第14話

アルドールとクライゼンは明朝にホテルを発ち、手紙の送り主ガーゼルに会うため都心部から遥か遠くに離れた地方の街にあるローズ旧教会へと向かっていた。

「ローズ旧教会‥‥‥。何百年も昔に建てられた古い教会の総称らしいよ。宗教が消えた今でも、年に多くもの人たちが観光に訪れているんだって」

全自動で運転してくれる四輪車の中で、クライゼンは端末を見つめながらそう言った。

「観光地なのか。人があんまりに多いと送り主と会うのは少し大変じゃないのか?」

「そうでもないよ。この国では宗教が自然消滅しているから、聖書を手にしている人は相当目立つはず。それに前から三列目の長椅子に座って待っていると言っているぐらいだし、きっとすぐに見つかると思う」

そんな会話をしているうちに二人は大聖堂のある街へと到着した。そこは夜市があった街とよく似ていて、石造りの建物がところ狭しと並んでいる。

ただ唯一違ったのは、居住用の建物よりも教会の方が圧倒的に多い点だった。ローズ旧教会と言うのは建物ではなくこの街全体を指しているかのようだ。

「困ったな。どの大聖堂か分からないじゃないか」

アルドールが端末で出した地図を見ながら言った。

この街には小さな教会が200以上もあり、大聖堂という名前が付けられたものに絞っても12か所もある。その全てを巡って手紙の送り主を探していては日が暮れてしまう。

「どうする?」

クライゼンがため息交じりに尋ねると、アルドールは自身満々に答えた。

「どうするも何もしらみ潰しに探すしかないさ。なぁにきっと4,5か所探せば見つかるよ」

そう言って、アルドールは最初の大聖堂へと向かって歩き出した。

中へと入ると外とは打って変わり静寂に包まれており、神聖な雰囲気がその場を支配している。

目まいがするほど高い天井の空間には長椅子が等間隔に並んでいた。

そして、前から三列目の長椅子にその人物はいた。

手に分厚い聖書を盛った老婆だ。

「ほら見つかったぞ。ラッキー」

アルドールは小声でそう言うと、意気揚々と彼女の元へと向かった。

「あなたがガーゼルさんですか?」

そう言って老婆に尋ねた。

「はて?人違いでは?」

しかし老婆は首を傾げた。

「手紙を貰ってきたのですが、前から三列目の長椅子で聖書を手に待っていると。この国では聖書を持つ人は珍しい。だからてっきりあなただと」

アルドールがそう言うと老婆は微笑んでいった。

「あぁそういうことね。わたしはただの観光客なのよ。これはレプリカの聖書。ここのすぐ近くにある土産物屋で買ったものなの。教会を巡るのに良い雰囲気が出るでしょ?」

どうやら彼女はガーゼルでは無いのは確かのようだ。

二人は彼女に会釈をすると大聖堂を後にした。

「アルドール、もしかしてこれかなり面倒じゃない?」

「‥‥‥そうだな」

クライゼンの言葉にアルドールは頷いた。

ここには大聖堂がたくさんある上に、多くの人が聖書を手にしている。これではガーゼルに会うためには多くの人に話しかけなくてはならない。

人付き合いの苦手なクライゼンが一人だったのなら、ここでもうすっかりと諦めていただろうが、アルドールはそうでは無かった。

彼女はクライゼンを連れて片っ端から大聖堂を巡って、三列目の長椅子に座る聖書を持つ人全員に話しかけた。


「いやぁ。俺はガーゼルではないなぁ。ガーゼという名だけど、手紙は出してないし人違いだな」

「本当に?!名前を書き間違えて手紙を出したとか?」

「だから記憶にないって言ってんだろ!!あんた少ししつこいぞ」

そうやった条件に該当する最後の一人にアルドールが追い払われたのは夕暮れのことだった。

二人は街中を歩き回ってへとへとになりながら小さなホテルへと向かい、部屋に着くとすぐにベッドの上に倒れ込んだ。

「正午を過ぎてたからもう帰ってたのかなぁ?」

とクライゼン。

「てことは正午にしか現れないとすると見つけるのには凄く手間が掛かるな。下手すら4,5日ぐらい掛かるかもな」

「「‥‥‥」」

二人はしばらく無言になって何か良い捜し方がないか考え始めたが、とうとう見つからず気分転換にと、夕食を食べにホテルに入っているレストランへと向かったのだった。

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