第10話 顔出せ
試合に出ていた選手達がベンチに戻ってくる。
「あそこのスペースにもっと走って。」
「プレスのときに、もうちょいサイドバックに詰めて。」
選手達の要求が飛び交う。
5分後。
「オーケー。
じゃあ次は、出てない選手出すよ。」
すると、松長先生に朝日が
「すいません。今、修正したことを次の試合に繋げたいので、3本目の試合にしてくれませんか。」
「その気持ちは俺も分かるが、一旦、ピッチを外から見てみてほしい。
多分、もっと効率的に攻撃できるはずなんだ。」
「効率的?」
朝日は疑問を浮かべた。
「じゃあ、代わるメンバーは木村、田中、朝日、八木。左のセンターバックに安達、古川は悪いけど右サイドハーフをしてくれ、トップの位置には小野寺。遠藤はボランチに移ってけれ、キーパーは八木と仙道が交代。そして、右サイドバックは伊藤。
これでいこう。」
出るメンバーはピッチに向かう。
「伊藤。
無理だけはするなよ。」
松長先生が伊藤先輩に忠告する。
「わかってますよ。
でも、勝ちます。」
そのまま、伊藤先輩はピッチへ向かった。
「怪我だけはするなよ。 伊藤。」
「松長先生。」
幕井が松長先生に質問をする。
「センターバックの2人が俺に遠いとか、近いとか、言うんだけど。あれって、どういうことですか。」
松長先生が笑みを浮かべる。
「やっぱり気になるよな。
教えてやるよ。」
「まず、よく色々な監督やコーチが言う言葉。
『ボランチ顔出せ。』この言葉の真意、分かるか。」
「センターバックのパスコースになれってことじゃないんですか。」
「それはそうなんだけど。
距離感はどれくらい取ればいい?」
「距離感?」
幕井は考えもしたことなかった。
ただ、ボールを受けれればなんでもいいと思ってた。
「まず最初に、おまえはフォワードの前でボールを受けた。」
「はい。」
「その次に朝日がバイタルエリアにいたから、おまえもバイタルエリアでボールを受けようとした。」
「はい。」
「最後におまえはフォワードとボランチの間に立った。
この位置が正解なんだよ。」
「なんで、この位置が正解なんですか。」
幕井はまた、質問した。
「それは」
「松長そろそろ始めるよ。」
佐久間が松長に伝える。
「わかったー。」
「てことで、宿題だ。幕井。」
「え?」
「なんで、あの位置が正解なのか。
この試合が終わったら、俺に説明しに来い。」
「えっ。 あっ、はい。」
幕井は明らかに動揺する。
説明してほしいことを、説明しろと言うのだからだ。
「そして、もう一つ。
その正解の立ち位置を上手く利用すれば、もっと攻撃が楽になるはずだ。
それを見つけろ。」
「は、 はい。」
幕井の声が小さくなる。
そして、幕井はピッチに向かった。
朝日はベンチで考え込んでいる。
「もっと効率的に。どうやって。」
幕井はピッチで考え込んでいる。
「説明しろってどうやって。
あと、応用ってなにー。」
ピー
2本目の試合が始まった。
神龍高校のボールで試合が始まる。
3分経過。
低い位置で千葉がボールを持っている。
バイタルエリアに遠藤がいる。
幕井は相手のフォワードとボランチの間の位置に立っている。
相手は千葉にプレッシャーを掛けてこない。
バイタルエリアに小田が落ちてくる。
縦パス一閃
千葉がグラウンダーのパスを小田に渡す。
しかし
「オーケー。」
そのボールを相手の③センターバックがパスカットする。
「やばい。」
相手のビックチャンス。
③センターバックがタッチの大きいドリブルでボールを前に運ぶ。
すぐに、伊藤と千葉と安達が中央を固める。
③センターバックと⑩フォワードの目が合う。
③センターバックが⑩フォワードにパスを出す。
「バレバレだよ。」
伊藤がボールをパスカット。
今度こそバイタルエリアにパスを刺し込む。
そのボールを小田が受け、前を向く。
ボールを運ぶ
ゴールまで15m ミドルレンジ
右足を振り抜く。
ズドーン
ゴール
相手の①キーパーは触ったが、それでもボールはゴールに吸い込まれっていった。
みんなが小田に駆け寄るが、
「幕井。」
伊藤が幕井を呼ぶ。
「その立ち位置でいいんだけど、動きすぎんなよ。」
「は、はい。」
幕井には何言っているのか分からなかった。
ボランチはサポートして当然。
それを、動きすぎるなとは。
伊藤先輩がサイドの低い位置でボールを持っている。
幕井はボールサイドに寄る。
伊藤先輩のパスコースが減る。
伊藤先輩はキーパーの仙道にバックパス。
「動きすぎだ。幕井。」
伊藤先輩が幕井に注意する。
「どういうこと?
サイドバックがボールを持ってたら、ボランチはボールサイドに寄るのが普通なんじゃ。」
ますます、幕井は混乱する。
「センターバックがボールを持ったら、フォワードとボランチの間に立つは正解。
サイドバックがボールを持ったら、ボールサイドに寄るは不正解。」
「だったら正解は、ここ。」
15分経過。
次は左サイドバックの加藤が低い位置でボールを持っている。
遠藤はバイタルエリアに立つ。
幕井はフォワードとボランチの間。
パスコースが減らない。
幕井が首を振る。
加藤は幕井にパス。
フォワードとボランチの間で幕井は前を向く。
小野寺がバイタルエリアに落ちる。
縦パス
小野寺にパスが通るが、相手の④センターバックが小野寺にプレス。
だが、小野寺を後ろから倒して、しまう。
ピー
佐久間先生が笛を鳴らす。
ファウルだ。
「朝日。」
松長先生が朝日を呼ぶ。
すぐに朝日が松長先生の所に向かう。
「急に質問なんだけどさ、
もし、朝日がコーチになったとして、こんな質問されたらどうする?」
「え?」
「『プロのボランチの選手で誰をお手本にするべきですか。』
おまえなら、誰の名前を上げる?」
朝日は深く考え、黙り込む。
すると、松長先生は
「俺はね、元スペイン代表のセルヒオ・ブスケツを上げるね。
知ってる?」
「もちろんですよ、バルセロナの黄金期を支えた。世界最高のピボーテ。」
(ピボーテ・・・ピッチ中央でパスなどを散ら
す。ボランチと同じ意味。スペイン語
のピボットという言葉が語源。
ピボットとは軸という意味。)
「なんで、俺は彼をお手本にすべきだと言ったと思う。」
朝日はまた、深く考える。
「それはね、動きすぎないんだよ。」
朝日はポカンとした。
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