春先、つれづれ、詠みがたり

澳 加純

第1話冬日和

葉陰から こぼれる雫 陽だまりと


  なりて静かな午後を彩る










 冬日和。




 よく晴れた冬の穏やかなひと日よ。




 天中から少し傾いた太陽からは、うららかな日差し。




 常緑樹の葉が揺れて、その隙間から光が差す。




 きらきらとした光の雫が寄り集まりて、小さな陽だまりを形成した。






 自然が見せた万華鏡。




 瞬く間に、


 音もなく、光の色と形は変わりゆく。




 春遠からじとおもふ、静かな午後。








 春来ぬと目にはさやかに見えねども 揺れる光におどろかれぬる




 


 ****




 最期の一首は本歌取りです。


 元歌は、三十六歌仙の一人にも称されている藤原敏行(ふじわら の としゆき)の、




  秋来ぬと目にはさやかに見えねども

         風の音にぞおどろかれぬる




です。古今和歌集に収められたメジャーな一首ですね。ストレートでシンプルな歌なので、現代語訳が無くても、作者の言いたいことは伝わってきます。




 「おどろかれぬる」は現代語に訳すと、「(秋の到来に)ハッと気付きました」でしょうか。「驚く」というと「超ビックリしたじゃん!」とめちゃ驚いた級の感覚で受け取ってしまいますが、当時の「おどろく」は(感慨深く)季節の到来を感じ入った、くらいのニュアンスなのだそうです。


 ――という解説を読んだ時、(だよね、じゃないと上の句と釣り合い取れないものね)と思いましたっけ。時間だけではなく、日本語も移ろっているようです。




 あ、もちろんここは「(春の到来に)ハッと気付きました」のニュアンスでお願いします。







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