第2話
結局、もう一回その神社に行けたのは秋になってからだった。レンタカーを借りて朝から一人で高速を飛ばしたっけ。さぼってた卒論で忙しかったんだが、なんか、やっぱり落ち着かなくてな。ついででもないけど、父ちゃんと母ちゃんにもそれとなく昔のことを聞いてみたよ。俺に見えないお友だちがいたのは当たり前に把握してたが、引っ越してからその話をしなくなったのにはちょっと驚いたみたいだった。ま、環境の変化が原因ってことで普通に片付いてたけど。そりゃそうだ、俺もそう思ってたんだから。
生まれた町に辿り着いて、神社に近づいていくにつれて、柄にもなく胸がワクワクしてきた。前回、あんなにハッキリ居たんだから、今回も会えるに決まってるだろうなんて能天気にね……。
想像できるか?
そんな俺が、神社へ向かう細い階段の前に、黄色い「危険」テープが貼られてるのを見たときの気分を。
思い出すだけでも自分が可哀想なくらいだ。
テープなんか当たり前に飛び越えて、夢中で階段を駆け上がったよ。コオロギかキリギリスか、バッタが最期に鳴いていたのを覚えてる。
神社は焼け跡になっていた。
かみさまもいない。
本当に、何もなくなってた。
呆然と辺りを徘徊した俺が見つけたものは、焼けて
彼女の名前を呼びたかった。
でも俺はそれを知らない。呼ぶときは"かみさま"って呼んでた。
「かみさま?」
一人でささやいてみても、非日常は降りてこない。
あっけないもんさ。
しばらく、気持ちのやり場に困ったよ。色んな感情で頭の中がごちゃついてて、なんつうか、苛ついてた。
……悔しい。
とにかく、それだった。
例え全部がただの夢だったとしても、やっぱどうしようもないほど、口惜しくてさ。
「なんでだよ……」
って、そう呟いたら突然、胸がぎゅーっと苦しくなって、涙がみるみる込み上げてきた。悔しい、悔しい……哀しい。居ても立ってもいられなくなって、動物みたいにその場を逃げ出して、バッタに追いやられながら階段を駆け下りた。
で、路駐してたレンタカーに飛び込んで、泣いたよ。
馬鹿みたいに泣いた。
あれは車の外にも聞こえてただろうなぁ。今思い出してみたらとんだ不審者だぜ。でも、そんなの気にもできないくらいわんわん泣き崩れたよ。
だって、こんなに間が悪いことがあっていいのか?
なんであのとき自分一人ででも残らなかった?
彼女はいたんだぞ?
俺を、待っててくれたんだぞ?
あんな奇跡みたいな再会を、どうとでもなったはずの友だちとの事情なんかで……。
そんな言葉が頭をずっと頭の中で堂々巡りをしていたけど……でもな、もう、どうにもならないんだろうってのは直感しちまってた。だから泣けたんだろうな。この涙はどこで作られてんだってくらいの大泣きした。これまでの人生で泣き逃した涙が全部、あのときに溢れ出したって感じだった。
実際、その通りだったと思ってる。
生まれてたかが23年、人生で見ればまだまだ若造の部類なんてのはわかってはいるが……それでも、こんなに我慢した涙があったんだなって、鼻をかみながら俺はそんなことを考えてた。だからっていうか、ちょっと下品な言い方で悪いけど、ずっと我慢してたおしっこを出せたみたいな心地よい虚脱感があったよ。
もうきっと、二度と会えない。
それは本当に悲しかったけど、あの日あれだけ泣けたおかげで、こうやって真っ当に成長できたって信じてる。もちろん当時は割り切れなかったけどな……砂場で作ったお団子とか二人で歌ったわらべ唄とか、一度彼女と会えたことで思い出せた記憶がいっぱいあって、その光景がくっきりとまぶたに浮かぶ度に現実は涙で霞んでた。周りには通じるわけもないし……。
ちゃんと彼女に謝れなかった。
今でもずっと、それが心残りだよ。
神社が燃えた理由は、知らない。知りたくもなかった。当時の俺にゃそんなのとても受け止められないし、正直今でもとても調べる気にならない。卒論書き上げられたのが奇跡みたいだ。実際は現実逃避に没頭してたってだけなんだけどな。
ん?
うん、そうだよ。それから俺は、あの子に会ってない。
死んじゃった……うん、そうかもね。消えちゃったね。ぶっちゃけまだ死って言葉では受け止められないんだけど……うん、ごめん。
でも少しだけ、話は続くよ。
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