メガロポリス

秋の香草

01. 一級大学受験

 メトロに揺られている。車内は、職場や学校へ向かう人でごった返している。

 その中でかいは、最後の追い上げとばかりに開いていた参考書を片手に、とめどなく流れていく車窓を眺めている。


 今日は、大学入学試験の一日目だ。周りに目をやると、真剣な顔つきで参考書やノートに目をやっている学生が何人もいる。

 櫂は、試験を前に平静を装っているものの、心の内では嵐が吹き荒れていた。早く終わってくれという思いと、一生試験が来ないでくれという思いが、ぐるぐる駆け回っている。



 大学に階級制度が導入されて、何年経っただろうか。全ての大学は、研究実績や卒業生の業績などによって、評価の高い順に一級から五級までに分類される。国からの交付金は、ごく一部の高級大学に集中投入される。反対に低級大学は、学校の数が多いうえに交付金が少ないため、厳しい運営を強いられる。

 当然、受験生は少しでも高い階級の大学に進学しようとする。充実した教育研究は誰にとっても魅力的だが、何よりも、高級大学卒という肩書はとても貴重なのだ。


 そして櫂は、一級大学の一つ、西都工科大を受験していた。



 駅の改札を出ると、目の前、コンコースの壁際に、櫂の友人・奏太かなたが立っていた。

 奏太とは小さいころからの付き合いだ。高校は別のところに進学したが、二人とも西都工科大を受験するということで、こうして改札前で落ち合うことになっていた。


「ごめん、もしかして待った?」

「今来たとこだ。……いよいよ今日が本番だな。がんばろうぜ」


 奏太はいつもと変わらず、自身に満ちた眼差しを櫂に向ける。

 二人は時折会話を交わしつつ、試験会場へと歩いて向かった。


 西都工科大の場合、大学入学試験は二日に分けて実施される。一日目の科目は国語・英語・社会科、二日目は数学と理科である。試験内容は大学によって様々だが、西都工科大の場合は、理数科目の重厚な記述問題が有名だった。



 入学試験は、その二日間に櫂の持てる全てを費やしてきた割には、あっという間に終わった。

 二日目の帰り道、櫂は奏太と並んで、朱い夕日に照らされながら、駅に向かって歩いている。


「理科、やらかした——!!」


 櫂は理数科が得意と自負していた。なので一日目の人文社会科目はほどほどに点を確保しておき、二日目の数学・理科で一気にライバルを突き放す戦略を描いていた。だが今年は理科の傾向が変わり、冷や汗をかきながら解く羽目になった。


「やばかったよな。あんなに出題傾向が変わるとは思わなかった」

 そう言いつつも、奏太からは自信が満ち溢れている。こいつはそういうやつなのだ。


「はあ。二級大から大企業っていけるのかな……」

「弱気になるなよ。絶対受かってるって」



 櫂を含め、受験生が大学の階級にこだわるのには理由がある。

 企業が、国家をしのぐほどの社会的影響力を持った時代。企業は、福祉・軍事・公共事業といった、かつては国家が担っていた役割ですら、国からの委任権限マンデートをもとに果たしている。

 それらを担う巨大複合企業コングロマリットに入社できるかどうかが、人生の明暗を分けるとされる。例えば給料一つとっても、巨大企業と一般の中小企業では、入社時点で二十倍もの所得格差が生じるのだ。

 そして巨大企業に就職するためには、一級大学を卒業することが大前提となる。



 試験から二週間後、合格番号一覧を見るや否や、櫂は飛び上がった。西都工科大に合格したのだ。学校に行くと、奏太も無事受かったことを知った。


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