第2話 教師  林芙美子

 あ、今日ごみの日か。俺は朝の支度を整え、出す家庭ごみを手に取る。

「おっは~!新一!」

 名は麻倉桃花、俺の幼馴染で昔から関わっている唯一の友人だ。

「おはよう、麻倉」

「いつも通り辛気臭い顔してるなぁ、また勉強してたの?」

「そうだね。少しだけ勉強してた」

「そんなことより俺と通学路歩いてたら、麻倉まで勘違いされるよ。」

 俺はピアスが開いてたり、常に一人なため周りから距離を取られている。ていうか自分から距離を置いている。

「うちはさ、これでも新一の事知ってるつもりなんだよ。いくらピアスが開いてようと、いくら煙草吸ってようと、新一は新一だよ。」

「ありがとう」

 なにも言えない。麻倉は俺の事知ってるようで何も知らないのだから。


 放課後のチャイムが鳴る。

 今日も終わりか。俺は帰る支度を始めると教師に呼ばれた。

「なんの用ですか?林先生」

 林芙美子先生、担当教科は古典。そして俺の担任。

「ああ、急にすまんな。唐突だが、部活に入る気はないか?」

「ないです。まず何部なんですか」

「ん-じゃあ古典部」

「今決めたんですか。何故急に部活なんて作ろうとしたんですか」

「同僚に担当部活ないんですかーって煽られてさ、この学校はみんな担当ついてるし、ならもう作っちゃえって感じ」

「ならなぜ俺なんですか。」

「んー、暇そうだから?しかも頭いいから古典できそうだし」

「なんの話してるのー?」

 麻倉がこっちに来た。

「お、いいとこに来たな麻倉」

「なになにー?ふみちゃん」

 先生はふみちゃん呼びを完全に無視をして話す。

「部活入れ、古典部、部員は大神」

「いや俺は入るなんて」

「入りますー!!!」

 なんで即答なんだ、こいつ古典好きだったのか?

「なー大神くんよー。ピアス開けてんの見逃してんのは誰だと思っているんだー?」

 ほんとに嫌なとこに突かれた。

「わかりましたよ。」

 流れのままに部室に連れられ正式にきまってしまった。

 林先生は背は高くないがスタイルはよくて長い髪がよく似合うロングだ。本人曰く煙草すってるせいで伸びないと言っていた。先生はセボンスターを吸っているらしい。俺と同じだ。てより俺が真似をした。

 麻倉と共に古典室に行き方針を決めて一応、月に一つ学校に掲載するのと二か月に一度市に出すことが決まった。あとは自由にしててくれてよいらしいから、俺の勉強部屋にすることにした。俺が提出するから麻倉は自由にしてる感じだ。

「なんか部室って楽しそうじゃない?」

「そうか?めんどくないか?」

「楽しいよ!二人でいられるし…」

「なんか言ったか?」

「なんでもない!この馬鹿!」

 麻倉はそそくさと、支度をして飛び出して帰っていった。

 自分も少しして準備を始めた。

「あっ帰りスーパー寄らないと。」

 家に飯もないことをすっかりと忘れていた。基本自炊はできるものの、自分からやりたいと思わないから、スーパーやコンビニで飯を適当に買う生活を続けている模様。

 健康は気にしていない。

 こうして帰りに通るスーパーに寄った。

「お、半額だ。今日は早いな」

 ちょうど半額弁当を手に取ろうとすると、もう一つの手が半額弁当にいった。

「林先生…?」

 仕事終わりの林先生がいた。買い物かごを見ると、酒数本とおつまみが置いてあった。この教師未婚か?

「お、おう、大神か、ああそうだなおけおけ、私が悪かったから買い物かごを凝視するのは辞めてくれ。」

 教師はあからさまに動揺しているようだった。

「あ、すいません。先生ってもしかして、未婚ですか?」

 先生は赤面しながら答える。

「ああそうだよ!悪かったな!人生24年、一度も付き合ったことさえ無いよ!」

「ああ、なるほど。」

「ところでお前は夜ご飯はコンビニなのか?」

「ええ、そうですね、親もいないからそれくらいしか…」

 先生は少し考えて俺に告げた。

「今買ってるものをすべて戻してこい、戻したら出口で待っとけ。」

 …は?

 俺は言われた通り荷物を戻し、外で待っていた。

 こうして外で待っていると教師がなにやらビニール袋に入った物を俺に渡してきた

「これちょい重いから持って。」

 俺は静かに荷物を手に取る。

「よし、ついてこい、車に乗れ。」

「誘拐ですか?」

「あほか、住所教えろ。」

 俺は渋々住所を教えて先生は車を走らせた。


「おーここのマンションか。意外と私の家と近いな。まあ入ろうか。」

 俺は部屋番を教え、先生を中に入れた。

「おー意外と汚いな~。」

「家事面倒なので割とサボってますね。」

「そして灰皿と…。」

「退学にしたいならどうぞ。」

 正直退学への恐怖はなかった。この教師もいずれ俺を売ると思っていたからだ。

「ざんねーん、今は仕事おわりなので、先生じゃありませーん」

「そうですか。それに先生は知ってましたよね。」

「…。ああ知っていたよ。その銘柄も私の真似かな?」

「そうですね。吸うならベランダで」

 俺はこの教師が前に屋上で煙草を吸っている所をよく見ていた。特に教師が屋上で吸ってはいけないルールなんて無かった、逆に違反を俺だ。この学校は屋上に生徒が勝手に行くのは禁止されている。ただ俺は煙草を吸う林先生が…。言語化できない…。

「それよりも、飯作るぞ!」

「…。なに作るんですか。家の人は心配しないんですか。」

「それは煽りか大神くんよ。私は未婚であり、家に帰っても一人だ!」

 俺とどことなく同じだがこの教師の方が楽しそうだ。

「それで、なに作るんですか。」

「ふふふ、鍋だ!」

「そんな溜めていうことですか。」

 教師は楽しそうに答える。

「私はゆめだったんだ、異性と料理を作ること。」

「そうですか。」

 こうして教師と飯を作った。少し昔を思い出した。


「ママ!今日のご飯は何?」

「今日は鍋だよー」

「やった!お手伝いする!」

「うーんそうだなー野菜切ってみる?」

「切る!!」

   じゃ野菜切ってね!

「おいー!野菜切ってくれ」

「…。」

「あれ大神どうした?」

「いや、すみません、なんでもないです。」

 そうだ。忘れてはいけないんだ。今こんなに、優しくしてくれても人は裏切る。

「あんたなんか生まなければ良かった!」

「あんたさえいなければ、楽だったのに。」

「あんたもあんたの親父も全員屑しかいない!だから不倫したのよ!」

「ねえ、学校辞めて働いてよ。でなきゃ、あの人に貢げない。」


「おい!手!切ってるぞ!」

 気が付いたら包丁で手を切っていいた。

「あ、申し訳ないです。少し考え事をしてました。」

 林教師は、少し察したような様子で、自分に問いかけた。」

「一旦、作り、飯にしよう。こう見えて私は、料理が得意なんだ。昔嫁修行をしたんだ。」

 教師の顔は段々暗くなっていった。

「自爆しないでくださいよ。」

 こうして教師は良い手つきで鍋を作り上げた。

「はい、手合わせて!こうだよ、こう」

 林教師は大袈裟に手を合わせ、俺に強要した。

 俺は少し昔を思い出した。

 「新一!いただきますをするときは、手をこうやって合わせるのよ。」

 俺の元母は、今の林教師と同じことを言っていた。

 俺は思い出したくない、記憶を消し隠し手を合わせた。

「頂きます。」「いただきまーす!」



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