死んでから

 さて心臓が止まったのが十時五十五分。それは看護師が聴音機で心音の停止を確認した時間である。

 じつはまだ死亡時刻ではない、死亡時刻は医者が来てから決めるのである。

 それもある程度融通が利く。

 とある親戚の死に目に会いに行くとき、母が遅刻したのだがそれまで医師が待って、到着したときの時刻を死亡時刻としたことがある。


 医師が到着するまでの時間に、葬儀会社に電話しようとしたが看護師に止められた。その際理由は聞かなかったが、死亡診断書が出来上がっていないからであろう。葬儀会社もそれ無しでは動けない。


 医師が到着し、全員が確認しているからとの理由で死亡時刻は十時五十五分とされ、死亡診断書が渡される。……か、翌日訪問診療所へ取りに行った、かもしれない。ちょっと覚えていない。


 まあこれで葬儀会社に連絡できるようになった、さあ連絡しよう、

 の、前に。

 看護師の提案で遺体の清掃をした。訪問看護ステーションによっては有料だけど、これはお勧めできる。

 出来るだけ垢を落とし、爪を切り、髪の毛を整え、髭を剃る。

 膀胱から尿を絞り出す。血液循環が止まっているため痔を体内に押し込める。

 まだまだ死後硬直までには時間がある、葬儀会社がくる前にやっておこう。


 なぜ葬儀会社の前に清掃をするかというと、葬儀会社が来たらすぐに遺体を葬儀会社が持ってきたお布団に安置され、ドライアイスを抱かれ、ドライアイスが落ちない、すぐ溶けないように遺体に燃える拘束シートをかけてしまう。

 もう清掃なんて出来る物ではなくなる。

 この状態から清掃をするとなると、古式葬式の中に含まれる遺体の湯灌ゆかんというオプションを葬儀会社から購入しないといけない。

 たっけーんだよこれ。どこの葬儀会社でもたっけー。葬儀会社によっては十万超えるよ。

 葬儀会社がくる前に清掃をして顔を整えれば――顔の整形は血液を綺麗に流す必要があるので、看護師さんにやってもらうと良い――見栄えは完璧。なんたって顔以外はシートに包まれているか、葬儀が始まるときには遺体は棺桶の中だしお布団がかかっているから見えない。

 納棺式という、故人を棺桶に入れる儀式があるのだが、極めて近しい人と葬儀会社のスタッフで行うし、やはりお布団があるから見えない。

 自宅で看取る場合の特権である。


 そう、これは自宅で看取る場合である。

 私は自宅で看取ったので詳しくは説明できないが、病院で死んだ場合看護師がちょろっとケアをした後葬儀会社が家まで遺体を運んでくる。

 まあ多分そのままくるくるっと巻いてお布団に安置するであろう。こんな機会はない。

 オプション買ってないのでわからないけど、湯灌と納棺師を依頼すれば身体が綺麗になり顔の整形をして貰える。

 湯灌はお湯であらうことで、顔の整形は納棺師の分野。2つもオプション買うのか……。


 まあね、自宅で看取るって想像の三十倍は大変だからね。

 介護士を尊敬するようになるくらいだからね。

 私と母で介護したけど、二人とも「早く死んでもらいたい」って思うほどには疲れたからね、実質二週間の介護で。もちろん本当に死んでもらいたいとは思わないけど、一時そう思うくらい大変だった。

 こういう優遇はあっても良いと思うね。


 でも、お顔が損壊していたり酷い状態な場合は素直に納棺師を呼ぼう。本当に綺麗になるそうだ。

 事故で身体が破損していたら湯灌しよう。

 葬儀とはどれだけが納得できるかが一番重要なのである。

「最後顔が綺麗で良かったね」「血がついていなくて綺麗にして貰えて良かったね」

 そう思えるのが一番良い。後で後悔しても遅い。しかも葬儀って一生もので一回限りだから生涯ああすれば良かったこうすれば良かったと後悔する。

 そんなの故人は喜ばない。

 故人が普通じゃないときは、このまま火葬が納得できなければ、やろう。


 話を戻そう。十二時三十分くらいに葬儀会社に電話をして、葬儀会社に来てもらう。

 遺体安置の人が来ると言うことだ。一時間くらいでその人が到着した。

 先ほどの話通り葬儀会社が持ってきた布団の上に遺体をのせ、安置。この際父がいつも使っていたベッドにおいてもらった。

 当たり前だが持ってきてもらう道具の中には専用の敷き布団も掛け布団もある。

 どちらも火葬で燃やしちゃうから安物ではあるけど。

 だからいつも寝ている場所があればそこに寝るんで、場所がなくてガッチガチのフローリングに布団を敷くとかはないと思う。

 いつもお布団しか敷いてないよ! 大丈夫、葬儀会社の布団で寝てますよ。


 この時点で線香を立てる場所が作られ、宗派を聞かれた。

 うちに特定の宗派はなかったが、であればお父上の家系の宗派を聞いて、そこで行うとスムーズですよと告げられる。後で聞くことにした。

 帰りに名刺を渡されて終了。

 名刺もらったり宗派のこととかは、私が話しかけまくって凄い凄いさすがって言いまくっていたから気を良くして教えてもらったと思っている。

 遺体安置以外その人と関わりがなかったからね。名刺どうしよう。

 やっぱ興味を持ち質問して歓喜するって強いっすよ。


 これでその日はおしまい。翌日営業の方がくることとなる。

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