5-3

 6月になると、修学旅行の予定があって、東京・箱根の2泊なのだ。新幹線でお昼前に東京駅に着いて、そのままグループ別の自由行動になっていた。私達仲良し4人は同じグループで、男の子の3人が加わっていた。でも、結局 女の子同士で手を繋いでいて、女の子達にとっては、先生から言われて、仕方なくて、男の子達はおまけみたいなものだった。


 私達のコースはスカイツリーからディズニーランドというコースなのだ。お昼は男の子達の希望で吉野家に入った。私は、最初 気がすすまなかったのだけど、私達の辺りには無いし、まぁ 良いかぁーと思っていたけど、安くておいしくて、まぁまぁ 満足していた。


 その後、ツリーに昇って、天気がそんなに良く無くって、遠くにぼやーっと富士山が見えていて、眼下にはビルだらけの街並み。みんなは ワァー とか歓声を上げていて、私もつられていたのだけど、感動していなかった。私には、賤ケ岳の上から見下ろせる奥琵琶湖とか余呉湖の神秘的な静けさとか山の渓流のせせらぎを見ているほうが、心に染み入るのだ。その後も、デイズニーランドに行って、並んでなんとかマウンテンとかクルーズに乗ったのだけど、楽しさが私にはわからなかった。結局、並んでばっかりでアトラクションはその二つだけ。それでも、もう 私は 高いし、バカらしいと思っていたので、ちょうど良かったのだ。


 門限の時間に遅れまいと、宿舎になっている浅草のホテルに向かったのだけど、私には今日の1日は、まるで無駄だった。あれっくらいなら、銀座とか築地の場外を見て周ったほうが良かったのだ。


 部屋は二人1部屋で私は、美里と一緒。夕食は美味しくない肉の陶板焼きに焼き野菜。エビフライとクリームコロッケに野菜サラダ。ご飯とスープはセルフで取りに行くスタイルだった。9時までは、それれの部屋の行き来は許されていたので、私達4人は集まって、たわいのない話をしていたのだけど、普通にその日を終えていた。


 次の日、集まって歩いて浅草寺に行って、グループ毎の解散になって、女子生徒に人気のある耀先生のもとに私達は駆け寄って行った。取り囲んでいる先生のクラスの女の子に割って入ってゆくと


「なによー あんたら よそのクラスじゃぁない」と、文句を言っている子も居たが、ひかるちゃんが


「だって ウチ等の数学の先生だよ 懐いているんだよ! それが何か文句ある?」と、威圧的で迫力があったのだ。それを聞いたみんなは、退いてしまっておとなしくなってしまっていた。数学・・・ひかるちゃんも私も 100点をず~っと取っているのを知っているから、余計なんだろう。この時から、ひかるはリーダー的な雰囲気を持つようになったのだ。


 それからは、私達の仲間は先生を独り占め? グループ占めにして、境内とか仲見世を歩いていた。時折り 私は、先生に後ろから腕を組んだりもしていたのだ。


 お昼前に集合して、バスで箱根に向かって、途中 小田原で海鮮丼の昼食のあと、小田原城、箱根の関所跡を見学して、今晩のホテルに入った。今晩は4人部屋で私達のグループ4人が同じ部屋なのだ。夕食はバイキングなのだが、先に入浴を済ますようにと言われて、4人で大浴場に入って、出て来て着替えていると、ひかるちゃんが


「すぐり それっ 可愛いぃ~」と、私の下着を見て言ってきた。そうなのだ、昨日もそうだったのだけど、お母さんが、これっくらいは良いよねーと買い求めてくれていたのだ。白地なのだけどピンクとブルーでクローバーの刺繍がしてあって、レースで縁取りのしてあるショーツとブラのセットなのだ。


「そーだよ 昨日も すぐり そんなんやったんよ 良いよねぇー」と、美里はバラしていた。確かに、みんなは色の付いたのとか模様がプリントされたものだったのだけど、お母さんが用意してくれていたものは、少し高そうなものだった。


 小学校の修学旅行の時は、くたびれたような白のパンツで、私は、目立たないように隅でこそこそと着替えていたのだけど・・・あの時は、みんなから そんな私に近寄らないような雰囲気だったのだけど、今は、みんなから羨ましがられて、近くに寄って見にくる者もいるのだ。そんなのに、私は、複雑な気持ちだった。こんな下着なんかで、こんなに対応が変わるの? と。だけど、私は生活環境がもう昔とは違うのだ。


 バイキングの夕食を済ませて、部屋に戻って、4人でトランプで遊んだ後、みんなでジュースを飲んでいる時、ひかるちゃんが


「すぐり 内緒にしてるんじゃぁ無いんだろうけど、みんなには言っても良いことあるんじゃぁない? いずれわかることだからー」


「うう・・・ 私 好きやねん 耀先生のことが・・・」


「あほっ そんなこと 今日のすぐり見とってもわかるわー そんなんとちごぉーてぇー 池浦さんチ ウチの家の近くやろー 前にすぐりがウチに来て帰った後 お母さんから聞いたんやーで 愛崎さんとこの娘さんはすごい子なんやって 池浦さんが褒めていたってー すぐりはやっぱり 不思議ちゃんやわー」


「えっ そのことなんかー なんやー」


「なんやーやないやん 池浦さんとこの商品 全部買い取ったって? それも、リュックからポリ袋に入った現金を出して・・・そらぁー びっくりするやろー すぐり何してるん?」


 私は、今 してることを3人に話した。確かに、いずれわかることなんだろうなって思ったから。3人とも、驚いたというか、呆れていのだろう。しばらく、声も出なかった。彼女達には現実的でなかったので、混乱していたのかも知れない。


「すぐり 5月の末にも 現金持って行ったやろー? 前金やって・・・次は、振り込みのほうがええでー 同じことやけど、ここらの人はお金 目の前で見せられると弱いんやー」


「あっ そーかー そ~かも知れへんなー 次はそーするわ」


「まだ 続くんかぁ?」


「うん この前のは 今年の予定の半分 次は全数確定したら、残りを・・・」


「すぐり 嫌がらせで言うんちゃうでー ウチのおとんが心配しとったんやー 漁師の人がゆうとったそーな 池浦さんはな すくいの魚しか炊かんやろー そやから、量を確保するため 漁師に現金で払うから、獲れたら廻してくれってゆうとるそーやー そりゃー 漁師も有難がるわな すぐにお金になるんやからー みんながそー思ったらどーなると思う?」


「う~ん よーわからんけど 競い合うかな 池浦さんに こーてもらおーって」


「そうよー そしたら?」


「うん 少しでも他より安うして・・・あっ そーかー」


「そーなんやー いがみ合うことにもなりかねんやろー? すぐりは秩序乱すんやでー 場合によつては 今までの業者からも恨まれることもあるでー 商売ってそんなもんやってゆうたらおしまいやー よー そこんとこ考えやー」


「そーかー そこまで 私 考えてへんかったわー 池浦さんも、お店も喜ぶってことしか思ってへんかったわー ひかる どーしたらええんやろー」


「そんなん 私 わからん すぐりが考えーなー それが商売するってことやろー?  ただの金儲けとちゃうねんでー」


「・・・うん さすが ひかる 賢いんやなー」


「あほっ 私は おとんがゆうとったこと伝えたままやー すぐりは友達やからな! ほっとかれへんやろー」

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