第12話 北部への馬車の中

 バッソフォンド地方北部に出現したというダンジョンを目指してマルテたち三人は、名状しがたいアウレーリアの馬ゴーレムにひかれた馬車に揺られていた。

 ゴーレム馬車は他にもあるが、このゴーレム馬車の速度は異常の一言で、窓から外を見ると色の線にしか見えない。


 下手な魔獣をひきつぶしているのを見て、マルテはこれ以上外を見るのはやめておこうと思ったくらいだ。

 視線を馬車内に目指すと、マイペース綽綽のアウレーリアにニコレッタが噛みついているところであった。


「なんで馬車なのよ。転移魔法ならすぐでしょ」

「それだと全員で行けないのよ」

「どういうこと? 転移魔法連続使用記録保持者のアンタの魔力なら余裕でしょ? 何? 私が知らない間に鈍ったわけ?」

「まさか、わたしは天才だよ? 鈍るわけない。ただマルテには転移魔法が使えないだけ」

「何でよ?」

「転移魔法はわたしたちを一度、構成する魔力にまで分解してから転移させてるのは知ってるでしょ?」

「そうね、アンタの世界魔力構成論を基に開発した魔法だもの」

「だから、マルテには使えない」

「だーかーらー! 大事なとこを端折ってんじゃないわよ! ド馬鹿レリア!」


 えぇ、わからないの? とアウレーリアは首をかしげて不思議そうな顔をしているが、端から聞いていたマルテからすれば、それはわかるわけがないと苦笑する。

 マルテとて数日前にアウレーリアから説明を受けて理解したようなしてないような状態なのだ。

 初見で何の前提条件も聞いていないニコレッタがわからないのは当然である。


「あのニコレッタ様、ええとわたしには魔力がないんです」

「はあ!? ありえないでしょ!? この子、アンタの文の反証じゃないの!? この子のことがバレたら象牙の塔の老人どもにめちゃくちゃ叩かれるわよ!?」

「だから面白いんじゃない。世界はまだまだ行く先があるってことだもの。やる気が出るわ」

「本当なの……?」

「ええ、ウーテロも使って確認したから」

「は?」

「聞こえなかった? ウーテロも使ったから神がマルテの魔力ゼロの証明してくれてるわ」

「違うわよ! ああもう、ノッツェパルトの神器の証明なんてこれ以上ないじゃないの……」

「本当は子供作って彼女みたいな子を増やせないかと思ったんだけどね」

「軽々しくやっちゃダメなやつでしょうがそれは! ああもう!」


 怒ったり落ち込んだりと忙しいニコレッタであったが、神の証明の話を聞いてからは嘆息して思考を切り替えたようだった。

 視線がものを考えるように中空を彷徨い、思考が駆け巡るのをマルテは感じた。


「私たちは十八種類の魔力で構成されてる。魔力ゼロなら、この子の身体はなんでできてるの?」

「わからないわ。未知の物質なのは確か。身体に赤い液体が流れてるし、お腹の中にはウーテロに似た臓器があることは確認してる。わたしたちの身体とは根本から異なってる部分もあるよ」

「後天的な変化なの?」

「先天的だね。生まれた時からこうだって」

「よく捨てられなかったわね」

「母親が良い人だったんだって」

「なるほどね。じゃあ、次。この研究は何になるの?」

「魔力ゼロだから魔力汚染を受けない。汚染地帯の調査研究を進めることができる」

「アンタの命題だものね、そこに繋がらないならこんなことする必要がないか」


 なんというか、自分の目の前で自分の話をされるのは気恥ずかしいとマルテはもじもじしてしまう。

 早く着かないだろうかと思う。

 その願いはしばらく叶えられず、昼過ぎる頃にようやく到着した。その間、マルテはひたすら恥ずかしい思いをした。


 バッソフォンド地方北部の都市カスカータは、空湖チエロラーゴに穴が空いたところにあり大瀑布が城壁の代わりとして機能を果たしている都市である。

 外から見れば純白に染まった柱が立っているようにも見える。

 さらにその大瀑布の周囲を取り囲むようにきらきらと輝く砂のようなものが敷き詰められていて、天空神チェーロの瞳の光で燦然と輝いていてとても幻想的な光景が広がっていた。


 冒険者となってからはディアマンテを出ることがなかったマルテは、カスカータは初めて訪れる場所だ。

 すっかりと圧倒されて感嘆の声をあげるしかできない。


「うわー! すごいです! すごいすごい!」

大瀑布タスカータ・エノルメの向こうはもっとすごいわよ。きっと開いた口が閉じなくなるわ」


 ニコレッタの予言通り、大瀑布を通り抜けるとマルテは驚きすぎて口をぽかんと間抜けっぽく空けっ放しで固まってしまった。


「ふわぁ……」


 大瀑布として落ちたことで地面に張った水が、地面に張り光を反射してプリズムのように煌めいている。

 その上を通る馬車は、まるで水の上を進んでいるかのようであった。

 何よりもマルテを圧倒したのは、揺らめくことなく燦々と降り注ぐ瞳光を一心に浴びるカスカータの都市そのものであった。

 その都市は、大瀑布の中で四本の柱に吊り下げられて空中に浮いていた。


 馬車を降りたニコレッタが二人へ大仰な礼をし、ウインクにて歓迎を示す。


「ようこそ、離底都市カスカータへ。バッソフォンド地方北部で最も大きな都市にして北部開拓の最前線へ。歓迎するわ、盛大にね」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る