5-7-1

 先生から、8月の末に ナカミチの休業日に感謝祭りといって お店の従業員が出店をやって、子供達には花火を配るんだと・・・私 誘われたけど


「楽しそーだよねー 行きたいけど・・・なんか バタバタしてるので 止めとく」


「そーかー お母さんがね すぐりに着て欲しいからって 浴衣を用意するつもりみたいだったけどー」


「はっ オーナーがそんなことを・・・ 先生にも 着たとこ見て欲しかったけどなぁー・・・オーナーには ごめんなさいって 謝っておいてよーぅ」


「うん まぁ 謝ることないよ すぐりも忙しいんだからー」


「あのさー いつも 私のこと 気づかってくれて ありがとう 感謝しているの・・・私 お礼に 私の全てを捧げてもって思っている・・・の」


「・・・あのー 言葉の使い方 間違っているよー 全てを捧げるってー」


「間違ってないよー そのまんまだよー 本当に そー思って居んだからー」


「うん・・・まぁ その言葉 まだ しまっておけよー 何年か先に 必要になるかも知れないからーな」


「また そーやって はぐらかすぅ・・・ 先生 いつかは 私に狂暴な男になってね! 私のお願い・・・」


 ― ― ― ☆ ☆ ☆ ― ― ―


旅行の日 8時前の電車に乗って、乗り換え 乗り換えで名古屋から特急で松本に着いたのは1時を過ぎていた。降り立って、ぶらぶらしていると、お蕎麦やさんが目について、夜はフレンチだろうからと、ざるそばと山菜のてんぷらにして、お城に向かった。黒くて、雄大なお城を登り始めて


「わぁー こんな急な階段 スカートの中 丸見えヤン」


「どうしてスカートなんかで来たのよー」


「だって お母さんも それでいいってゆうてたヤン」


「だって 私は、着替えのものとか詰めていたから そんなの気にしてなかったのよー ふふっ お母さんが後ろから、登ってガードするから 大丈夫よ」


 上からの眺めは、北アルプスは高いなって思ったけど、後の方角はそんなに感動しなかったのだ。


「ねぇ お母さん あの常念岳って高いのはわかったけど、後の方は、長浜から見てるんとあんまり変わんないよねー」


「ちょっとー すぐり そんなに大きい声で言わないでよー みんな 素敵って言っているのにー」


「そーだね でも 感じたままだよー」


「あのねー この頃 すぐりが前に進んでいるのはわかるんよー でもね 周りに感謝するってこと、忘れないでよー 池浦さん ちゃんとしたもの、すぐりに渡しているでしょ? すぐりちゃんに恥をかかせられないからって 漁師さんから、鮎を集めて、頭取れも無いようにって並べているのよ そんなの知っている? 感謝の言葉言った?」


「・・・だって そのために 今年は引き取りの値段も上げたのよー」


「それは 鮎の値段も上がっているからー すぐり そんなこと言っていたら 相手にされなくなるよー いつも感謝すること忘れないでよー」


「・・・うん」


「今晩の夕食の時もよ あなたは ナカミチさんで美味しいもの食べているでしょうけど せっかく すぐりを招いていただいたんだからー わかっているわよね!」


 お母さんから厳しいことを言われていて・・・バスで上高地に・・・一つ手前のバス停で降りて、レストランの人が迎えに来てくれていた。お店に着くと、オーナーが出迎えてくれて


「やぁー 遠くまでありがとう ここのオーナーでシェフの小菅です よろしく なるほど ホームページでは拝見していたが 本当に中学生の可愛らしい女の子なんだねー」


「あっ あー 愛崎すぐりです 今日はお招きいただきましてありがとうございます とっても楽しみにして来ました」と、お母さんに教えてもらった通りに言えた。


「ふむー 今日は すぐりさんの飾りと 自慢のお料理です どうぞお姉様と楽しんでいってください」 


「えっ ええ 楽しみですわー」と、お母さん・・・あつかましいわよー と、私は思っていた。


 客室は、全部で4部屋だというのだが、その日は私達以外に2組が宿泊すると言っていた。お部屋にはユニットバスがついていて、私達は直ぐにお風呂を浴びたのだ。


「お母さん どうして あの時 ちゃんと言わないのよー」


「うふぅー お姉様ってこと? まぁ いいじゃぁ無いの そー見えたんならー」


そして、出た時に、お母さんは私に


「今晩は私達はレディなんですからね」と、私には、ピンクとブルーでレースのお花で縁も飾られたスリップとイェローのフリルのついたブラセットに杏子色の半袖のワンピースを揃えてくれて、自分も赤いレースのセットに大きなバラの花の付いたスリップに濃いブルーのワンピースを用意していたのだ。


 私はもう こんなのにも慣れて来ていて、お母さんのいう 特別な日だからー 大人に近づいたのだと気を引き締めていた。私にも、眼元とチークで薄くお化粧をしてくれていた。そして、持ってきていた私の手造りの真っ赤なしし唐のブローチを胸に付けて、リップクリームで唇もプルンプルンとさせていた。


 おめかししてレストランに行くと、女性の方に大きなガラスの窓際の席に案内されて、整備された下草に何本かの白樺の樹があって、小川に白いペンキの小橋が見えていて、絵画の景色みたいだった。すると、シェフが来てくれて


「いらっしゃいませ お二人とも 眼を見張るばかりのお美しいご姉妹でございますね 本日の料理は 安曇野のサクラマス、地元の野菜のオードブル、白キクラゲとくるみのホタージュ、富山の穴子の白焼き、伊那谷のりんご・赤ワインのソルベとアントレはフランス産の子羊の香草焼きでございます。お飲み物は如何いたしましょうか? お姉様にはお勧めの信濃大町のワイナリーのものがございますが」


「あっ じゃぁー それでー 白はございますか?」


「かしこまりました すぐりさんは アップルジュースは如何ですか? これも、伊那谷のものでございます」


「はい それをいただきます」 シェフが戻って行った後


「お母さん! また しらばっくれてぇー」


「言いそびれちゃったのよー うふっ お美しいご姉妹だって! そんな風に言われたのって初めてよね! すぐりだって 満更じゃぁないでしょ!」


 お母さんは、食べる前から完全に浮かれていたのだ。

 

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