第15話 親戚デビュー、晩餐会はじまる

 いろいろあった気がする『魔力診』も無事に(?)終わった。

 書斎の扉の外で待っていてくれたのは、乳母やのサリー、ローサ、メイド長のエウニーケさんたち。

 嬉しい!

 だけど、メイド長なのにこんなにも自ら率先して動いてくれているエウニーケさんって、働きすぎでは?

「よろしいのですよお嬢さま。わたくし、やりたいことしか、やっていませんから!」

 笑顔が眩しい!

 あたしの心を読み取ったような……

 でも、その宣言は、メイド長さんの立場的に、どうなんでしょうね?

 すっごく楽しそうなエウニーケさんです!


 お父さま、お母さま、エステリオ叔父さま、あたし、そしてコマラパ老師さまは、メイド長さんや乳母や、ローサを従え、書斎を出て広間へ向かう。

 あたしたちの頭上には守護妖精が飛び交い、彼女たちの軌跡に落ちる光の粉がキラキラと輝いている。

 あたしたちの移動に付き従ってくれている、メイド長を初めとする一行に、あらたに二人のメイドさんたちが加わった。みんな楽しそうにニコニコしてる。


『そりゃ嬉しいわよ。幸せを運ぶお嬢さまのおそば近くにいられるんだもの』

『楽しくてしょうがないはずよ。でも、だいじょうぶ、彼女たちもお仕事は心得てるわよ』

 妖精さんたちの言う通りでした。広間が近づいてきたら、メイドさんたちはニコニコ笑顔を消して、お仕事モードに入って表情を引き締めた。

 入り口に着く。

 有能な執事、バルドルさんの口上が響いた。

「お待たせ致しました、皆様。我がラゼル家当主ご一家がまいりました。そして、このたびの『見届け人』は魔導師協会から派遣されてくださっています」

 とたんに、賑やかな音楽が始まった。

 楽しげな音楽の演奏をしてくれている、十人くらいのおじさんたちが見えた。

 出張してくれる楽隊さんなのかしら!?

 赤、青、緑、黄色、紫……鮮やかな、虹のような七色に染め分けられた布を肩にかけて、笛や竪琴、太鼓を叩いて自分たちも踊り出しそうなの!

 完全に、宴会のノリだわ。

 お父さまとお母さまは連れだって奥のほうへ進み、乳母やに抱っこされたあたしも隣へ。エステリオ叔父さまは少し離れて佇み、コマラパ老師が寄り添う。

 たくさん並べられた丸いテーブルに、飲み物のグラスや、食べ物が盛られた大皿が並んで、お客さまたちはてんでにおしゃべりをしている。

 ご招待に応じていらしてくださってるのは、親族の方々だけのはずなんだけど。

 それでも数十名くらい、いらっしゃるかしら?


「旦那様。フェリース家ご夫妻がおいでです」

 バルドルさんのご案内で、お父さまは近づいてきた来客に向き直った。

 穏やかな顔をした初老のご夫婦。

 フェリース家といえば、お母さまの実家ね。

「なんと愛らしい。アイリアーナの子どもの頃によく似ている。マウリシオ殿。このたびはアイリス嬢が無事に『魔力診』を迎えられて、まことめでたい」

 赤ら顔の初老のおじさまは、上機嫌。

「アイリアーナ。お元気そうね。マウリシオさん、お噂はかねがね。シ・イル・リリヤから遠く離れているわたくしどものところにも、ラゼル商会のご発展のようすは、頻繁に伝わってきますもの。アイリアーナも良い方に嫁いだと、この子の亡き両親も喜んでおりますことでしょう」

 色白の肌に淡い金髪の老婦人は、胸もとから取り出した小さなリネンのチーフを目に当てた。

「ありがとうございます、ルチアーノ伯父さま、イヴリン伯母さま。長い間、親代わりで、とてもよくしていただきました。本当にお世話になりました」

 お母さまは、つつましく答えて、微笑んだけれど。


 ……悲しそうに見えたの。

 お母さまのご両親は亡くなっていたの?

 親代わりの親戚のかたは、遠くに住んでいる?

 ……じゃあ、お母さまは……とても……

 前世の両親と死に別れた(先に死んだのは、あたしの方だけど)あたしは、お母さまの心情を思うと、胸が、ぎゅっとしめつけられた。

 とても。とっても、悲しくて苦しくて辛かった。

 お母さま……!


「ところで先代のご当主はいらしていないの? 奥さまのメルセデス様とは親しくしていただいていましたけど、ご病気で療養しておられるとうかがいました」

「ヒューゴー老は、性格はともかく、華やかな場を好んでいたと思いましたが」

 フェリース家のご夫妻の疑念に、 

「お恥ずかしい話です。わたくしが先代と仲違いをしておりますもので。我が家にお力添えしてくださるフェリース家の方々には本当に感謝しております」

 お父さまは答え、頭を垂れた。

 するとルチアーノ伯父さまは慌てて手を振る。

「いやいや、頭をお上げください! ラゼル家に肩を並べるなど我が家にはとうてい無理ですよ。ですがそうおっしゃっていただけるとは、ありがたい限り。どうぞ、これからも末永くご親交をお願いします」

「こちらこそ」

 お父さまとフェリース家のご当主は、かたく握手を交わした。


 これを皮切りに、次々と親族が挨拶にやってきたの。

 フェリース家の遠縁の方々や、ラゼル家の親戚一同や遠い親族。

 お父さまとお母さま、それぞれの伯父、伯母、いとこ。その子供?

 でも、いとこの結婚相手の、そのまたいとこの嫁の姉妹、とかって、もう血縁じゃないよね?

 それも親戚なの?

 ヒューゴー老って呼ばれているらしいお祖父さまは、いないけれど。


 けっこう、大所帯なのね……。

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