第3話 守護神として必要なこと
フィールドにボールが弾ける音。
試合が本格的に始まった合図。
さてと、颯太の奴に小学生時代のGK務めてたことから、アドバイスされた。
たった一つだけど、それを活かすしか無い。
結果を言えばボロボロだった。
これが俺の実力、というより五軍なんだということをすごく実感した。
五軍監督からは大目玉。もう餓鬼か遊びでやってるとしか思えない、とか他にもめちゃ貶された。
そしてついでにロッカー室とかで、先輩にシめられる始末だ。
「手前みてえな素人GKが俺たちにコーチングしようとすんじゃねえ!! 俺たち先輩だぞ!!」
クソ……何も言えねぇ。
学校から帰ろうとした時だ。
「お疲れ」
「おお……」
一年なのに早くも二軍の颯太が突然声をかけてきた。
颯太はスポーツ推薦でこの学校に来た。
スポーツ推薦は寮生活だ。だから颯太は時間に余裕がある。
「どうだった? 試合」
「ボロ負けだよ」
「うん予想通り」
コイツ締めるぞ?
「まあでも、ここなら大丈夫なのかもな」
「え?」
「GKならよ、相手の選手を怪我させる心配はねえだろ。それに、いざ怪我するとしたら俺自身だ。まあ、お前には」
「何言ってんだ?」
「あ?」
颯太の顔を見てギョッとした。中学三年間見てきたが、ここまで不愉快な感情を含めた顔は初めて見た。俺、何か変なこと言ったか?
「甲斐谷、一応お前がGKやるって言ってここに入った時、監督に見てもらったよな」
「あ、ああ」
「監督だって慈善事業じゃない。GKの見込みが無ければそのポジションに位置することを許す筈がない。もちろん俺も同情だけでGKを勧めたりはしないよ」
なんだよ、まるで俺がお前や監督の気持ちを
「甲斐谷、一つ質問なんだが、今日GKしてて何が大変だった?」
「あ? そりゃ……当たり前だが、俺のコーチングを聞くはずが無いだろ」
当たり前の話だ。俺はつい中学時代までFWだったのにそれがいきなりGK。
俺がFWやってたことを知ってる奴もだが、何より先輩方が全員許すはずがなかった。
この間までFWやってた奴に、守備の何が分かる? 今日の試合の二年の先輩たちはそう言いたげだった。
「素人と同じみたいな俺が、下がれとか、5番気をつけろとか、ファール狙うなとか、ましてやFWへの指示なんて、聞くはず無いだろ」
そんなの当たり前だ。俺はFWから、いや、もうサッカーから逃げようとしている奴なんだから。
「それだ」
「あ? 何がだ」
「いきなりFWやってた選手が、GKしてそんなコーチングなんて、しようとしないだろ? しかも一年生で先輩だっているんだ」
……思わずため息ついちまった。
「あのなぁ颯太、俺はこれでも試合に出たら勝つのが全面的に良いと思ってる選手だ。負けて楽しいことなんて一つも無いからな。だからたとえ先輩であろうと、コーチングしようとするのなんて当たり前だろ。そうじゃなきゃ、ただの案山子なんだからよ」
「それが出来るのは甲斐谷だけだ。最低でもこの学校じゃあね」
「あ? お前だって出来るだろ」
「でも俺がお前と同じ状況でGKを務めることになったら、きっと先輩たちに遠慮してしまう。コーチングなんてしようとしない。止めなきゃで頭がいっぱいになる」
そうなのか?
「それが出来るのは甲斐谷が勝ちに、ボールに執念があるからだ。サッカーが好きじゃないとできないことだ」
「……」
「じゃあもう戻るよ。寮の晩飯の時間になるからね」
じゃあ
そう言って颯太は立ち去っていく。
「サッカーが好き、か……」
その言葉が妙に引っかかって、抜け落ちてくれなかった。
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