第4話



「ついにこの時が来たか」



 一通の書簡。それが私のもとに届いたのは冬を過ぎて春の事だった。王の御印がついた書簡だ。内容によっては今後の動きが決まる。



 開く。内容は長い。じっくりと時間をかけて読み込む。読み終えた私は、天幕の外へと出て野営地の中を歩き、ドランの居る天幕へと入った。



「団長。それは……例の」



 ドランが立ち上がる。そして、緊張した面持ちで私を見ていた。彼も書簡が来た事は既に知っている。同じ野営地に居るのだ。知らない方がおかしい。



「聞いてくれ。ドラン」



 私は副団長である彼には、最初にこの書簡の内容を知ってもらいたい。そう考えていた。



「はい」



 ドランが姿勢を正すのが見てわかった。私と彼は互いに緊張している。



「……王からの直々の要請だ。魔軍を討つ」



 私は間を少し置いて、はっきりと告げた。ドランの目つきが変わった。久しぶりに見る刃物の如く鋭い目だった。



「ついに、国を荒らす魔族を討つのですね」



 ドランがいった。



 魔物をまとめている魔族を討つ。魔物を生み出すのは魔族であり、その魔族がいる限り魔物は国に跋扈し続ける。これは重要な任務だった。武功をあげるまたとない好機。それが巡って来たのだ。



「この国には、魔族が1匹いる。そいつが諸悪の根源だ。この書簡を鵜呑みにするなら、魔族は王城を目指して動き出した」



「それを私達が……」



 ドランはそこまでいって、息を飲んだ。沈黙。私の言葉を待っている沈黙だった。



「そうだ。討伐する! 全軍に通達しろ。悪魔を黙らせにいくぞ」



 ドランがうなずき、駆けだす。私はその後に天幕を出て、野営地の中央で待機した。続々と兵が集まってくる。みなの目を見る。燃えている。火が目に灯っている。燃え盛っている。



 一番の大勝負がやってきた。書簡は本物だ。そして、国の情勢を見るに魔族が動いた事にも嘘はないだろう。それぐらいの予想はついた。全軍が集まった事を確認する。



 気づけばかなりの大所帯になった。私は目の前に見える兵達を見て思った。国の中で最も勢力のある集団になったのではないだろうか? そう思う事は多い。小説家の野望は未だ遠いが、今日それが一気に進むのだ。



「団長! これを」



 側近の1人が演説台を私の隣に置き、そういった。礼を述べて、私は演説台へと上がった。兵達、1人1人の顔を見る。この者達が居れば、私の野望は叶うのだという確信がある。目を見ればわかるのだ。燃える目をしている。



「我々は長年、悪魔に苦しめられてきた。ここに、王からの書簡がある!」



 私は書簡を兵達へと見せつけた。兵達の固唾を飲む音。それが聞こえた。



「諸君。悪魔を殺すぞ!」



 もはや言葉は無粋。ここまで来れば押し通る。



 過去一番の大歓声と拍手が起こった。私は腕を天高く振り上げて、演説台から降りた。



――



 行軍していると、偵察隊が魔軍を発見したと報告があった。既に私も、そして部下達も心の準備はできていた。命令を飛ばし、強行軍で魔軍の場所へ向かう。



 精強な私の傭兵団は、さらに精強なものとなっている。歩けない兵などいらない。私はそう思っている。行軍速度は敵の不意を打つためには必要なものだ。そのために私と側近達は厳しい訓練を行ってきた。その分の価値はあるという餌もちゃんと用意してきた。



 今、まさしくその真価が発揮されようとしていた。魔軍が到達する位置。その付近まで来て、私は戦闘隊形を組むように命を飛ばす。場所の優位だけは譲る訳にはいかない。戦場はこちらが決める。



 魔軍が見えた。おびただしい数の魔物がいる。理性の欠片もない動きでただ進んでくる。私は馬を駆けさせて、自軍の戦列の前を通って叫び続けた。



「我々は勝つ!」



 そう叫び続けた。数では負けているが、士気はこちらが圧倒している。私がわざわざ声をかけずとも、兵達の戦意は十分だった。



 それから敵の接近を待ち、私は一旦後方へと下がる。私達は丘の上を陣取っている。高所は有利だ。私は合図を出す機会を待った。敵が走り出した。魔族の命令だろう。全軍で向かってくる。単純な命令しか実行できない魔物らしい動きだった。



「放て」



 私は腰にある手旗を取って、合図を送る。弓兵が一斉に矢を放った。魔物達が次々倒れる。面白い程に減っていく。この日のために用意させた長弓は、私の想像以上の働きをしていた。従来の弓より扱いは難しいが、威力と射程は従来品の上を行く。完全武装の騎士を殺す威力は無いが、生身の魔物には効果は絶大だ。



 それに陣形にも拘った。倍の数にも耐えうるように弓兵の配置と歩兵の配置を決めている。正面から来る敵に矢玉が集中できるようにしている。ちょっとした砦だと自負している。



 事実、魔物は殆ど私達に接近できていない。時々、接近を許してしまうが弓兵には近づけない。そのための歩兵だ。重装備の歩兵で食い止める。戦場全体の流れはわからない。指揮官といえど、上から戦場を見ている訳ではない。ただ、報告では突破されそうだというものは無い。



 私が直接率いるのは、選りすぐりの兵と馬を集めた騎兵隊だ。副団長のドランの合図で一気に敵後方へ進出して囲み叩く作戦だ。



「副団長より伝令! 行けます!」



 全速力で駆けてきた伝令兵が馬上から叫んでいた。





「行くぞ!」





 私も叫んだ。そして駆ける。騎兵隊が私の後に続いているのが気配でわかった。




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