第16話 魔法騎士
仮称竜の巣ダンジョンの最初の浮島にはこれというものはなかった。
これ、というのは特別な魔道具や神器と言ったたぐいの代物であり、それ以外の自然物、例えば薬草などに関しては潤沢にあるようであった。
この島だけでも錬金術師には垂涎の素材で満ちており、ここだけでも幾分もの元が取れると思えた。
魔獣の類も出現しなかった。空を飛ぶドラゴンもこの島に入ってこようとはしない。
稀にダンジョンに存在するセーフエリアなのだろうと一行は結論付けた。
周囲を飛び回ったアウレーリアによれば、浮島の反対側に他の島に渡る橋があったらしい。
まずはそこへ向かい、別の島に行くことを目標とする。
島の反対側へと回れば、銀の橋がある。
大きな橋でドラゴンだろうとも歩いて渡れるのではないかと思えた。
また橋の真ん中あたりは大きく円形に広がっていて、いかにも戦う場所という印象を受ける。
「では筆頭魔法使い殿、行ってください」
「嫌よ、ここは伯爵の力を見せてほしいわね」
「何が出てくるかわからないところに突っ込むならあなたの方が適任でしょう」
「そうかもね。でも、久しぶりに魔法騎士の戦いを見たい気分なの」
「何か企んでますね?」
「企んでるわ」
「……良いでしょう。ならば一度だけ。次からはよろしくお願いしますよ、心なき魔女殿」
「良いわよ。さあ、マルテ、見ておきなさい」
「え、あ、はい」
なぜ自分に? とマルテは疑問符を浮かべたがとにかくセッカの方を見る。
彼は盾と剣を持った騎士スタイルで円形広場へと入っていく。
すると広場の中央の地面から湧き出すように銀色の人型が現れる。
シャッターが下りるように神言が行先をふさぎ、銀色の人型と戦えと言っていた。
「なるほど。筆頭魔法使い殿はこの神言を見たわけですか。それならそうと言ってくださればこちらも心構えができるというのに」
銀の人型は、一見するとスケルトンのようであるが、どうやらそれは鎧を着た騎士であるらしい。いや、鎧そのものだ。
その手に剣のようなものと盾を構えている。奇しくもセッカと同じスタイルの番人だった。
「これを見越していましたね。やれやれ」
同じようにセッカも構える。
構えたと見るや銀の鎧が動き出した。
盾を前に突撃。
セッカは重心を低く保ち盾で受ける。
金属と金属がぶつかり合う鳴りと共に衝撃が炸裂した。
力と力の均衡が一瞬の膠着を作り上げる。
直後、最中に響く詠唱。
「『火の化身』『鍛えるは人』『焼き入れるは槌の音色』『すべての叡智が奪われるまで』『歪まず弛まず繁栄せよ』『我が盾より示せ』――炎魔法【フレイムウェーブ】」
盾から放たれる炎の波が銀の鎧を薙ぎ払う。
セッカの攻めはそれで終わらない。爆炎の中を突き抜けて剣を振るう。
かろうじて銀の鎧が受けるが、たたらを踏み後退する。
「すごい……」
「腕は鈍ってないみたいね。マルテ、彼はね、この国で唯一高度な魔法も使いこなす魔法騎士なのよ」
騎士の技と高度な魔法を両立した騎士がセッカ・バッソフォンドという男だ。
本来、騎士の技と高度な魔法は両立するのは難しい。
騎士が使う身体強化の術と魔法がまず相性が悪いのだ。
身体強化の術は持続的に魔力を使用していく。
その出力は使用している魔力量に比例するため、実戦レベルで身体強化を回しながら魔法を使うと即座に魔力切れする。
まずここで多くの騎士がふるいにかけられ落とされる。
よほどの魔力に余裕がなければできる芸当ではない。そこを乗り越えたならば、戦闘中に正確に魔法言語を詠唱する高い技量が必要になる。
そこも乗り越えられたとしてせいぜい使用できるのは一節詠唱の簡単で威力の低い魔法のみになるか、盾の魔法などあらかじめ使用していて咄嗟に発動するような一部の魔法に限られるだろう。
セッカは高レベルの魔法を使いながら高出力の身体強化も併用している。
並大抵の技量ではないし、魔力量もかなりのものだが、それだけでは説明できない部分がある。
その秘密は彼の目にある。
紫が入った目は魔力を視るのだ。
「わたしほどじゃないけど魔力を視る目も持ってるから、魔力運用の効率がいいのよね。わたしの弟子になる条件がその目を持っていることなんだけど断られ続けてるのよ。なんでかしら」
「まあ、なんとなくわかる気がします」
何の説明もなく銀の鎧と戦わせたりとか、そういうことを積み重ねられば弟子になんてなりたい人などいないであろう。
他にもいろいろと余罪がありそうである。
それはさておいて。
「でも、どうしてわたしに見ろって言ったんですか?」
「だって、どこかでちょうどいい魔獣が居たらあなたにも戦ってもらおうと思ってるから」
「え゛?」
「次の調査よ。魔獣を倒したりしたら、魔力を吸収して魔力量が上がったり身体能力が上昇したりするのは知っているでしょう?」
「ええ、知ってます、けど……」
「あなた、これまで魔獣は倒したことがないって言ってたわよね」
「言いました、けど……」
すごくとても、嫌な予感がする。
「も、もしかして、あたしに魔獣を倒させて強くなれるか確認しろって……?」
「そう」
「む、むむむ、無理ですよ!? あたし、一度も戦ったことがないんですよ!?」
冒険者になろうとしてE級判定をくらい、都市の外に冒険に出ることが禁じられた。
移動はもっぱら乗合馬車での移動。徒歩での移動ができたのは南部から出る時くらいで、それ以降は親切な人に乗せてもらったりしていたものだ。
だから、戦闘技能など持ち合わせがない。
「もしかしたら魔力ゼロが解消できるかもしれないわよ」
「絶対できるって思ってませんよね!?」
臆面もなくアウレーリアは頷いた。
魔力を吸収できるのならば、ポーションの効果を受けていなければおかしいのだ。
だからアウレーリアは、マルテは魔力を吸収できないのだろうと踏んでいる。
もちろん確認していないのだから、それが真実かはわからない。
だから確認する。
「それでも確認することって大事よ。何事も証明しないと、人は納得しないの」
「うぅ……」
だったらこんなどう考えてもヤバイダンジョンではなく、もっと安全な場所でやれなかったのかとマルテは思う。
しかし、お金をもらっている以上やらないわけには行かない。
せめてどうにか戦い方を覚えるためにマルテは目を皿のようにしてセッカの戦いを見たわけだが、どう考えても参考にならないとしか思えなかった。
「死んだかも……」
マルテは天を仰いだ。
「大丈夫よ、危なくなったら助けてあげるから」
「ならもっと安全なところでやるのはダメですか……?」
「? どこも変わらないでしょう?」
最強の感覚で行動を左右されることの大変さとニコレッタが協力で驚いていた理由を遅まきながら大いに実感しているマルテなのであった。
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