第5話 聖地巡礼! 前編
「着いたぜ閻魔駅!」
「焔君、閻魔じゃなくて天満だよ」
JR大阪駅から大阪環状線で一駅。焔たち漫画研究部の4名は日本一長い(といわれる)天神橋筋商店街のある、天満駅に来ていた。
「こうやって課外活動が認められたのも、焔君が入部してくれて正式に部活の存続が決まったおかげだね」
琴音が感慨深くそう言うと、ベージュの帽子をかぶったメアリが地図を眺めながら続く。
「まさか『鬼夜叉』の聖地巡礼に来られるなんて、漫研に入っていて良かったです!」
なぜ焔たちが天満に来ているのか。それは先日琴音が改正を追い返した直後に話は真希戻る。
「部長、外で誰かと話してました?」
お行儀悪く、漫画を読みながら弁当を食べているメアリが声をかける。
「いや、なんでもないよ。それより今日はみんなに相談があるんだ」
「なんですか? 急に改まって」
こちらはお行儀よく、漫画を読まずにお弁当を食べている唯。それに対し琴音が「ふふふ」と不敵な笑みを浮かべた。
「今度のゴールデンウィーク、我々漫画研究部で聖地巡礼に出向こうと思うんだ!」
「聖地巡礼?」
それは琴音以外、誰にも聞き覚えのない言葉であった。
「聖地巡礼って、メッカでもめぐるつもりですか?」
「うちはクリスチャンなのでイスラムとかそういうのは……」
「そうじゃないよ。聖地巡礼というのは、アニメや漫画の舞台になった土地を実際に訪れることさ!」
「それを聖地巡礼というんですか?」
唯の疑問に対し、琴音は深く頷いて答える。
「私も最近知ったのだがね。今回はその聖地巡礼にうってつけの漫画を見つけたのさ!」
「それってもしかして……」
ごくりとお弁当のミートボールを飲み込むメアリ。琴音はおもむろに、焔が積んでいる漫画の中から一冊を取り出した。
「この『鬼夜叉』さ!」
「何々、鬼夜叉がどうかしたのか⁉」
その名前を聞いて、ようやく漫画の世界から戻ってきた焔。
「この漫画の舞台である大阪天満宮に、我々は聖地巡礼に行きたいと思う!」
「「やったぁ!」」
歓声を上げるメアリと焔。それを見ていた唯も「やれやれ」と笑みをこぼす。
そんなやり取りがあり、ゴールデンウィークに入った漫画研究部は4人で大阪天満宮がある天神橋へとやって来ていた。
「まずは腹ごしらえと行こうか。この辺に人気のたこ焼き屋があるらしいよ」
「たこ焼き! 食べてみたいぞ!」
勢いよく階段を降り、改札を出て商店街の方へと向かう一行。
外はあいにくのにわか雨だが、商店街はほとんどアーケード状になっているため濡れる心配はない。
「ここが天神橋筋商店街……漫画にも出てきていましたね!」
「むぅ……でも人間が多いなぁ」
長期休みということもあり、商店街は多くの買い物客や観光客でごった返している。
「あっ、あそこだ。たこ焼きのわねか!」
商店街の角にある、真っ赤な下地におじさんの絵が描かれた看板が特徴なたこ焼き屋。
メアリの持っている天神橋マップにも載っており、『鬼夜叉』にもパロディしたお店が出てきて一躍有名になったお店である。
「焔さんはたこ焼き食べるの初めてですよね」
「初めてだぞ! 漫画で見た時からうまそうだと思ってた!」
たこ焼きは『鬼夜叉』の主人公の好物で、ストーリでもたびたび出てくる重要アイテム。焔は内心ずっとそのたこ焼きというものを自分も食べてみたいと思っていた。
「お姉さん、12個入りのたこ焼きを4つ」
「はいよぉ!」
琴音がお金を渡すと、タオルをねじり鉢巻きのように巻いた女性が手際よく型に記事を逃し込んでいく。
じゅぅとはじけるような音を立てながら、女性はタコやネギを順番に入れていき、絶妙な技術でひっくり返していった。
「はいよっ、たこ焼き4つお待ち!」
紙の箱一杯、ぎゅうぎゅうに詰められたフワフワのたこ焼き。焔はその箱を受け取るや否や、たこ焼きを素手でつかんで勢いよく口に放り込んだ。
「あっ、焔君! そのまま口に入れたら——」
「あっふ! あっふい!」
鬼と言えど口の中の熱さには耐えられず、はふはふと息を吹きながら熱そうに悶える。
唯とメアリはそんな様子を微笑ましく見ながら、小さくタコ焼きを切って口に運んでいた。
「……どうだい、焔君。美味しいかい?」
なんとか口の中のたこ焼きを覚まして飲み込んだ焔。その顔は満足げに笑っている。
「美味しいぞ! 人間界で食った物の中で一番だ!」
「喜んでくれたのなら何よりだ。じゃあ今回のメインイベント、大阪天満宮の方へ向かおうか」
四人はたこ焼きを食べながら、再び商店街を歩き始める。
外の天気は次第に晴れていき、雲の隙間から太陽が顔をのぞかせていた、
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