第45話 クローザー
ボランチの渡辺先輩が、怪我で交代した伊藤先輩のポジションを務める。
つまり、渡辺先輩は右サイドバックだ。
幕井はボランチにポジションをとる。
蒼天男子高校の監督がベンチメンバーを見る。
「動くか。
伊井、出番だ。」
監督は1年生の伊井を交代させる。
「やっとかよ。」
伊井は少し反抗的な態度を取りながら、ビブスを脱いだ。
伊井の態度は監督も手を焼いている。
ボン ボン
先程から、蒼天男子高校は⑨村井へのロングボールを多く蹴る。
身長185cmの⑨村井の高さを利用した攻撃。
神龍高校はロングボールを弾き返すのに精一杯。
「クソ。
シンプルだけど、一番困るプレーだな。」
キーパーの安室先輩は頭を悩ませる。
ベンチにいる山崎監督が腕時計を見る。
「残り半分か。」
後半は残り半分。
どうにかしてでも1点を取らなければいけない。
ボーン
⑨村井に蹴ったロングボールをセンターバックのデ・ヨングがクリアする。
クリアしたボールは、ピッチを出る。
ピッ ピー
審判が交代をし、交代ゾーンを指す。
そこには、16番のユニフォームを着ている伊井が立っている。
「あいつ、どっかで見たことあるな。」
デ・ヨングは伊井に見覚えがあるが思い出せない。
IN 16番
OUT 10番
交代する際。
「頼むぞ。」
交代する⑩ボランチが伊井に声をかける。
「......」
伊井は高圧的な態度を取って無視する。
伊井がピッチに入る。
⑯伊井のポジションはボランチ。
「伊井頼むぞ!
こっからは無失点だぞ!」
相手のキャプテンの⑥月島が⑯伊井と選手達に声をかける。
「(伊井の役割はクローザー。
こっからは1点もやらせないという監督からのメッセージ。
そのメッセージは、キャプテンの俺だけじゃなくてチームのみんなも知ってる。)」
伊井の役割を、⑥月島含め選手全員が共通認識を持っている。
(クローザー・・・ゲームを締める役割)
蒼天男子高校ボール。
⑧右サイドハーフがバイタルエリアの右サイドでボールを持っている。
左サイドバックの松田先輩が寄せる。
1対1
ポッ
⑧右サイドハーフがカットインする。
バーン
しかし、松田先輩がボールと相手の間に体を入れて簡単にボールを奪う。
カウンターになる場面。
左サイドハーフの小泉先輩が左サイドにいる。
松田先輩が小泉先輩を見る。
相手のボランチの⑯伊井は中のパスコースを切る。
「(よし、出せる。)」
松田先輩がキックフォームに入る。
⑯伊井が小泉先輩のパスコースを切りに行く。
ポン
松田先輩が左サイドにいる小泉先輩にパスを出す。
パッ
しかし、⑯伊井がパスをインターセプトする。
その後も、⑯伊井はカウンターになりうる場面をことごとく潰す。
脳筋かと思わせながら、意外に知的なプレーも多い。
交代は的中している。
⑯伊井が交代してから、神龍高校はシュートを打てていない。
「クソが、なんで俺がベンチスタートなんだよ。」
⑯伊井はベンチスタートに対して怒っている。
そのため、この限られた出場時間でスタメンになるために彼はやる気に満ち溢れているのだ。
もちろん、⑯伊井の素晴らしいボール奪取能力もあってこそカウンターを防げているが、要因はもう一つある。
「ハァ ハァ ハァ。」
「ハァ ハァ ハァ。」
選手達の息が上がっている。
腰や膝に手を当てる選手も多くなっている。
運動量の消費によるフィジカル的限界。
単調な攻撃。
これらも相まって、いい攻撃ができない。
特に限界なのが、日村先輩。
「ハァ ハァ ハァ ハァ。」
呼吸の回数も多くなってきている。
「朝日! 準備!」
「はい!」
ベンチにいる山崎監督が日村先輩を見かねてか、朝日に試合に出る準備をさせる。
朝日はビブスを脱ぎ、ユニフォームに着替える。
ピッ ピー
ボールが出たと同時に審判が笛を吹いた。
朝日が交代ゾーンに立っている。
交代ボードの赤色の文字には8番と記載されている。
IN 20番 朝日秋
OUT 8番 日村望
「頼んだ。」
と言って、日村先輩は朝日と交代した。
日村先輩の表情には、悔しさもありながら先輩に対する申し訳なさもあった。
「はい!」
朝日は大きい声を出し、ピッチに入った。
バーン
右サイドバックの松田先輩が⑪左サイドハーフからボールを奪う。
神龍高校ボール。
位置は低い位置。
ポン
すぐに、佐藤にパスを出す。
だが、⑯伊井が佐藤に猪のような勢いで寄せる。
「へい!」
朝日がボールを要求する。
朝日が縦に走る。
交代して入ったフレッシュな選手がチームに活気を取り戻す。
ボン
佐藤は縦にパスを出すが、パスが強くなる。
朝日は必死に走る。
⑳センターバックと佐藤の間にボールがある。
⑳センターバックの方が朝日よりもボールに近い。
「(出ない?
いや、出るべきか。)」
⑳センターバックが迷い、出るのが遅れる。
やはり、ミスがメンタル的にきているようだ。
しかし、この一瞬の迷いは命取り。
迷っている間に、朝日の方がボールに近くなっていた。
朝日が先にボールに届く。
「ヤバい。」
⑳センターバックが焦る。
しかし、出てしまったからには寄せにいく。
フォワードの春日先輩が⑳センターバックの空けたスペースに走り込む。
ポン
朝日が春日先輩に裏のスペースへ浮き球を出す。
春日先輩が走る。
裏に抜けた。
ドーン
春日先輩が裏に抜けたように見えたが、⑥月島がスプリントでボールを追いかけ、ボールを外にクリアした。
⑥月島は足が速い。
「コイツ。」
春日先輩のフラストレーションが溜まる。
⑥月島が⑳センターバックに言う。
「落ち着け。
おまえの良いところは積極的な守備。
それを失ってどうする。
相方は俺だ。
安心して前に出ろ。」
⑥月島の背中が大きく感じる。
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