魔パルトメントⅡ

里好

Ⅰ スタジオKurahashi

タワマンのロビーで百花と待ち合わせて、そのままレストランで食事を済ませ

タクシーで自宅兼スタジオに戻ってきた


電気をつけて、スタジオ内にあるキッチンに向かい

薬缶に火をかける百花


普段なら、そんな百花の手を引き、自宅の奥に連れ込んで…

となるのだが、何故だか今日は、少し前から予兆を感じる


倉橋は手前にあるソファーに座り、百花の淹れたお茶を嗜んでいた


「…な~んか、怪しいな。百花。ひょっとして俺に何か、隠し事してないか?」


「えっ」


倉橋の思いがけない問い掛けに、百花はキョトンと首を傾げる


「…昼間になにか、変わった事でもあったか?」


「………」


ある意味、特殊な業界に在籍している自覚はある。

そして、かなり摩訶不思議な世界とリンクしている事も理解している

そんな百花にとって、師匠の問い掛けは愚問に等しいが…


記憶のパズルをはめ込み、ある事象が浮かび上がった


「そういえば…夕方ごろ、タワマンの方で薔子さんに会いました。

そこで2,3言、会話をしましたが…あ、そうそう。その時、レコード店の

オーナーさんに会いました。」


「…桜介か。なるほど。会って話をしたのはどの辺りだった?」



「え?…エントランス付近ですけど…」


「なるほど。監視カメラもモニターもがっつり仕掛けられてる場所だな

そこで会話をしていたなら、その内容は漏れなく、あちらさんに筒抜けだろう

…だからか」


合点がいき、やれやれとため息を漏らす倉橋

と同時に、インターホンが鳴る


「…よぉ!お2人さん。邪魔して悪いな♪」


倉橋の予想通り、姿を現したのは蓮だった


(壁をすり抜けてこないだけ、マシか…)


大きく息を吐き、心の溜飲を下げようとした時

自宅スペースが怪しげな光に包まれ、先の見えない

階段から降りてくる二つの影…


「!!…あなた達は…」


驚いて、目をパチクリさせる百花の隣で、倉橋はげんなりと振り返る


「お~い…いつの間に、階段まで設置しやがったか…💦」


「蓮さん、勇様、百花様、お久しぶりです(≧∇≦)」

「Anyeから噂を聞いて、来てやったぞ。」


相変わらず、物凄いオーラを纏うイザムとリリエルだった

半年ほど前に、院内コンサートで見かけた以来か…


「百花たちの会話を聞いてすぐ、調査したら気になってな。

イザムの夢台本なのかと思ったが、どうも違うみたいだな」


倉橋のぼやきも置いてきぼりで、すぐさま本筋を話し出す彼ら


「…え…どういう事ですか?」


悪魔たちのあまりの傍若無人っぷりに、辟易し項垂れている倉橋の横で

わずかに冷静になり、不思議に思って問いかける百花


「もう~…興味深々なのは分かりますけど、勇様と百花様が

困ってらっしゃいますよ💦」


申し訳なさそうな素振りを見せるリリエル


「…(笑)多くの疑問符を与えてしまったな。だがそれを解決できるのは

倉ちゃんだ。早速、取り掛かってもらおうか♪♪」


リリエルの髪を撫でながら、不敵の笑みを浮かべるイザム


「百花様、ごめんなさいね💦 少しの間、勇様とスタジオをお借りします

その間、百花様のお話を聞かせてくださるかしら?」


「私の…?薔子しょうこさんと話した内容は、ほんの僅かですが…」


「あ、ううん。それはもう大丈夫。それより、勇様との事とか…♪」


「!…え…//////」


真っ赤な顔で狼狽える百花。リリエルの朗らかな微笑みに

あっという間に懐柔され、女子トークに花を咲かせる











一方、ミキシングルームでヘッドホンを装着し

渦中の時間に録音されたノイズを丁寧に吟味しながら

ある答えを導き出す倉橋


「…ああ、なるほど。この時、3人が思い浮かべた人物は

ピタリと一致していたわけだな。そしてその相手は、少し前

このカフェの窓越しに座っていた人物…」


「ビンゴ。さっすが倉ちゃん♪」


ニヤっと笑い揶揄いながら、今度はモニターに映り込んだ

その人物の画像を展開させる蓮


輪郭がぼやけ、何色かのモザイクに切り替わっていく


「…ほう…確かに…」


「…こんな風に、分かってしまうものなのですね…」


その色合いに、イザムが呟く

いつの間にか、隣に来ていたリリエルも興味深く眺めている


「ああ、蓮が使う特殊モニターだけだがな。」


「…私は、どんな色になるのでしょうか?」


「リリエル、試してみたいか?」


ちょっと気になりワクワクし始めるリリエル

彼女の髪を撫でて微笑むイザム


「この時居合わせた、3人のオーラを見比べただけでも面白いな。

人間の百花と桜介は無色透明。ラディアは白紫。そして…」




「渦中の人物…彼女は白・水色・ピンク・緑…」


わざと区切りをつけて、ゆっくりと語る蓮とイザム


「…ただの人間なら無色透明…ラディアって…?」


「あ、ラディア様は…たしか、薔子さん、だったかしら」


イザムの言葉を反芻しながら、首を傾げる百花に

リリエルが補足する


「あいつの色は、やはり一番分かり易いな。

堕天した元天使。大魔王の闇に染められ、紫の薔薇を纏う

…ククク…ダイヤの奴も、ウカウカしておれんな(笑)」


「もうっ…閣下ったら(苦笑)」


「…あ、そういう事…え!?」


イザムとリリエルのあまりに自然な会話の流れに納得しかけたが

驚いて目を瞠る百花


「え、てことは、薔子さんは、ただの人間じゃなく、元天使?」


「…まあ、それでいいんじゃないか?未だに悪魔化

しきれてないようだしな」


「…花さんと、光さんは、悪魔…ですよね?」


「ああ、俺もだけどな♪」


改めて再確認する百花に、蓮が追随する


ふむふむ…



摩訶不思議な事はこの際棚上げし

この厄介な方程式を解き明かす事に専念しようと

努めて冷静に情報を精査する百花


「…あ、なるほど」


ピン、とひらめいて顔を上げる百花


「この、噂の彼女も、ただの人間じゃない…って事ですか?」


イザムと蓮はその様子を楽し気に眺めていた

その隣でリリエルも興味津々に眺めている


「…最初が薔子さんと同じ、白だから…彼女も元天使?

その後の色は…?薔子さん以上に、たくさんの色が絡まってますね…」


「ひとつの魂が、転生を繰り返している場合、こんな風に

カラフルな色合いになる」


「!…あ、それじゃ、私も…?」


「…いや。悪魔となり、己のオーラを確立させた魂は

そのエレメンツが主色となる。リリエル、お前は百合の化身だから

緑。あと、無償の愛のピンクだな」


誰よりも壮絶な輪廻転生を体験した代表格がリリエルだ

だが、落ち着く先に辿り着けば、やがて単色となり、色味も強くなるのだろう


「…ということは…渦中の彼女は、いまだ転生の真っ最中という事か。

今生には、何かが捻じ曲がり、雁字搦めとなっているようだが…」


「フフフ…イザムちゃん。驚くのはまだ早い。

俺は今回、改めて透視して、この事実に気づいた。だが

これによく似た色合いを、どこかで見た記憶があってな」



いつの間にか持ち込んでいたPCを操作し、ある画像を呼び出す蓮


「…ふむ。こいつのオーラに白はないが、その他は彼女と似ている…

ほぼ、同じといって過言ではないな。蓮ちゃん、これは…?」


画像を隈なく確認し、振り返るイザム


「…やっぱり、イザムは知らないのか?

…ひょっとして、光は知っていたのか…?ふ~む…」


「はあ?」


途中から一人歩きし始める蓮の呟きを聞き咎め、眉を顰めるイザム


「もしかして…俺たちが良く知る人物なのか?」


蓮の持ち込んだデータから、音源を拾い上げていた倉橋が

ヘッドホンを外して問いかける


「倉ちゃん、またしても、ビンゴ♪そうなんだ。こいつ、

光プロダクションの所属タレントなんだよ。匡輝っていう…」


「!…あ、あの…ラジオの…?」


思い当たった百花は、改めて驚く


「へぇ…素顔を見せない秘匿のミュージシャンね…

いや、吾輩は知らん。だが…リリエル。里好から何か聞いてるか?」


「いいえ…でもこの色合い…見覚えがあるような…

あ、この水色…?閣下、この色は…?」


じーっと不思議そうに眺めていたリリエルに聞かれ、改めて観察するイザム


「…カラフルな色合いの中で、中心的な存在のようだな。これは…!…」


「?…閣下…?」


途中である事に思い至り、視線を泳がせ、黙り込んだイザムだが

心配そうに見つめるリリエルのまなざしに、シラを切るのは無理と判断し

蓮に問いかける


「蓮ちゃん…今この場で、リリエルのモザイク画像を出せるか?」


「…もちろん、すぐに可能だ」


蓮はその場で透視し、リリエルのモザイク画像をアクリル板に映し出す


「…すげぇな♪」


蓮の魔力と、映し出された画像の両方に感激し、思わず本音を漏らす倉橋


「これは、先程の彼女や、匡輝ってやつの画像とは異なり

魂の変遷をすべて抽出させたものだ。御覧の通り。

雷神界、魔界、天界、人間界、そして魔界…」


説明する蓮になぞらえ、ある部分を指し示すイザム


「現在の魔界に於いて、何ヶ所か入り込んでいる線があるだろ」


「…あ、はい。あ、さっきの水色ですね?」


「そうだ。本当は、天界と人間界の間にもあったはずの色だ。」


「…あ…//////」


思い至り、イザムを見つめるリリエル


「吾輩が、お前から消滅させた色。もう、分かったな?」


涙がこみ上げ言葉にならず、ひたすら頷くしかないリリエル


「…じゃあ…ダイヤ様の始まりには、この色が…?」


「そうだな。むしろ、あいつの生まれ故郷といっていい」


泣き出しそうなリリエルを抱き寄せ、微笑むイザム


「水色の意味する処は、魂の眠る花園だ。

あの空間を根城とし、多くの時間を過ごしていたのか…

かなりの能力がないと、不可能だな」


「…なるほど…そういう事か…」


「!…ウエスターレン…お前、いつの間に…」


突然背後で声がして、驚いて振り返るイザムの頬を摘まみ

細目で睨み付けるウエスターレン


「俺様という存在を差し置いて、随分楽しそうだな?」


「…//////」


世仮ではない、真の悪魔の姿に、顔を真っ赤にして

胸をときめかせる百花


そんな百花の様子に、苛つき始める倉橋


「最近入手した興味深いネタがあってね。

お前らの話を聞いて、ようやく点と点が繫がった。」


「ほう…」


「イザマーレ。この2人は、どうやら前回のサミットで議題に上がった

新天地に由来があるようだ。一緒に転生したもう一つの魂が悪魔化したらしく

今は俺の配下にいる。複雑怪奇に転生を繰り返しているのは

どうやら追いかけっこがお好みのようで。どっかの誰かさんたちに、そっくりだな?」


「…それなら、もう一つは長官っぽいのかしら?」


「そうだな。お前も一緒じゃなかったら、嘘だろ」


…いつの間にか、3魔の世界で盛り上がる彼ら


うぉっほん!


倉橋と蓮が同時に咳ばらいをする


「…という事らしい。百花。どうやらレコードショップの桜介には

高根の花だろうけど…♪」


ニヤッと笑いかける蓮に、百花はひきつった表情を浮かべる


「はぁ…、どう説明すればいいのかなあ…(^-^;」






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