傭兵商売 ~冷凍封印された最強兵士、百年後の世界で再び成り上がる~
仮名絵 螢蝶
第一章 邂逅編 世界大戦を終結させた最強の兵士、新たな戦いに挑む
邂逅編1話 最強兵士、目覚める
"……少尉……起きて……起きてってば!……"
……囁きかけて来る少女の声……どのぐらい……眠っていたのだろう……オレは……誰だったっけな?
意識が微睡み、思考が輪郭を為さない。心を覆う
「コードレッド!!少尉、コードレッドよ!!」
思い出したぞ、オレは兵士だ!自由都市同盟軍特務少尉・天掛カナタ!それがオレの名だ。
心の起爆剤が点火し、あっという間に意識が覚醒する。全身を覆う氷を砕き、コールドスリープポッドから飛び出たオレの瞳に、共に戦争を生き抜いた少女の姿が映った。だが、再会を喜んでる場合じゃなさそうだな!
「コードレッドだと!? リリス、状況を報告しろ!」
リリエス・ローエングリンはIQ180超の天才にして部隊の参謀。的確な分析力と抜群の記憶力でオレを助けてくれる。頼りになる仲間で未来の嫁だ。
「詳しい状況はまだ不明よ。だけど講和条約が締結されて、封印が解かれたんじゃないのは確かね。見て、この床を。」
片膝をついたオレは、床を指でなぞった。……フロアタイルを覆い隠す程の埃が積もっている。
「講和条約締結まで、長くても半年……この埃の量からして、半年どころか数年は経過してるな。」
数十年は経っていそうだと思ったが、リリスを不安にさせたくない。単にオレがそんな事を信じたくないだけかもしれないが……
「予定通りなら、パーチ会長が起こしに来る筈よ。なのに私は勝手に目覚めた。おかしいと思わない?」
「おかしな事だらけだな。リリス、急いでみんなを起こせ。」
「もうやってる。というより、私が目覚めた時、少尉達のコールドスリープポッドの覚醒装置はもう起動していたのよ。」
この秘密施設の場所を知っているのも、正規の手順を踏んで入る事が出来るのも、酸供連のパーチ会長だけだ。"私以外の人間が施設に侵入すれば、コールドスリープが解除されます"、確か会長はそう言っていたな。つまりは……
「隊長!」 「カナタ!」 「バウ!(おはよう!)」
目覚めた仲間、副官のシオンと遊撃兵のナツメ、軍用犬の雪風がオレに駆け寄って来る。無事に再会出来た仲間(シオンとナツメは未来の嫁)を抱き締めたいところだが、今は緊急事態だ。
「シオン、ナツメ、雪風、コードレッドだ。何者かが施設に侵入した可能性が高い。」
緊急事態を告げられた三人は、女の子の顔から兵士の顔になった。雪風は四足歩行の兵士だが、そこらの人間より遥かに頭がいい高等生物なので、部隊では人間にカテゴライズされている。
「ハグは後回しだね。雪風、ついて来て。」 「バウ!(了解!)」
遊撃兵にして斥候兵、手練れのクノイチでもあるナツメは、忍犬を伴って行動を開始する。ドアから顔を出して左右を警戒し、安全を確認してから廊下の床に耳を当てるナツメ、その傍らに立つ雪風は自慢の鼻で匂いを嗅ぐ。
「隊長、私は格納庫に行って撞木鮫と眼旗魚を再起動させておきます。何かあったらテレパス通信で連絡を。」
「頼む。既に侵入者が格納庫に向かっているかもしれない。発見しても交戦せず、ここに戻って来るんだ。」
「
二人に続いて部屋を出たシオンは、足音を立てないように格納庫へ向かった。オレの仲間は精鋭中の精鋭。命令されなくても、やるべき事はわかっている。
(……少尉はさっき、数年は経過しているって言ったけど、気休めよね?)
テレパス通信で話してるのは、ナツメと雪風に聞かせたくないからだろう。オレと違ってリリスは現実から目を背ける気はないらしい。
(ああ。……おそらく十年以上、ヘタすりゃもっと時間が経ってるかもな。)
(でしょうね。何が起こったんだと思う?)
(わからん。想定外の何かが起こった事だけは間違いないがな。)
世界統一機構軍と自由都市同盟軍の戦争の真っ只中、オレは同盟軍が極秘裏に進めていた"複製兵士培養計画"の実験体に魂を宿し、クローン兵士である事を隠して精鋭部隊に配属された。ま、この世界に来る事になったのは偶然ではなく必然。オレの爺ちゃんは、この星から地球に転生して来た異邦人だったのだ。
地球の半ニート大学生は戦乱の星の兵士となり、仲間と共に3年近く戦い続けた。夥しい流血と引き替えに停戦協定が結ばれ、ようやく訪れた平和。停戦から終戦、すなわち講和条約の締結まで"強くなりすぎた兵士"はコールドスリープに入り、目覚めの時を待つ。そういうシナリオだったんだが、どこかで狂いが生じたらしい。
……細胞が賦活し、全身に力が漲っていく。やっと血肉もお目覚めらしいな。本能と細胞が"戦え!"と命じてくる。どうやらオレの戦いは、まだ終わってなかったらしい。
進化した生体工学は人間を兵器化し、超人兵士となったオレ達は"
地球によく似た星ではあるが、質量保存の法則が働いてない事は間違いないな。念真力は、無から有を生み出す力なんだから。
追想は後にしよう。今は事態を把握し、危険があるなら排除しなければならない。一緒に眠りについていた腰の愛刀・紅蓮正宗を抜いて刀身を確認する。
よし。至宝刀に一片の曇りなし、これなら戦える。刀を鞘に納めると、ナツメが傍に来て耳打ちしてきた。
「カナタ、やっぱり侵入者がいる。人数は4人、長身の男1人、中背の男1人、それに小柄な男と女。長身と中背は中量級、小柄なのは軽量級。もしかしたら、小柄な1人は中軽量級かも。で、この中軽量級は武術を嗜んでるみたいだよ。向かって来るのは右手の通路側から。」
匂いと足音だけでこれだけの情報を掴んでくれるんだから、忍者と忍犬ってのはホントに有難い。格納庫は通路の左手側。シオンに危険はなさそうだな。
「たった4人でどうにか出来るオレ達じゃない。侵入者は機構軍じゃなさそうだな。リリス、格納庫のシオンに作業続行と伝えろ。オレ達は侵入者の歓迎会だ。」
4対4で人数も釣り合ってる。頭数は同じでも、腕前は雲泥の差だろうがな。
忍者と忍犬を先頭にオレが中衛、リリスが後衛。部屋を出て足音を忍ばせながら廊下の右手側を進む。曲がり角の向こうから足音が聞こえて来る。ナツメの報告通り、訓練された歩法なのは一人だけか。何者かは知らんが舐められたもんだな。
前衛二人を下がらせて、オレが前に出る。廊下の角で息を潜め、テレパス通信で指示を出した。
(訓練された小柄が先頭、長身と中背がその後に続き、女が最後尾だ。オレが小柄と長身を抑えるから、雪風は中背を。ナツメは壁走りで後ろに回り込んで女を確保。リリスはバックアップ、必要に応じて障壁を張れ。危険と判断すればやむを得ないが、出来る限り殺すなよ。生け捕りにして情報を得たい。)
(あら、お優しい事ね。) (うん!) (バウ!(了解!))
先頭を歩いてる奴が(未熟ながらも)足音を殺してるのに、後ろの3人がまるでなっちゃいない。これなら殺す必要はなさそうだな。距離を聞き分け、仕掛けるタイミングを測ろうか。
(3カウントで仕掛けるぞ。3,2,1,ゴー!)
角から飛び出し、侵入者の不意を突く!視界に飛び込んできた4人組、先頭に立ってる小柄は即座に構えたが、後ろの3人は即応出来ずに棒立ちのままだ。ド素人め!
「せいっ!」
挨拶代わりの回し蹴りで小柄を吹っ飛ばし、後ろの中背にブチ当てる。ほう、辛うじてだが受けには成功したか。なかなか見所のある奴だ。
「にゃろう!」
出遅れた長身モジャ毛は腰だめに構えてサブマシンガンを撃とうとするが、引き金を引く前に銃口を蹴り上げ、間髪入れずに踵落とし。脳天を踵で強打されたモジャ毛は白目を剥きながら前のめりに倒れる。
「オイラが相手だ!」
素早く態勢を立て直し、倒れた仲間を庇うように前傾姿勢で突進してきた短髪坊やは、踏み込みながら念真力を纏った突拳を繰り出してきた。さっきの受けといい、この突拳といい、拳法家だったらしいな。技の切れも練気も半人前の域は脱しているようだが…
「甘いっ!」
オーラパンチをオーラハンドで掴んで捻り投げ。床に組み伏せた坊やの手を背後から捻じり上げて勝負ありだ。念の為に首筋に手刀を入れて失神させておこうか。咄嗟に念真障壁を張って首筋を防御しようとしたあたりも褒めてやれるが、オレの念真強度はおまえの倍どころじゃないんでね。
「スパーク!トニー!」
中背のトンガリ頭は気を失った仲間の名を叫んだが、何も出来ない。銃を雪風に奪われ、壁際に追い詰められている。
「クソッ、ノエルまで!」
最後尾にいた女、というより女の子だな。彼女はナツメの速さに全く反応出来ず、既に気絶させられている。トンガリ頭は両手を上げ、ゆっくりと床に跪いた。
「……降参だ。俺はどうなってもいい。仲間の命は助けてくれ。」
仲間意識が強いようだな。腕は未熟だが、悪い奴じゃないらしい。
「殺す気だったら、もう死んでる。オレの質問に正直に答えろ。嘘を感じたら仲間もおまえも死ぬ。」
「わかった。何が知りたいんだ?」
素直で結構。訊きたい事は訊けそうだが……質問するには勇気が必要だな。
「……今は皇歴何年だ?」
「2220年。なぜそんな事を聞くんだ?」
リリスとナツメが息を飲み、雪風の尻尾が震える。停戦協定が結ばれたのは2122年。
バカな!!……オレ達は98年も眠ってたってのかよ!!
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