第12話 パートナー
「これはこれは!
ようこそおいでくださいました!」
ハガリさんといがみ合いながら、数分。
突如、大男が部屋に入り込んでくる。
さっきまで、俺たちを案内してくれていた少女もその男の背中から顔を出した。
「お二人とも、村長を連れてきたよ!」
そう、ぶっとい腕をガッチリと組みながら凄い威圧感でその場所に佇むこの大男こそ、どうやら村長のようだ。
「いやはや、良くぞ生きてここまで来れましたなぁ!
ワッハッハッハッハッハッハ!!」
その笑い声までもが、かなりの大きさで鼓膜が揺れる。
この空間に少しでも居続けることがもしかしたら危機なのかもしれない。
「あの、早速お話させていただいても……?」
ハガリさんは気圧されながらも、ゆっくりと手を挙げる。
「ええ勿論!
そうだ、ヤマエ!
お客様にお茶をお出ししなさい!!!」
その後、俺たちは事情を話し始める。
突如、メンバーの一人の頭の中にスアイガイが浮かんできたこと。
そうして頭に浮かんできた世界は危機に陥る可能性が高いこと。
そのために、俺たち異世界救助隊がこの世界に降り立ったこと。
「それでなんだが、何か不穏なことだったり。
それこそ、今こんなヤバいことになっているみたいなことは無いか?」
村長は首を傾げる。
そのまま、少しの静寂が流れた。
「……まあ、我々の世界は常にヤバいですな!
ワッハッハッハッハッハッハ!!」
こうして、また大笑いする村長だが正直に言って笑えない。
実際、俺たちも少し前までは死にかけていたところだった。
元々、災害がたくさん起こったりモンスターたちが日々活発に動いたり、当たり前に危険な世界なのだ。
危機の特定は、逆に難しいのかもしれない。
「そうだよな……。
じゃあ、とりあえず少しの間この村に泊めてもらうってことは可能か?」
「ええ、それは勿論ですぞ!」
とりあえず、俺たちでこの世界とじっくり関わっていく中で探っていくしかないようだ。
……ちなみにさっきのモンスターに襲われた地点に、リュックを置いてきてしまった。
そのため、そもそも俺たちにはこの村から離れるという選択肢を取ることすら許されないのだ。
「だったら、しばらくの間世話になるな」
そのタイミングで現れた少女が、お茶を俺たちの前に置いていく。
「そうだ!
この子に、色々と村のことや世界のことを紹介させましょう!
お願いしてもいいか!?」
「分かったー!
何だか長い付き合いになりそうなんだね。
私はヤマエ、今日からよろしく!」
ヤマエと握手を交わす。
彼女や村長の態度を見る限り、この村に滞在することを嫌がられているわけではないらしくて一つ安心した。
「それじゃあ、明日になったら早速二人について来て欲しい場所があるんだ〜。
もしかしたら、二人の言う世界の危機って奴にも繋がるかもしれないから」
とりあえず村長の家に泊めてもらった次の日、家から出ると、やはりたくさんの人々が作業をこなしている。
今日はそれなりに気温も高く大変だな、なんて粗末な感想が頭をよぎった。
ついつい逸れてしまった視線を道の先に戻す。
「ガウッ……!」
目の前には、かなり筋肉質に見える巨大な犬……もしかしたらそれに類似した生物。
嬉しそうに俺を見て、涎を垂らす。
流石にこのシチュエーションには驚かざるを得なくて
全身が反射的に震える。
「ちょっと、怖がらせちゃダメじゃない!」
村に住む人なのだろう、とある女性が犬と俺の間に割り込む。
「ごめんなさい、この子は珍しいものが大好きで……。
お客さんなんてこの村にはほとんど来ないから嬉しくなっちゃったみたいなんです」
そうして、頭を下げる女性。
それ自体は問題ないのだが……。
女性がその場を去ってから、ヤマエに聞く。
「あのワンちゃんって……」
「うん、最近森で出会ったモンスターみたいだよ?」
あまりにも当たり前にモンスターというワードが出てくる。
さっき、俺たちが怪物たちと追いかけっこをしていた時もヤマエの一声で離れていってしまった。
つまり、それがこの世界の皆に与えられた力ということなのだろうか。
「モンスターとコミュニケーションを取ることができるの?」
俺は担当直入にヤマエに質問してみる。
実際、こういった所から事件性が見えてきたりこれからの危機についてある程度予測がついたりもするかもしれない。
少なくともこの世界について、もっと見識を広げておくことは間違いなく役立つはずだ。
「うん、私たちは所謂モンスター使いってやつなの!
不思議なエネルギーを持ったモンスターたちとなら、共鳴して意思を伝えたり、仲良くなったりできるんだよ!
……とは言っても、結構村人たちの中でも能力には個人差があるんだけどね〜。
私も、完璧に聞き取れるわけじゃないし」
俺の予想は概ね当たっているらしい。
周りを見てみれば、さっきの犬っぽいモンスターに留まらず、虫のような見た目の小さいやつや空をふわふわ飛ぶ雲のような奴、とにかく多種多様なモンスターたちが目に映り出した。
だからこそ、ヤマエの周りにはいないことに違和感を感じてしまう。
「あ、やっぱり気になるよね」
俺とかハガリさんの言いたいことを何となく理解したようで困ったように笑う。
この世界でモンスターを連れていないというのはまあまあ異質なことのようだ。
「沢山モンスターさんの友達はいるんだけどね。
どうしてもパートナーとしてビビっとくる子がいないんだ」
何だか恥ずかしそうに言うヤマエ。
俺たちからすれば、そう言うこともあるのかな……程度の認識だった。
理由を聞けば、その後はあまり気にすることもない。
「じゃあ、行こっか?
私の中で最近、異変を感じる場所があるんだ!」
スアイガイに長く住んでいるヤマエの言うことは俺たちのとりあえずの予測なんかよりもよっぽど説得力がある。
勿論、そんな彼女が感じる異変というのは見てみる価値があるだろう。
俺たちは彼女についていくことにする。
連れてこられたのは、近くにあった森。
とはいっても、森と呼べるのか微妙なほどに木が生い茂っている範囲は狭く、何だか寂しさすら覚える。
「あのね、最近森で火事がよく頻発するんだ。
落雷だったり乾燥、それこそ私たちや他の生物が焚き火をつけてそのまま放置しちゃったなんてこともあり得るから一概には変とは言えないんだけど……」
それでも、手がかりが一つも無いよりはずっといい。
「じゃあ、入ってみるか。
ミドロ、お前も能力で色々飛び回って何となく上の方から違和感が無いかとかも確かめてもらっていいか?」
そんなハガリさんの指示に頷き、この世界に来て初めて能力を使ってみる。
その辺の高い木に登って、周りを見渡してみるが特別目が良くなるというわけでもないため、何か新たに得る情報はない。
「ハガリさーん、特に気になるところはないです!」
「分かった、一応何か出てくるかもしれない。
このまま上から見ておいてくれ」
「……待って」
目を閉じて耳を澄ますヤマエ。
俺たちも何となく察して黙る。
「何か、来てるよ」
ヤマエはじっくりと周りを見渡し始める。
森がザワザワと揺れだし、何だか危険を察知しているように見えてくる。
「…………上?」
そのヤマエの一言に、ハガリさんが顔を上げる。
俺も木の上から、探りを入れてみるがやっぱり姿を捉えることはできない。
「ミドロ、上だよ!」
?
何故かヤマエに名指しされる俺。
俺の上になんて遮るもの一つ有りはしない。
あえて挙げてみれば、空があるくらいだ。
……空?
そこまで来て、ようやく俺は上を見上げた。
まさか、そこで目が合うことになるとは思ってもみなかった。
そう、空にいる。
すなわちそれは鳥類の怪物ということだ。
バサッ!
羽から巻き起こされた強風に身体が揺れる。
木の上、なんて足場の悪いところにいた俺はそのまま体勢を崩して落下した。
「気をつけろ!」
ハガリさんが俺のことをガッチリキャッチしてくれた。
「怪我はしてないな」
「はい、ありがとうございます」
鳥の目はかなりギラついている。
怒りに支配されているらしい、一目見ただけでそれが分かってしまう程に感情が滲み出ている。
「ちょっとだけ話を聞いて!」
ヤマエが呼びかけてみるが、反応を示さない。
おそらく言葉が分かった上で、聞かないようにしている。
つまり、交渉拒否ということだ。
「よし、それならやるとするか」
ハガリさんがそう言うならと、俺も臨戦体勢をとる。
直ぐにヤマエが俺たちの前に立ってモンスターをかばうように手を広げた。
「待って!
あの子にも事情があるかもしれない!」
今にも襲ってきそうな鳥のモンスター。
それでも、ヤマエは屈することなく訴える。
ハガリさんは、そんな彼女に言う。
「勿論だ、別に殺すわけじゃない。
一旦、ヤマエの声が届くくらいに落ち着かせる」
そういうことなんだろうな、と何となく分かっていた。
ハガリさんと付き合いが長くなってきた証拠だ。
とりあえず、特殊能力とかのない物理攻撃主体ならば俺もある程度受け止めることができる。
厄介なのは、翼による風起こしくらいだろうか。
「ミドロ、ちょっといいか……」
ハガリさんから作戦を共有される。
これまた、かなりの不安が残るが今までよりは何となくマシかもしれない。
とりあえず乗ってみることにした。
「じゃあ、良いんですねハガリさん」
「おうよ、信用させてもらうぜ」
今からやることはあまりにシンプル。
まずはハガリさんをしっかり掴んで、思いっきりぶん投げる。
「作戦開始!」
ハガリさんが向かう方向は勿論鳥がいる場所。
鳥からすれば空中なんて自分たちの領域だ。
ハガリさんを待ち受ける。
「悪いな、お前とやり合う気はさらさらねえんだ」
ハガリさんは鳥のクチバシを指で押し込み、その反動で地上へと戻る。
これでハガリさんのフェイズは終了。
後は、さらに飛び上がった俺が背中に掴まるだけだ。
上に乗って、ガッチリとその背中を掴む。
「グワァ!」
ようやく声を上げた鳥が俺を背中から離そうと暴れ回る。
しかし、ハガリさんの見立て通りここは弱点のようだ。
羽で起こす風を受けることもないし、クチバシや足の爪などの鋭い攻撃を受けることもない。
強いて、俺を退ける手段があるとすれば……
「グワァ!グワァ!」
とにかくジタバタ暴れ回ることくらいだ。
「ミドロ、絶対離すなよ!」
下から聞こえるハガリさんの声にグッドサインで返す。
成功してしまえば、掴み続けるだけ。
能力で力を増している俺にとってこんな楽な仕事はない。
しばらくしてヘロヘロと、ゆっくり地上に落ちていく鳥のモンスター。
下で待っていたハガリさんとヤマエが受け止める。
まさしく、一番最初にハガリさんたち先輩から習った敵の体力を削り続けて完封するというやり方を実践することができた。
「さて、沢山動き回って怒りも収まっただろ。
悪いがここからは、ヤマエに頼むことになる」
「了解だよ、ちょっと待っててね」
ヤマエは鳥の近くに行って色々と話をしている。
森がまた騒めき、たくさんの生物たちが二人を取り囲む。
少しして、話を終えたであろうヤマエがこちらに向かってくる。
「じゃあ、話すね」
鳥の話を要約すると、こうだ。
ここは、鳥たちをリーダーとして色んな生物が過ごす森だった。
しかし、突如フードを被った謎の人間がやってくる。
その人間は、あっという間に森に火を放ち向かってくる生物たちを殺していったのだという。
「そうして、鳥さんは周辺に敵がいるんじゃないかと
出払ってたんだって。
帰ってきたら、私たちがいたから疑われたみたい」
「まあ、そりゃそうだわな」
俺にとっても、飛んでいる鳥やその辺を走る馬だったりの個体差を見分けをつけることは難しい。
フードを被って姿を隠していたならなおさら、人間であるということしか証拠は存在しない。
「でも、ミドロはずっと掴まってくるだけでここまで一切手を出してこなかった。
だから、私たちを信用してみたいって!」
「そっか、それは良かった」
どうやら、敵意が無いことは伝わったようだ。
フードを被った何者かが、動いている。
これも、モンスターたちからじゃないと聞き出せない。
貴重な情報を手に入れることが出来た。
「グワ……」
鳥が寂しそうにヤマエを見つめる。
「うん、友達になったんだもんね」
ヤマエも何だか寂しそうだ。
さっき話していた時に仲良くなっていたようだ。
「その鳥、パートナーにするのはダメなのか?」
ハガリさんが急に口を開く。
「パートナー?
うーん……ダメってことはないけど」
ヤマエの言葉に、目をキラキラ輝かせる鳥。
ヤマエの方はかなり困っているようだ。
「……うん、行こっか。
家族もみんな、やられちゃったんだもんね」
鳥は悲しそうに、それでも覚悟を決めたように頷く。
「じゃあ今日からパートナーね……。
名前はそう……エマ!」
二人は身体を寄せ合う。
こうして、人とモンスターはパートナーを作っていくのだろう。
ヤマエはすかさず、こちらを見る。
そして改まった喋り方で依頼をする。
「あの、お願いなんですけど……。
山火事を起こしている、その犯人を探すのを手伝っていただけませんか?
報酬とかは……まだ考えてないけど。
やれることならやります!」
ハガリさんの方を見る。
やっぱり、もう何て答えるかなんとなく分かってしまう。
「元々そのつもりだ。
報酬とかはいらないけど、これからも手伝ってくれよ。
今度は、ヤマエだけじゃなくてエマもな」
こうして、俺たち異世界救助隊チームBはこの世界でやらなくちゃいけないことと、新たな仲間を見つけることに成功するのだった。
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