ぼっちはいやだ!
はいじ@書籍発売中!
1話:藁をも掴む
やばい、やばい、やばい。いや、マジで詰んだ。
「なぁ、お前の彼女、めっちゃスタイル良いじゃん!何カップあんだよ!」
「あれは秘密のままが良いんだって!その方がロマンあんだろ?」
「ロマンとか言ってねーで、教えろって!マジで羨ましいんだけど!」
偏差値30台のバカしかいない男子校。俺がサボった結果だけど、これは想像以上だ。入学式もほとんど途中で崩壊するレベルで、全生徒がヤバい。
そんな一学期も序盤の四月現在。
視界いっぱいに色とりどりのギャル男たちが溢れかえる教室で、この俺——田中空(たなか そら)は身体を縮こまらせていた。
金髪、ピンク、派手パーマ、ツーブロック。制服のブレザーは着崩して袖をまくり、ネクタイもルーズ。ネイルキラキラでスマホ片手に楽しそうに盛り上がってるやつまでいる。ここ、学校?それとも異世界?ナニコレ、俺、異世界転生しちゃった?
そんな中で、俺は至って普通。黒髪で寝癖のついた短髪、ブレザーもちゃんと着て、ネクタイも普通に締めてる。目立たないように、でも地味すぎないようにって考えたこの着こなしが、今は逆に浮いてる気がする。
俺、普通だと思ってたけど……まさか、俺の方が変なのか?
「なぁ、次の体育、サボらね?」
「いや、マジ無理。あの先生、怖ぇって」
「それより聞いてくれよ、昨日さ、彼女んち行ったら親いてさ!」
「は、マジで?ソレ最悪じゃん!」
「いや、でもさ、帰るのも変だし……ちょっと頑張った」
「お前、マジすげぇわ!勇者じゃん!」
……ちょっと頑張ったって、何を!?何を頑張ったんですか、教えてください!
いやいや、気になるけど、聞けるわけない。
彼女んち云々言ってたそいつは、毛先まで計算されたくしゃっとしたパーマに、派手すぎないシルバーアクセ、細身のスラックスをラフに履きこなしてた。雑誌のモデルかよ……ってレベル。そんな男が彼女の部屋で二人きり。
うん、聞かなくても何を頑張ったか、凄く納得できた。ツラ。
この学校、偏差値はクソだけど、お洒落と顔面偏差値は全体的に東大合格できそうなレベル過ぎて、俺は存在するのすら気が引ける。
うわぁ、マジで勉強しておけばよかった。いろんな意味でこの学校に存在すんのがツラ過ぎる。
ってか、そんなことより友達どうすんだよ、これ。こんな中で馴染める気がしない。
三年間ボッチなんて絶対やだ。そんなの孤独死する。でも、変に話しかけてパシりにされたら終わりだし、無理に絡まれたら痛い目見そうだ。
……クソ!どうする、田中 空!?
「ん?」
そう拳を握りしめた時、俺の席の右斜め前に座る地味な男子が視界に入った。
「……あれは」
黒縁メガネにボサボサ黒髪。制服もちゃんと着ている。ただ、リュックにはアニメグッズがジャラジャラ。おいおい、なんだこれ。魔法少女アニメか何かか?でも、他の奴らよりも遥かにコイツは「俺側」の人間だ。
……よし!この学校での俺のボッチ回避の友達候補!俺には、アイツしかいない!!
「な、なぁ!そのアニメ、面白いよな!」
いや、もちろんそんなアニメ知らん!てか、あんまアニメとか見ねぇし。でもいい。今はそんな些細な事を気にしてる場合じゃねぇ!
「お前……まさか、この作品を知ってるのか?」
そいつがゆっくり振り向いて、ぱぁっと顔を輝かせた。
「ま、まぁな」
「ふっ……やはり気づいていたか、同志よ!あの至高の物語の持つ力に!」
ソイツは妙に演技がかった大仰な口調で答えると、重たい前髪の隙間からチラリと俺を見た。やべぇ、コイツ完全に中二病引きずってるタイプのヤツだ。
でも、今更引き下がれない。
「え?あ、うん……めっちゃ面白いよな。あの……うん、作画とか!」
さっそく何て言っていいか分からなかったが、とりあえず、中学の友達がアニメの話をする時に「作画がどうの~」とか言ってたから、ソレっぽい事を言っておくことにする。
「おい、何を言っている!作画などあの作品の素晴らしさの序章に過ぎん!」
「あっ、え!……あぁ、そうだな!その通り!」
「真の魅力は魂を揺さぶる伏線の数々、そしてキャラクターの成長だ!」
なんか大袈裟に色々言ってるけど、これはアレだな。普通に「ストーリー最高!」って事だよな。それでいいんだよな!?だったらこういう時は——。
「ソレな!伏線エグかったな!まさかあんな序盤からあの展開を考えられてたってほんと凄いわ!あと、やっぱキャラがいいよな!なんか……強くなってく過程がな!」
秘技!オウム返し!
基本的に相手の言った事を地味に言い変えて繰り返すだけで、どうにかその場を乗り切る必殺技である!
俺はともかく、周囲から浮かず、皆と一緒にそこそこ楽しげに過ごしたいのだ。
だからこそ、ボッチはいやだ!俺は中学時代に獲得したこの地味スキルで、この異世界過ぎる偏差値クソ高校でも生き残ってみせる!
俺がそんな事を考えていると、それまでポカンと目を見開いた相手の頬が緩んで、嬉しさが顔中に溢れ出していた。
「……君、その名を聞かせてくれ」
「えっ、あ、えっと。田中 空……デス」
「田中空……実に良い名だ。ふむ、これは運命に違いない」
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