幽霊船
ヤドカリとカニが去ってしばらくすると海の向こう側から蜃気楼のような何かが浮かび上がってきた。きっとあれが幽霊船だ。
幽霊船はカンカンと警鐘を鳴らしてそのまま浜へ突っ込んでいった。砂が抉れ磯とは違う独特の匂いが鼻腔に入り込んだ。しかし特別嫌な気持ちはしない。寧ろどこか心が安らぐと同時に懐かしい気持ちに襲われた。
幽霊船は絵本に出てくるようなボロボロのものではなく、反対に豪勢な提灯や和風の屋敷のような装飾がなされており、およそ4,5階建ての豪華客船だった。
突然横っ腹から折りたたまれた木造の階段が展開される。中からは背広を着た紳士や着物の女性などが多く降りてきており、完全に客が出る時には20分は経っていただろう。
船頭から声がした。
「なぁそこの人。乗るならさっさと乗ってれませんかねぇ。」
恐らく船員なのだろうが、口は黒い革のようなマスクで隠されており、スニーカーのように真ん中に二列ずつ、銀色のリングから紐がバッテンに巡らされている。きっとサイズを調整するものなのだろうが、船乗りが付けるマスクにしてはどうも奇抜な代物だった。
僕は階段を登り、入り口の提灯が飾り付けられたアーチを潜るとそこにはタバコ屋のような受付があり先ほどの船員が鎮座していた。
「切符は?」
「ありません。ここでも買えると聞いたのですがお代は何になるのですか。」
「あぁ、それならね、ええと。」
そう言うと船員は受付のカウンター下からなにやら下敷きのようなものを取り出し僕に見せた。
「こちらの表の通りね、生死別、年齢別にお代の種類とその量が別れてます。死者だと彼岸の金を払うことになるんだけどお客さん、生きてるでしょ。生者だと料金は寿命なんですよね。お客さんいくつ?」
「二十五です。」
「ええと、二十五歳ね。それだと5年になります。」
「分かりました。あの、寿命の支払いってどうすればいいんでしょう。」
「あぁ、はいはいちょっと待ってね。」
船員は手元にあったレジで使うようなバーコードリーダーを取り出し僕に当て始めた。ピピっという電子音が鳴り、船員は受付のキーボードを打ち込んだ。
「はい、いいですよ。そこのゲートくぐったら支払い完了するんで。」
僕は少し唖然としていた。寿命の支払いとはこんな現代的なのかと感心とはまた違ったものが脳内を漂った。
「どうしたお客さん、早く行きなよ。」
「あ…いや、すみません。寿命が対価というのであまりにもこう、死神に吸い取られるようなものを想像していたので。」
「彼岸も電子化が進んでるんでさぁ。最近じゃあっち側の金もキャッシュレスなんだよね。」
「はぁ。そうなんですか。」
あちらにも電気や化学は通用するのかと少し不思議に思いながら僕はゲートへ進んだ。空港で見たものと似ていて、ゲートの上には青色のLEDが点灯している。僕がそこを通った瞬間、LEDは緑色に点灯し、スピーカーからは「ボン・ボヤージュ!」と女性の声が流れ景気のいい電子音が鳴った。なんだか少し恥ずかしかった。
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