかして。」
立夏
「私たちと一緒やったら多少安全やから、秋、しっかり見張っといて。また怪我するかも知れへん。その可能性は低いかも知れへんけど。」
秋
「立夏が言うんやったら見張っとくわ。」
立夏
「ツインズもついとるから、そんなに心配いらんかも。」
秋
「まあ、楽しそうにしとるから、ええか。」
5-5.デボンポート
動物園からオークランド港に進み、デボンポート行の船に乗った。
メグ
「泳いだら30分では泳ぎ切れへんな。」
秋
「メグの能力と体力やったら不可能ではないで。途中で半魚人と水中戦しても30分で泳ぎ切れるやろ。」
メグ
「そんなわけないですよ。だいたいが半魚人と水中戦って何ですか。」
立夏
「何やったら戦えるのん?」
秋
「あまり言いたくないんやけど、戦時中に死んだ日本軍やったら、召喚できるで。」
優也
「お菊は召喚できんのか?」
秋
「鳥取の姫路村に行ったら召喚できると思うけど、世界遺産のお菊の力が強いから、どっちが出て来るかはわからへん。名前も一緒やし。世界遺産のお菊は京都から召喚したことがあったやろ?」
立夏
「さあ、かわいいカフェでお茶でもしょっか?」
ピーちゃん
「ボクも歩き疲れました。普段から動かない生活をしているので。」
昴
「弓道に体力はいらないと?他の弓道家に叱られますよ。笑われるのかな?」
ピーちゃん
「ボクの矢は外れない。僕の弾丸も外れない。言っておきますけど、練習は誰にも負けないぐらいはやってます。」
立夏
「ピーちゃんも深泥家に産まれてなきゃ、こっちの仲間やったのになあ。そんなすごい能力を持ちながら、たかが警察庁の警部やもんなあ。」
ピーちゃん
「ボクにはその能力があると?」
立夏
「いつやったか、矢で銃口を射抜いたとき、こいつは天才やと思うたで。ピーちゃんは紛れもなくギフテッドや。警察庁やなかったら企業の社長になれるのんに。残念やったな。家を恨め!生まれを恨め、仕方なく、仕事に励め。」
ビーちゃん
「なんかようわからんけど、とっても酷いことを言われとる気がする。」
立夏
「買い物行くから、離れたらあかんで。」
秋
「ATMから離れたら、自分でお金を払わんなんで。」
立夏
「私が払うのに決まっとるんか。」
秋
「1億円ぐらいやったら、どうでもなる言うとったやんか?」
立夏
「そりゃまあ、どうとでもなるけどな。」
メグ
「私、1000万円も使えません。」
立夏
「そない言うと思たわ。メグにあげた車いくらのもんか知っとる?」
メグ
「私の愛車のポルシェですか?1000万円、いや1500万円ぐらいですか?」
立夏
「3500万円。実は今カウンタックの限定車が来たんやけど、ポルシェが愛車やったらいらんな。」
メグ
「私はポルシェがお似合いです。」
立夏
「カウンタックはポルシェの10倍の値段。日本には2~3台しかないらしい。」
メグ
「欲しいです。下さい。頂きます。立夏様。」
立夏
「あれは会社のものにするねん。どうせ私は運転免許取られんから、私の運転手が仕事で乗るんや。」
栞
「お店見ましょうよ?」
5-6.ホビット村
秋
「今日は、貸し切りバスで行きます。」
立夏
「メグが映画は見たことがないと、駄々をこねとったとこや。」
メグ
「だって、途中で眠ってしまうんですもん。」
立夏
「かわいこぶってもあかん。映画の世界を楽しむことや。『ロード・オブ・ザ・リング』日本語では『指輪物語』を知らんのか?」
メグ
「知りません。どんな話ですか?」
立夏
「道端に落ちとった指輪を、持ち主に返しに行く話や。イヌ・サル・キジをきびだんごで騙して子分にした玄奘は、愛の国ガンダーラへ向かう。行く手には妖怪がいて、彼らを食べようと手ぐすね引いて待っている。溶解をなんとか倒すとラスボスが出てくる。ラスボスも倒して無事天竺に着いた一行は、指輪の代わりにありがたい経文を得て、無事に帰ってくるという話や。宗教色が濃い映画や。」
※ガンダーラに向かったはずがいつの間にか天竺に着いている
秋
「よくもまあ、そんなでたらめが、ポンポンと口から飛び出すな!」
栞
「実際に作ったら面白いかも。」
優也
「斜面にポツポツとかわいい家が建つんは、異国情緒にあふれとるな。」
※異国です
立夏
「何か食べて行こか?」
反対する人がいるはずもない。にこにこしながら高そうなレストランに入った。
しかし、出てくるときは仏頂面であった。
優也
「値段に比べて味が今一だった。俺が金を払った訳じゃないが。」
昴
「観光地のレストランなんてそんなもんですよ。俺が金を払ったわけじゃないし。」
栞
「日本の観光地だってそんなに変われへんから。私がお金を払ったわけじゃないから。」
メグ
「不味くても仕方ないと思います。自分で金も出してないんだから。」
秀
「あれがニュージーランドの味かも知れへんです。僕のお金ではありませんし。」
静
「私たちの口に合わへんかっただけでは?おごってもらったのに、文句を言っちゃいけませんよ。」
陽菜
「私はそんなに不味いとは思わなかったですが。タダだと思うからでしょうか?」
ピーちゃん
「いや、このレストランは外れだったな。警察庁の食堂の方がましだった。」
立夏
「全ては私の責任なんですぅ~」
秋
「立夏は何も悪ないで。ただのATMやねんから。みんなも非難したらあかんやんか。」
立夏
「友達や思とったのに、私をただのATMやと思っとるんか?」
秋
「違うで。大切な友達やけどATMやんか。」
立夏
「秋が言うなら、そうかも知れへん。」
そんなことを言いながらホビット村を歩いていると、前から見たことのある人がやってきた。坂城辰吉と陽子だった。
坂城辰吉
「おや、妙なところでお会いしますな。陽菜は仲良くやってますか?」
立夏
「ご心配なく、仲良くやってます。」
その時、突然陽菜がふらついた。
陽菜
「ちょっとめまいが。」
秀
「陽菜、大丈夫か。」
静
「さっき買った冷たいジュースを飲んでみ。私まだ口を付けどらんから。」
そう言ってジュースを飲ませた。
坂城陽子
「陽菜、大丈夫か。」
陽菜
「お母さん。大丈夫。」
ピーちゃん
「娘さんは貧血があるんですか。」
坂城辰吉
「時々あるんですが。」
陽子
「この子は少し体が弱いんです。」
坂城辰吉
「早く行かないとロトルア行のバスが出てしまうよ。」
坂城陽子
「ごめんね、陽菜、そういうわけだから急いで行かないと。」
秋
「お父さんもお母さんも陽菜ちゃんのこと大事にしとるんやな。」
立夏
「ふうむ?陽菜ちゃんがゆっくり休んだらバスに戻ろか。陽菜ちゃん、この薬飲んでみて。」
優也
「何の薬?」
立夏
「ただのビタミン剤や。思った通りやったら、これで効果がある。」
秋
「バスに戻ろか。ホビット村もだいたい回ったしな。」
陽菜
「すっきりとはいかんけど、頭痛やふらつきは治まったようです。」
昴
「太秦映画村とはだいぶん違うなあ。」
5-7.ワイトモ洞窟
バスは、一行の貸し切りだったので、すぐに発車した。
秋
「次はワイトモ洞窟ですが、船で進みますから、歩かなくていいです。ツチボタルがきれいですよ。」
メグ
「みんな、騙されてはいけません。暗くて狭くて恐いところです。」
秋
「メグは『閉所恐怖症』のようです。メグのことですから大丈夫でしょう。」
陽菜
「メグさん本当に強いんですか?」
秋
「そこそこ強いで。女子やったら私の次ぐらいに強い。男子でも予選を勝ち抜いて全国大会に出てこれるかも知れんぐらいには強い。」
陽菜
「なんでいつもアホ言うとるんですか?」
秋
「アホやからや。」
陽菜
「学校はどこを出とられるのですか?」
秋
「あっと驚く東京大学。スポーツ推薦やけどな。」
陽菜
「東京大学のスポーツ推薦なんて聞いたことありませんよ。」
秋
「私も初めて知ったんや。」
立夏
「おっ、お船が来たで。乗らんと走って帰らんなんで。」
メグ
「私も船に乗るんですか?」
秋
「乗らへんのんやったら、走って帰らなあかんで。ATM様がそない言うとう。」
メグ
「道を覚えてません。道を覚える頭があったら、もっと卒業しやすい大学に行きます。」
立夏
「ほら、もう出発するで。暗くて狭い場所へ。」
メグ
「乗ればいいんでしょう。乗れば。ウ~、師匠とATMさんがいぢめる。」
陽菜
「メグさんを虐めないでください。私もつらいです。」
立夏
「ふ~ん?そうか?メグは目を閉じとればええやんか。」
メグ
「そんなん、料金を払った意味がありませんやん。」
秋
「だんだん関西弁になってきたな。」
立夏
「自分で金を出すわけじゃないのに、文句の多いやっちゃな。」
優也
「とにかく、出発しますよ。」
立夏
「きらきら光ってきれいやで。メグ見とうか?」
メグ
「見とると言ったらウソになります。」
秋
「もう洞窟出たで、メグ心配せんでええ。」
メグ
「目を開けたらまだ洞窟の中やんか!」
秋
「ツチボタル、一瞬でも見れたやろ。」
メグ
「ウ~。師匠の嘘つき!」
立夏
「はっはっは。越後屋、お主もワルじゃのう。」
秋
「お代官様こそ。ほっほっほ。」
5-8.ワイヘケ島
前日に秋が船をチャーターしてくれていた。立夏が誘って、陽菜も当然一緒に行くことになった。両親は市内観光らしい。もちろん、ATM様に逆らう人などいるわけがない。
秋
「今日は冬にしては暖かいやん。島でのんびりするのんにちょうどええかも。」
優也
「天候もいいし、俺もゆっくりすごしたいな。」
昴
「俺は今年10月の大会で優也さんを倒すために、練習するで。」
立夏
「どこに空手着がはいっとったんや。」
昴
「まずは、船内でアップや。」
優也
「仕方がないから、つきあってやる。試合したいんだろう。」
立夏
「どこに空手着を隠しとったんや。」
二人は甲板に出てアップを始めた。
ツインズ
「我々も教えて頂こう。」
立夏
「なんで、ポシェットの中に空手着が入っとるんか?」
静
「モチのロン、着るためです。」
甲板でアップするのが4人になった。やがて島に着いた。
優也
「あそこの道場で勝負だ!」
立夏
「なぜニュージーランドに空手道場がある?」
優也
「ワイヘケ道場か。たのもう!」
ニュージーランド空手家1
「先生、道場破りです。」
昴
「道場破りとちゃいます。」
優也
「お邪魔します。試合をしたいので、道場を貸してくれませんか?
ニュージーランド空手師範
「それじゃ、4対4の勝ち抜き戦でどうじゃ。」
優也
「こっちは5人、ワイヘケ道場は全員の勝ち抜き戦でいい。」
秋
「私もちょっと着替えて来るわ。」
立夏
「秋、おまえも結局やるんか!」
優也
「俺が先鋒、静が次鋒、昴が中堅、秀が副将、秋さんが大将でええか?」
昴
「あかんな。優也さんと俺が交代やな。」
秋
「私まで回って来やへんやん。」
優也
「師匠は大将に決まってます。病院送りにしないようにお願いします。」
秋
「相手が25人おるから、5人戦こうたら交代な。」
優也
「不満やけどそれでいい。」
陽菜
「私、空手の試合を見るの初めて。」
立夏
「多分、思とるほど面白くないと思うで。」
陽菜
「なぜですか?」
立夏
「全日本男子の優勝、準優勝、女子優勝、高校の男女優勝者。こんな豪華なメンバーに勝てるわけがないやん。その気になったら昴ひとりで全員倒すで。」
予想通りの結果となった。
ワイヘケ道場師範
「あんたら、めちゃくちゃ強いじゃないですか。」
立夏
「はい、めちゃくちゃ強いです。全日本男子の優勝、準優勝、女子優勝、高校の男女優勝者です。」
ワイヘケ道場師範
「これも何かの縁だろうから、ちょっと教えて行ってくれ。」
秋
「私らも遊びに来とうから、1時間半だけな。まず、視野を広げてな、上半身と下半身の動きを同時に感じるようにするねん。すると相手の動き予備動作がわかるやん。それに合わせて守ったり、間合を取ったり、せめたりすんねん。ただし自分の攻撃の時は予備動作なしで打ち込めるように練習するんや。では、やってみましょう。」
ワイヘケ道場師範
「いきなりそんなことできませんよ。」
秋
「何言うとうのん。空手の能力のない、この二人でもやりよったんや。まあ、やって行けばそのうちできるようになるやろ。」
ワイヘケ道場師範
「そんなもんですかねえ。」
秋
「疑いは罪やで。そこに二人証拠がいる。私は本当のことを教えとる。まあ、アップでやってもそれなりに成長するで。私を信じなさい。」
遊んだ後、昼ご飯を食べてごろごろして2時ごろになった。
秋
「皆さん、そろそろ帰りますよ。」
メグ
「もう少し飲みたいんですが。」
秋
「帰るまで我慢して。」
ピーちゃん
「結局、空手を見てごろごろ日向ぼっこをしただけやったな。僕も弓道を見せとけばよかった。」
陽菜
「久しぶりにのんびりできて、よかったです。空手も面白かったし、海もきれいやったし。サンゴ礁がないのが残念ですけど。」
立夏
「サンゴ礁やったら、串本に行けばあるやん。」
5-9.スカイタワー
3時からスカイタワーに登ったのは陽菜の提案だった。展望台で坂城夫妻と出会った。
立夏
「またお会いしましたね。陽菜ちゃんは楽しそうですよ。」
陽菜
「楽しく遊んでるわよ。めまいも頭痛も出てないし。」
坂城陽子
「それはよかったわね。でもあなたは体が弱いんだから、無理しちゃだめよ。」
陽菜
「わかってるわ。注意してるよ。でも、だんだん頭痛がしてめまいが.....立ってられない。」
優也と昴が両脇を抱えて、そこにある椅子に座らせた。
坂城陽子は陽菜の横に座ると
「やっぱり私がいないとダメなのよ。」
立夏
「そうですね。お母さんも大変ですね。」
秋
「大変優しいお母さんで、陽菜ちゃんも幸せですね。」
坂城陽子は満足そうに微笑ん微笑を立夏は見逃さなかった。
秋
「明日は、9時までに空港に着き、10:15発の成田空港行に乗ります。寝過ごさないようにして下さいね。成田までは11時間かかります。3時間の時差があるので、成田着は18:15頃になります。成田からは神戸空港行に乗り継ぎます。」
6.オークランド国際空港待合室
6-1.化学物質過敏症
一行は搭乗登録を済ませると、スペシャルファーストクラスの待合室に入った。
案内
「スペシャルファーストクラスの搭乗案内は1時間40分後に行います。テーブルのお菓子やジュース、コーヒー等は自由に飲食してください。」
メグ
「お酒はいけませんか?」
案内
「自動音声ですので、お答えできません。」
メグ
「そうか、答えられないなら仕方ないな。」
立夏
「ところで、陽菜ちゃんの病気についてやけど。陽菜ちゃんは化学物質過敏症やと思うんや。」
秋
「聞いたことないで、どんな病気や?」
立夏
「環境に含まれる微量の化学物質に反応して、頭痛やめまい、吐き気や倦怠感などが現れる病気や。」
坂城辰吉
「微量の化学物質って何ですか?」
立夏
「私たちといる時は、発症せんかった。お父さんと二人の時も発症せんかったやん。ということは、お母さんが原因やと思う。お母さんの化粧品の中に陽菜ちゃんの反応する、化学物質があるのではないかと思うんや。」
坂城陽子
「そんなことはありません。私は誰よりも陽菜の心配をしています。」
立夏
「でも、あなたといる時しか、陽菜ちゃんは発症してないんや。」
優也
「もしかしたら陽菜ちゃんは、お母さんがいるときに限って発症することを、疑っていたのかも知れません。なにかのアレルギーと思っていたのかも知れません。」
立夏
「私が陽菜ちゃんに渡した薬は、ビタミンとミネラルの入ったサプリメントや。そこらで普通に売っとるねん。そやけど化学物質過敏症対策の解毒剤になるんや。」
坂城陽子
「そんなことはありません。私は誰よりも陽菜の心配をしています。」
案内
「成田空港行にお乗りの方は、スペシャルファーストクラスへとお進みください。」
坂城辰吉
「私たちもスペシャルクラスに乗っていいんですか?」
立夏
「私と一緒の時にだけ乗れる、特別席です。認証登録しているので問題ありません。」
坂城辰吉
「料金は高いのでは?」
立夏
「年間定額前払いです。秋なんかは、もう何回も乗ってますよ。もちろん私が払ってますので無料です。中での飲食も無料です。」
6-2.代理ミュンヒハウゼン症候群
飛行機は成田を目指して飛び立った。
立夏
「ピーちゃん、陽子さんを保護して下さい。成田空港でトコちゃんに引き渡して下さい。傷害罪ですが、たぶん、罪に問われることはないでしょう。陽菜ちゃんに近づけないようにファーストクラスに乗ってな。」
坂城辰吉
「それはどういうことでしょうか?」
ビーちゃんが坂城陽子を保護したのを見て、
立夏
「お母さんは『代理ミュンヒハウゼン症候群』に罹っていると思うんや。」
坂城辰吉
「それはどんな病気ですか?」
立夏
「『子供が病気になれば、周りの人から、【病気の子供を看護する優しい母親】という目で見てもらえる。それで子供を病気にさせる』病気や。
とにかく、陽菜ちゃんを御坊に置いとかれん。陽菜ちゃんは私が預かる。神戸空港から貸し切りバスで御坊まで行き、全員で引っ越しの準備をして、翌日の昼までに引っ越す。引っ越し先は早稲田のサマーマンションや。マンションの説明は秋とメグがしてくれ。転校先は『東京三崎学園』にしとこう。歩いて通えるし。」
坂城辰吉
「もう、陽菜に会えないと?」
6-3.東京三崎学園
立夏
「代理ミュンヒハウゼン症候群が治るか、陽菜ちゃんが大人として考えられるようになったら、陽菜ちゃんが望めば、一緒に暮らせる。現状では陽菜ちゃんが危険なんや。わかるやろ?」
坂城辰吉
「わかります。姫様が私たちのために一生懸命ご尽力して下さることも、よく理解しています。」
陽菜
「でも『東京三崎学園』って、新しい学校やけど、全国でもベスト10に入る有名な進学校じゃないですか?そんなところで私はやっていく自信がないです。御坊海浜南高校は和歌山でも下位の学校ですよ。」
静
「でも、トップの成績なんでしょ。」
立夏
「じゃ、大丈夫や。『東京三崎学園』は自由、自主、自治を校訓としとるんや。私が高校1年の時に、日本に帰った時入るために、三郎兄ちゃんに1000億円借りて作った学校や。そのころから、三郎兄ちゃんにお金を借りて、三崎財閥を少しずつ購入してたから、三崎の名を使ってん。借金は利子付けて返済したけどな。
そやから、私が理事長やねん。ちなみに秋も理事にはいっとる。教師も私が選んどるから、校訓を守り厳しいことは言わへん。
全国10位とかの進学校と言われているけど、別に進学校でなくてもええねん。生徒は自分の生きる道を見つける。あそこなら簡単に入れる。陽菜ちゃんの成長にはええと思うで。何か問題があれば、私に言うたらええ。ただ、化学物質には気を付けてな。」
陽菜
「わかった。私、行く。そして、早稲田大学の文学部に行きたい。」
秋
「早稲田に来てなにをするのん?」
陽菜
「わかりません。でも何故か行きたいんです。」
立夏
{9月1日転校でええな。もう御坊には帰らへんのんか?}
陽菜
「わかりません。しかし、もっと楽しい世界があるんじゃないかなと思います。」
7.幽霊バス
8月15日深夜0時頃のことである。五ヶ池手前のバス停には極楽行の阪急バスが出るという。運転手は人間なのかとか、なぜ阪急バスなのかは知らない。
立夏
「幽霊バスに間に合うようにニュージーランドから帰ってきたさかいな。」
秋
「なんとか、間に合うたな。さあ、お菊、出てこい。」
秋は今年はたくさんの幽霊の中にお菊を探した。みんなが手を繋いで見ていると、お菊が2人、目の前に現れた。
秋
「すみません。世界遺産のお菊さんも召喚してしまいました。」
世界遺産のお菊
「なんや、なんや。面白そうなことが始まるんか?」
秋
「まあ。そうかも知れませんね。」
優也
「お菊、お菊じゃないか。会いたかったよ。」
秋
「お菊、今年も来てくれたんやな。」
お菊は秋の方を振り向くと、
お菊
「上谷さん、会いたかったわ。」
優也
「お菊、俺も会いたかったで。」
世界遺産のお菊
「ちょっと待ち。幽霊の世界では人間との恋はご法度やいうのんを知らんのか?」
お菊
「知ってます。でも忘れられへんねん。」
世界遺産のお菊
「ばれたら、地獄送りという厳しい刑になるんやで。そうでなくても永遠にその土地に居座る地縛霊となるんやで。それこそ、人類が滅びても地球がなくなるまでずっとやで。」
立夏
「なぜ、そんなに厳しいのですか?」
世界遺産のお菊
「悪霊になっていろんな人にとりつくことがあるからや。かわいそうやけど、あきらめなはれ。」
優也
「お菊がそんな目に合うのは耐えられない。心苦しいが別れよう。」
お菊
「私は地獄に堕ちても宜しいのですよ。」
優也
「そんなことは、絶対させん。そのために別れる。」
お菊
「わかったわ。上谷さん、やっぱり優しい人やった。」
優也
「お菊わかってくれ。愛してるからこそ別れるのだ。」
お菊は泣きながらバスに乗り込んだ。
優也は道路に両手をついて泣いていた。
お菊も優也も涙もろいのだった。
いつしか湧いて出た霧の中に、幽霊バスは消えて行った。
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