第9話 ブハラ ウズベキスタンより
親愛なる友へ
サマルカンドから夜行列車に乗り、夜明けとともにブハラに着いた。
駅を降りると、空気が少し乾いている。
サマルカンドの青が「空の色」なら、ブハラは「土の色」だ。
日干しレンガの建物が並び、街全体が砂漠の中に溶け込んでいるように見える。
宿に向かう途中、白いターバンを巻いた老人が声をかけてきた。
「旅人よ、お前はここへ何を探しに来た?」
ブハラの人々は、昔から旅人に興味を持つという。
かつてこの街はシルクロードの要衝であり、商人、詩人、学者たちが行き交った場所だった。
彼の名前はイブラヒム。
バザールで手織りの絨毯を売る商人だった。
「まずはチャイ(お茶)だな」
そう言って、彼は僕を小さな茶屋に連れて行った。
そこはドーム型の天井が特徴的な古い建物で、薄暗い空間の中にローズティーの甘い香りが漂っていた。
出てきたのは琥珀色のチャイと、「サムサ」という焼き菓子だ。
サクサクの生地の中に羊肉と玉ねぎが詰まっている。
「これを食べたら、ブハラの風がもっと美味しくなる」
彼はそう言って、笑った。
昼になると、イブラヒムは市場へ案内してくれた。
ここでは今も昔ながらの交易が続いている。
カラフルな陶器、スザニ刺繍の布、香辛料が並ぶ中、彼は一枚の絵葉書を手に取った。
「これはアルク城だ」
そこには、砂色の要塞が描かれていた。
かつてブハラのハーン(王)が住んでいた城であり、何世紀にもわたってこの街を守ってきた場所だ。
彼はそこで昔話を聞かせてくれた。
「ブハラには、千と一つの物語がある。
ここでは、時間が砂のように流れていくのさ」
夕方、彼と別れてアルク城へ向かった。
城の壁に手を当てると、ほんのりと温かかった。
太陽の熱が残っているのだろうか。
そこから見下ろすと、バザールの喧騒とミナレットの影が美しく交差していた。
夕食には「ショルパ」というスープを飲んだ。
羊肉と野菜がたっぷり入った優しい味のスープで、旅の疲れを癒してくれる。
お土産には、バザールで見つけた小さなスザニの刺繍布と、イブラヒムがくれたローズティーを選んだ。
絨毯も欲しかったけれど、それは次の旅まで取っておくことにする。
この絵葉書を見れば、きっとブハラの風を感じられるだろう。
次はヒヴァへ向かう予定だ。また手紙を書くよ。
友より
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