第27話 聖者まる
探知を使ってルナの居場所を特定し、まずは屋根の上にスイッととまる。ついでにまるも呼び寄せておいた。前回も、回復魔法を使えるのはまるのように見せかけておいたからね。
さて、まるを待っている間にこの家の状況を確認しておこうか。ルナによると、彼女が市場で食料品を眺めていたところ、小さな男の子が近寄ってきてりんごを一切れくれたのだとか。
今のこの状況だと、食べ物はかなり貴重なはずなのに迷いなくくれた男の子と、それをとがめなかったお母さんに何かお礼をしたくてついていったそうだ。ちなみにそのリンゴはほどよい酸味でおいしかったようだ。僕も食べたかった……
それで、その親子についていくとこのアパートの一室に入っていったというわけだ。そこには、
そんな話を聞いていたら、まるが到着したようだ。
「わんわん!」
「わあ、わんちゃんもきた! でも、もうリンゴはないんだ……ごめんね」
まるが現れたことで喜んだ男の子だったが、あげられるものがなかったようでシュンとしてしまった。たぶん、ルナにリンゴをあげたからまるにもあげないとと思ったのだろう。子どもの純粋さがまぶしいね。
そんな男の子にルナが近寄り頬ずりをする。すると、男の子は何かに気がついたようにはっとして、小さな声を上げた。
「そうか、このわんちゃんとねこちゃんはおともだちなんだね! だからぼくにあいにきてくれたんだ!」
そんな男の子の言葉にお母さんも優しく微笑んでいる。おそらく子どもの突拍子のない発想が可愛らしかったのだろう。けど、突拍子もないどころかほとんどあってるんだけどね。
「にゃー」
ほら、ルナも『そうだよ』って答えてる。人間には鳴き声にしか聞こえてないだろうけど。
それからルナは、まるを案内するかのようにお父さんが寝ている部屋へと入っていく。男の子は嬉しそうについていくが、お母さんの表情が少し曇った。まるで示し合わせたようなルナとまるの行動に、疑問を抱いたのかもしれない。
だけれど、それを止めようといった気はないようで後ろから一緒についていくだけだった。
僕はその状況を確認し、見つからないように窓の外へと移動した。さすがに魔法を使うには、対象を確認しておかないといけないからね。
部屋の中ではルナがまるに向かって短く鳴いていた。その鳴き声に応えるように、まるは布団で寝ているお父さんの枕元に立ち、生意気にも遠吠えなんかを始めた。
(このタイミングで治癒魔法をかけろということか! さてはまるのやつ、前回救世主みたいに言われて調子に乗ってるな)
ちょっとまるの調子のよさにイラッときたけど、このタイミングを逃すわけにはいかない。いかにもまるが使ったように、お父さんに治癒魔法をかけた。
「あれ? パパがひかってる」
最初に異変に気がついたのは男の子だった。その声に反応しお母さんもぼんやり光っているお父さんの姿を目にした。
「あなた!? 大丈夫なの!? あなた!」
そのなぞの光が不気味に感じたのか、お母さんはすぐに容態を確かめるためにお父さんを揺り起こした。
「んん? あぁ? どうした? もう飯の時間か? それにしてはお腹が……んあ? 痛みが!? 痛みがないぞ!?」
突然起こされたことでご飯の時間だと勘違いしていたお父さんだが、すぐに身体の痛みが引いていて怪我が治っていることに気がついたようだ。
「うぉぉぉぉ!? 治ってる!? 怪我が治ってるぞ! お前、もしかしてポーションでも手に入れたのか?」
まさか犬が回復魔法を使ったとは思っていないお父さんは、一番可能性の高そうなポーションだと思っての発言だ。
「ちがうよ! このわんちゃんがなおしてくれたんだよ!」
それを聞いた男の子が、まるを指さし自慢げに胸を反らす。
「おいおい、犬が回復魔法とかさすがに冗談……だよな?」
あまりにも子どもが自信満々なのと、お母さんが唖然とした表情をしていたのでお父さんも言葉に詰まってしまったようだ。
「わんわんわーん!」
訳すと『男の子が言う通りオイラが助けたんだわん!』なんだけど、そういう風には見せたけど助けたのは僕だからねと言いたくなる。
そんな僕の気持ちを察してくれたのか、ルナがまるの尻尾をひっかいてくれた。その衝撃にうめき声をあげるまる。
「あの、私にもその柴犬ちゃんがあなたの怪我を治したように見えました……」
そうとしか見えない演出に、お母さんも騙されてくれたようだ。それを聞いたお父さんは、信じられないといった目でまるを見つめ、男の子はますます得意げに担って小躍りを始めた。
「そうだ! このわんちゃんにおとなりのゆっちゃんもなおしてもらおうよ!」
小躍りしていた男の子が、思い出したように突然そんなことを言い出し玄関に向かってとことこと走り出した。
「わんわんわん!」
その男の子に『オイラに任せるわん!』と言いながらついていくまる。治すのはお前さんじゃないだろう……
そんなまるを見て天を仰ぐルナ。うん、後で僕の代わりに説教をしておいてほしい。
しかし、まるを回復役に任命した以上、ここで放っておくわけにはいかない。僕はすぐに隣の窓へと飛び移る。おっと、カーテンが閉まっているようだ。これじゃ中が見えないな。ルナにカーテンを開けて貰おう。
ピンポンピンポンピンポン!
男の子が隣の家のベルを三連だしたようだ。部屋の中から機械音が鳴り響き、続いてドアが開く音が聞こえた。
「あら、たかしちゃん。ごめんね。ゆっちゃんはまだ怪我が治ってなくて、一緒に遊べないのよ」
そのゆっちゃんとやらのお母さんが、男の子にやんわりと状況を伝える。
「ゆっちゃんのけがをなおしにきたんだ! ぼくにまかせてよ!」
「わんわん!」
人の手柄を自分の手柄にするあたり、この男の子とまるってなんだか似ている気がする。
男の子の勢いに押されたのか、彼とまるの侵入を許してしまうお隣のお母さん。さらにルナも隙を突いてさっと部屋へと入り、すぐにカーテンに隙間を作ってくれた。
「あっ、たかしくんだ! ごめんね。ゆずまだなおってないんだ……」
「だいじょうぶ! ぼくにまかせて! すぐになおしてあげるからね!」
男の子のセリフに合わせるかのように寝ている女の子の枕元に立ち、先ほどよりも気合いを入れた遠吠えを披露するまる。
まったく、普段遠吠えなんかひとつもしないくせに。
でも、女の子を治すことに異存があるわけではない。まるの遠吠えに合わせて今回も治癒魔法をかけてあげた。
女の子の身体がぼやっと光り、すぐに傷が癒えていく。
「あれ? いたくない! おかあさん、ゆずもういたくない!」
怪我が治った女の子は、布団から飛び出しお母さんへと抱きつく。
「ゆず、ゆず! 本当に治ったの!? ああ、神様、ありがとうございます!」
女の子に抱きつき、喜びを爆発させるお母さん。
「ちがうよ! かみさまじゃないよ! ぼくがなおしたんだよ!」
「わんわんわん! わんわーん!(違うわん! オイラが治したんだわん!)」
トンボの姿だから何も言わないけど、全部僕が治したんだからね。そう心の中で呟きながら、喜んでいる二つの家族を見てそれほど悪い気はしない僕でした。
その後、この埼玉
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