第35話 正解は1つじゃない
選手達がベンチに戻って来る。
『ナイス! ナイス!』
同点にできたことにみんな喜ぶ。
選手達で修正点を話し合う。
話し終わると、松長先生が修正点を伝える。
修正点を伝え終わると、
「交代はなし。
このまま、後半にいこう。
この勢い切らすなよ!!」
『いこー!!!』
選手達がピッチに戻る。
幕井もピッチに戻ろうとすると、
「幕井!」
松長先生が幕井を呼ぶ。
「はい!」
松長先生のところに向かう。
「おまえ、先読みしてるんだろ。」
松長先生が幕井に質問する。
「はい!
ボールを受ける前に未来を予測して、相手の状況がどうなるかずっと考えてるんです。
これからは、未来の予測力を上げてなんでも予測できるように。」
「それは今すぐやめろ。」
「えっ、」
幕井は松長先生からの衝撃的な発言に驚いた。
まさか、やめろと言われるとは。
「未来を読むのに悪いってどういうことですか?」
幕井は強く質問する。
「ごめんごめん。
そういう意味で言ったんじゃないんだ。
俺がやめろと言ったのは、なんでも予測できるような予測力を持つのは無理だってことだ。」
「え?」
「それぞれの選手によって、サッカー観やプレースタイルは違う。
なのに、未来を完全に予測できることなんてできるか。
いいか、〈先読み〉ってのは〈予測〉であって〈予知〉じゃなんだよ。」
「じゃあ、どうすればいいんですか?」
幕井が質問する。
「さっき、おまえが佐藤にロングボールを出してクリアされたシーン。
おまえは、先読みしてたんだよな?」
「はい。」
「それはおまえの頭の中に、佐藤にパスを出すという選択肢しかないから。
でもな、もっと他に選択肢があったはずなんだよ。」
「他の選択肢?」
「ボールを受ける前に、持つ選択肢は1つじゃない。
3つ4つは、持っとけ。」
「3つ4つ。
そんなの可能なんですか?」
幕井は問う。
「おまえの脳と視野と技術なら可能だ。
サッカーの正解は1つじゃない。
ゴールを取るということには、無数の選択肢と正解がある。」
「無数の正解、」
「おまえらのような令和の学生は、予測不可能な社会に対して、自分で考えなければいけないという自主的な教育を施されてる。
でも、日本という国はミスを許さない。
自分の主体性で行ったことが仮に失敗したら、他の生徒に笑われたりする。
ミスに対して、日本は厳しい。
その結果、挑戦することから逃げてしまう。
安パイな選択肢だけが正解だとか、1つしか正解がないとかそのような脳になってしまう。
世界は正解がないことばっかりなのに。」
幕井には、この言葉がすごく刺さった。
「ごめん。 関係ない話だった。
とにかく、選択肢は無数にある。
おまえの脳は無数の選択肢を生み出せる!」
「はい!」
幕井はピッチに戻った。
ピー
神龍高校ボールで後半が始まった。
神龍高校ボール。
相手陣地でのプレー。
右サイドバックの遠藤がボールを持っている。
幕井が近くにサポート。
幕井が首を振る。
「(3つ4つの選択肢を持つ。)」
幕井が周りの状況を認識する。
状況は、左サイドには森田。
前線の真ん中には、朝日と小田と古川がいる。
ポン
加藤が幕井にパス。
幕井がトラップして、ボールを蹴れる位置に置く。
前を向く。
前を見る。
朝日が裏を狙って走る。
朝日のマークに、相手の㉟右サイドバックがマークにつく。
すると、左サイドの森田がマークから外れフリーになる。
ボン
幕井は森田にロングボールを出す。
「(今のだ。
俺は今、森田にパスを出す。
朝日にパスを出す。
小田にパスを出す。
古川にパスを出す。
4つの選択肢を持ってた。
これだ。)」
ピタッ
森田がトラップして、前を向く。
ドリブルでボールを運ぶ。
森田は顔が下がってる。
㉟右サイドバックが寄せにいく。
1対1
森田は顔が下がってる。
ボールをずっと持っている。
バン
相手のボランチの山下が森田から奪いにいく。
森田はボールを持つ時間が長すぎた。
さらに、顔を下げていたため周りが見えていなかった。
いつの間にか、山下が森田からボールを奪いにきてた。
山下がボールに足を当てて、スローインにした。
山下が森田の顔を見る。
山下が口を開く。
「お前、天才君か?」
「はっ、」
森田が山下を睨む。
「こんなとこで、サッカーしてたのか。
天才。
いや、消えた天才君か。」
山下が森田を煽る。
森田が山下を強く睨む。
藤井寺商業高校ボール。
アタッキングサードの右サイドで、トップ下の坂口がボールを持っている。
加藤が寄せる。
1対1。
ポッ
坂口がボールを縦に蹴って、縦突破を狙う。
坂口の足は速い。
加藤は体力が切れたのか、坂口に追いつけない。
そのまま、坂口がドリブルで突破する。
ボン
坂口が中にクロスを蹴る。
ドン
しかし、デ・ヨングがヘディングでクリアする。
ベンチ側。
ベンチにいる選手は、走ったりして体を動かしてる。
松長先生が考える。
「(そろそろかな。
加藤は体力の減少で、守備の強度が落ちてる。
古川は試合開始から、ずっとフィジカル負けが目立つ。
切るカードは、)」
松長先生が立ち上がり、大きな声を出す。
「木村、小野寺、いくぞ!」
木村と小野寺が交代のカードだ。
木村と小野寺がユニフォームに着替える。
着替え終わると、松長先生に集まる。
「まず木村。おまえの役割は守備。
今、全体的にチームの強度が落ちてる。
お前の守備力でチームの守備を堅くしてほしい。
そして、小野寺。
練習を見てて思ったが、おまえが一番輝くのはバイタルエリアだ。
おまえはトップ下にポジションを取れ。
2人とも、自信を持って試合に入れ。」
松長先生が指示を出す。
2人が交代ゾーンに立つ。
ピッチでボールが出る。
『レフェリー!』
木村と小野寺が審判を呼ぶ。
ピー
審判が笛を吹く。
木村と小野寺が加藤と古川と交代する。
木村は左サイドバックに。
小野寺はトップ下に入る。
神龍高校のフォメーションは4-4-2から4-2-3-1になった。
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