第8話 新たな友達は意外な関係

「………終わってしまった」


 現在、ゴールデンウィーク明けの月曜日。ベッドの上で頭を抱える優希の姿があった。その横に鈴乃の姿は無い。


「本当はもっと遊びたかったぁ……!」


 もっと色んな所に行って、もっと美味しい物食べて、もっと楽しい事したかった。


 と言う本音を飲み込んで、2人でゴロゴロしていた。正直に言う。面倒だった。


「いや確かに面倒だったけどさぁ……3日間ずっとゴロゴロする奴がいるかなぁ!?晴れの高校生が!ゴールデンウィーク後半に!家でゴロゴロでいいのかって話!」


「ちょ、優希!うるさい!隣の人に怒られちゃうよ!」


 リビングから走ってきた鈴乃はベッドの上で暴れ回る優希を必死に押さえ込んでいる。理由は明白、鈴乃がずっと家に居たからだ。なのでその気持ちが少しは分かっている。家でいいと提案したのは、鈴乃だが。


「ま、また今度色んな所に行けばいいから!あと2ヶ月で夏休みだし!ね?今は取り敢えず落ち着いて!」


 そう宥める鈴乃を横目に優希は少し寂しそうに布団の中に再び潜り込んで文句を言っている。これは恐らく、いや。確実に寝ぼけている。テンションの落差が激し過ぎる。そんな事も構わずに顔を少しだけ出した優希が鈴乃に向かって言った。


「……だって、鈴乃がそれまで仲良くしてくれるか分かんないじゃん」


 その言葉は少し心に来るものがあった。可能性としては、広大な砂漠の砂一つ程の可能性。でも、それがあるかもしれないから寂しい。これが優希の本音だろう。空気が少し悪くなってしまったので鈴乃はもう自分がはっちゃけるしかない、と思い至った。


「んなっ……!仲悪くなるわけないでしょ!……ふーんそんな事思ってたんだぁ!もういいもん一人で学校行く!」


「あ、……ご、ごめん……そ、そんなつもり、なくって……」


「あ、あぁーいや、今のはネタだから!冗談だから!ねぇ本気で落ち込まないでよ!……っだぁぁこいつめんどくせぇぇぇぇぇ!!」


 この世の終わりみたいな顔をして再び掛け布団に潜り込む優希から掛け布団を無理やり引き離し、仕方無く優希の頭を撫でながら優希の服を脱がせる。


「はいはい落ち込んでる暇あったら服着替えてねー!朝ご飯はパン焼いてあるから!このままじゃ遅刻しちゃうよー!」


「……なんか、おかあさんみたい」


「……優希さん?何で若干顔を赤らめて私に近付いてくるんですか?あっちょ、『ままぁ』とか言わないで!寝ぼけてるよね?ね?これ絶対寝ぼけてるよね?ねぇ起きて優希!ほんとに洒落にならないって!うわぁ急に抱き着くな!早く着替えろ!」


 鈴乃が結構強めに頭を叩いた事でようやくいつもの調子を取り戻したらしい優希は、今の自身の行動に段々と羞恥心が込み上げてきたのか、顔を更に赤くしながら固まっている。


「や、やっと起きたぁ……早く着替えて」


「あっ……え、あ、その……えっと、……はい」


 そう言ってリビングへと向かってしまった鈴乃の背中を見ながらも優希は体を動かす。さっきまでの事はよく覚えていない。覚えているとしたら精々頭を叩かれた辺りからだ。何をやらかしたのか見当もつかない……と思いたい。



「き、着替えてきましたぁー……」


 消え入りそうな声と制服姿でリビングに向かった優希は机の上に並べられたパンと市販のジャムが目に入った。


「これ、鈴乃がやってくれたの?」


「そうですけど何か文句ありますかーー??」


「すき」


 優希は椅子に座る鈴乃に後ろから再び抱き着く。鈴乃の体が一瞬跳ねた気がするが、何も無いかのような冷静な表情でこちらを向いてデコピンをする。


「……そういう事は、あんまり言うものじゃないよ」


 未だにほんのり顔が赤く目も少し逸れているのを見るに少し照れくさかったと感じたを察した優希はそれ以上深堀りせずに鈴乃の前に座る。


「それでは鈴乃に感謝して……いただきます」


「……いただきます」


 鈴乃が少し不機嫌になってしまったのでゴールデンウィークの話しやら何やらしてみたが、あまり態度は変わらなかった。パンを食べ終えた所で2人で手を合わせ、急いで食器を片付ける。あと5分くらいで出ないと学校に間に合わなくなる。


「それじゃ、私は先行ってるね」


「はぁ!?ちょ、ちょっとくらい待ってよー!」


「しーらない。じゃーねー」


 そう言って鈴乃は玄関の扉から外へ出て行ってしまった。外からはコツコツとローファーが歩く音が聞こえてくる。


「くっそ……いやまぁ、俺が悪いんだけどさぁ……おっと」


 歯を磨いて鏡を見ながら独り言を呟いていたら1人になって気が抜けたからか、1人称を俺にしてしまった。いやはや、うっかりうっかり。


「……いや、ありかも……?」


 最近は僕が染み付いていたが、ずっと鈴乃に引っ張られっぱなしだったしそろそろ優希サイドがリードする場面があってもいいのでは?なんて思っていたら鏡に映る自分の顔の口角が少し上がる。それと同時に登校時間まであと30分を切っている事に気が付く。


「……やば。急げ急げ」


 部屋にあったバッグを肩から提げ、家の鍵を閉めて慌てて階段を駆け降りる。今になって運動してこなかった自分を恨んでいる。敷地から出る前に息がきれた。


「はぁっ……はぁ……ふぅ……よし!」


 覚悟を決めて走り出そうとした時だった。後ろから自転車が来て優希を追い抜いた後に10メートル程前方で止まった。見覚えのある後ろ姿だ。川沿いで見たかのような、あの感じ。


「……ねぇ。このまま行ったら遅れない?」


「……お恥ずかしながら」


 やっぱり望だった。だが今はそんな事している暇は無い。急いで学校まで走らなければ。


「じゃ、僕は走るから!」


「あっ、ちょい待ち……そうだ!後ろ乗ってく?」


「……えっ……いいの?」


「えっとまぁ、多分?」


 何か凄く不安だが、本当にやってくれるのであればとても助かる。優希はお言葉に甘えて後ろの荷物置きに腰を降ろす。最近では犯罪に当たるが、今は致し方がない。


「ごめん!よろしく!」


「よっし!行くよ!」


 そう言って望はペダルを強く踏み込み、自転車は走り出す。自分が走るよりも3倍くらい速い。


「うひゃー、人載せてると緊張するー!」


「ちょっ、そんな事いいから運転に集中して!」


 現在優希は望の肩に掴まっているだけなので段差があるだけでも優希だけ吹っ飛んで行ってしまわないか心配だ。この道が舗装されていて本当に良かった。



「……あっ。あれ、君のパートナーちゃんじゃない?」


 5分くらい自転車を進めればすぐに鈴乃に追いついた。感謝はしているが、その言い方は頂けない。


「……次そうやって言ったら後輪蹴って転ばせるから」


「あ、あはは。ごめんて。通り過ぎちゃっていいの?」


「うーーん……降ろしてもらっても?」


「おっけぃ。じゃ、ちょっと先で止まるね」


 望は鈴乃を少し抜かした後、優希を降ろして再び自転車を漕ぎ始めて行った。後でしっかりお礼を言わなければ。そんな事を思いながら鈴乃の元へ駆け寄って行く。そして、鈴乃の前に立ち塞がる。精一杯胸を張って大きく見せているが、鈴乃が大きすぎて何にもなっていない。


「何で置いていった訳?」


「……今日の朝は親が息子に厳しい理由が少し分かった気がしたから」


「理由になってない。言えるまで通さないから」


「今の優希、面倒くさい彼女みたいになってるよ」


「関係ないでしょ。理由を聞く為ならメンヘラにでもなってやりますよ」


 それを聞いた鈴乃は優希の手を引き、路地裏まで連れていった後に優希の手を優希の頭の上で掴み、身動きを取れなくする。さっきまでのお嬢様みたいな雰囲気では無く、いつもの鈴乃……と言うよりも理性が無くなりそうな方の鈴乃が出て来ている。


「あっあの……えっと、す、鈴乃さん?」


「優希はもう少し自分の価値について見直した方がいいんじゃない?」


 そう言って空いた手で優希の顔の輪郭を沿うように指を滑らせる。優希は少し擽ったそうにしているがお構い無しにそれを首を伝わせて胸、お腹、へその辺りまでなぞる。


「軽く好きなんて言ったら、これよりも酷いことになっちゃうからね?」


 指をお腹の辺りでくるくるした後に胸の辺りでもくるくるさせる。その行動についてよく分かっていない様子の優希だが、単純にボディタッチが破廉恥な感じになっていて顔を赤らめている。


「……僕が軽くそんな事言うわけないでしょ」


 赤い顔で目を逸らしてそんな事を言われてしまえば鈴乃はもう理性を失う3秒前だった。優希の顔に手と鈴乃の顔が急接近していたが、その空気と行動は一通の通知によって壊される事となった。


「……ごめん。確認していいよ」


「あ、いや、謝らなくていいよ。僕の事を気に掛けてくれてやってる訳だし……あれ、望からだ」


 鈴乃はそう言って少し離れてしまった。悪い事したかな、なんて思いながらスマホを見ると、望から連絡が来ていた。前に会った時に一応連絡先を交換しておいたが、こんなに早く使うと思っていなかった優希は本音が先に出てしまう。鈴乃は知らない名前が出てきて少し困惑している。


「望って、あの自転車の?」


「うん。鈴乃がゴールデンウィーク中に一回家に帰った時に散歩してたら偶然会って、そこから仲良くなったんだよね」


「……ふぅん。あれが……ね」


 なぜか、鈴乃の目はキマっていた。望に対する敵意なのか、それともただ雰囲気を壊されて不機嫌なのかさっぱりだが朝の不機嫌は直っているようだ。それはそうとして、優希は連絡アプリを確認する。


『途中で降ろしちゃったけど間に合いそう?あと10分しか無いけど』


「……えっ?」


 スマホの時計を確認すれば本当にあと10分…9分くらいしかない。ここから学校までは歩いて五分程かかる。階段を登ったり上履きに履き替える時間だったりを考慮すると結構ギリギリな事に気が付く。


「鈴乃!やばい!遅刻する!」


「……え?そんな時間!?やばい急がないと!」


 不機嫌から解放されてようやくいつもの鈴乃に戻りつつあるが、学校に近付くにつれてお嬢様にならなければならない。なのでここからは少し速く歩いて行く。もう学校は目と鼻の先……と言った所で後ろから走ってくる足音がする。誰かと思えば、それは美紅だった。


「やっばーい遅刻するぅー!あっ!おはよう2人とも!」


「お、おはよう美紅!朝から元気だね!」


「おはようございます、美紅さん」


 素の鈴乃がバレたかと思ったが美紅は走るのに必死だったようでバレていなそうで安堵すると共に美紅も走りから歩きに変わる。


「いやー!起きたら電車が出る5分前だとは思わなくてさ!コンビニのトイレ借りて身支度してたらこんな時間になっちゃった!」


 満面の笑みで言っているが、結構やばかったのだろう。朝に寝坊してしまうのは人類共通なんだなぁと思っていたら始業5分前になっていた。


「美紅さん、優希さん。そろそろHRが始まりますよ?」


「えぇ!?もうそんな時間!?走れー!」


「あっ……ちょっと待ってよー!」


「ふふふ」


 ゴールデンウィーク明けの初日から騒がしくなってしまったが、これも学生の本分だろう。そう思いながらチャイムとほぼ同時に席に着いた3人であった。




 そうしてHRが終わり、授業も終わり、放課後となった。授業は特に特筆すべき事はないし、先生の話もテストに向けて勉強してくださいが多かった。前にも言ったが、勉強は心配しなくてもできる。今はそんなことよりも……


「ゆーーーきーーー!勉強教えてぇーー!」


 この問題がある。美紅に勉強を教えると言う、凄く難しい問題が。優希の席まで走ってくる足音とその声が殆ど人が居ない教室に響き渡る。


「何で僕なの」


「え?だって教えてくれそうだし」


「悪いけど僕はあんまり余裕無いから他を当たって欲しいな。他にも勉強できる人いっぱい居るでしょ」


 実際は余裕がある。それも結構ある。しかし、鈴乃との時間を削られるのは御免だ。美紅には悪いがここは断らせてもらうことにする。


「お願い!ちょっとでいいから!」


「えぇー……」


 なかなか諦めない美紅に苦戦していると、廊下でクラスの人達との話を終えたらしい鈴乃が優希の席まで歩いて来る。


「美紅さん。私で宜しければ私がお教えしますよ?」


「うへぇ?あー、私でついていけるかなぁ……」


 その反応はご最もだ。鈴乃は主席で入った優等生。方や美紅は既に授業についていけていない俗に言うお馬鹿さん。流石に教えてもらうのに置いていかれるのは可哀想だったし鈴乃がやると言っているので優希もやってあげる事にした。


「じゃあ、僕が補助するって感じでやる?」


「そうするー」


 そう言って美紅が教材を取りに行って離れたタイミングで鈴乃の肩をつんつんする。


「どしたん」


「いいの?引き受けちゃって」


「いいでしょ別に減るもんじゃないし。勉強はアウトプットが大事なんだぞー?」


「……いや、そういうのじゃなくて……」


 鈴乃がいたずらっぽい笑みで優希と色々話していると美紅がワークを抱えて優希の席まで戻って来た。


「それじゃ、お願いします!」


 そうして机の上に広げられた美紅のワークと授業のノートを見て2人は絶句した。


「……美紅さん?何で真っ白?授業で少し進めてたはずだよね……?」


「つまんないし飽きたから寝てた!」


「……これは、些か険しい道のりになりそうですね……?優希さん?」


「……そう、だね」


 2人だけで過ごす時間が無くなっていく音がする。美紅に少しばかり殺意を向けていると上から誰かが覗き込んでくる。その正体に気付いた優希は上を向かずにその人物に助けを求める。


「……望。へるぷ」


「何で俺に出すの……隣に首席さんがいるのに」


 そう言って望は鈴乃に目線を向けるが、鈴乃はまた少し困惑した様子だ。実の所、優希も少し困惑している。なぜ居るのか分からない。……そういえばこの2人、朝に見ただけで話すのは今日が初めてだ。何なら望は美紅とも話した事が無いかもしれない。


「……えっと……静波望さん、でお間違え無いですか?話すのは初めてですよね」


「うん、そだね。初めまして。俺は……って優希君から話は聞いてるか。俺も柊さんの話は美紅から少し聞いてるよ。取り敢えず、このお馬鹿さんに勉強を教えようって感じなのかな?」


 望は美紅の頭をわしゃわしゃしながら優希と鈴乃に可哀想……という感じの目線を飛ばしてくる。そう思うなら助けてくれ。……それより、この2人は思ったより仲が良さそうに見える。


「もうっ!何で望が割り込んでくるの!私はこの2人といちゃいちゃしたかったのにっ!」


「勉強する気なかったんだ……」


 優希がそう言うと美紅はやっちまった、と小声で言った後に望の後ろに隠れる。


「まぁ見ての通り、授業とか全然聞かなくて中学まではよく教えてたんだけど……高校からは自分でできる、なんて言い出してこの様だよ」


「悪かったね、馬鹿な幼馴染で」


「……あ、幼馴染だったの?」


 それは初耳だ。性格が結構違うし話している所もあまり見てなかったので他人同士だと思っていた。この調子だと2人が付き合っていても文句は無いくらい仲が良さそうに見える。


「つかぬ事をお聞きしますが……御2人はお付き合い等はされているのでしょうか?」


 ナイス鈴乃。教室にこの4人しか居なくなったタイミングで丁度聞きたかった事を聞いてくれた。鈴乃も隠れてグッドサインを出している。


「付き合いかぁ」


「してる訳じゃ無いけど……ねぇ」


 望はそんな事していない、みたいな反応をしているが少し手元の動きが増えており、美紅も少し顔を赤くして望の方をチラチラと見ている。優希は鈴乃と無言で顔を合わせて頷き、優希は美紅の手を掴む。


「美紅。勉強、教えてあげるからね」


「えっ!?ほんと!?やったぁぁー!!!」


 さっきまでが嘘のように手を取り合った状態で喜ぶ美紅と一緒に別の意味で喜ぶ優希を優しく見守りながらも望は鈴乃の横に立つ。


「これ、俺も入って大丈夫かな?」


「はい。一緒に頑張りましょう」


「そう言って貰えると助かる」


 そんな感じで、少し変わった4人の勉強会が始まった。とは言っても勉強会と言うよりも美紅への授業と行った方が正しいのかもしれない。長い道のりになりそうだ、そう思ってノートを1ページ開いた。




「……何だ、できるじゃん」


 勉強を始めてから1時間と半分。テストの範囲の復習は殆ど終わってしまった。しかも、全教科。鈴乃の教え方が良かったのもあるし美紅が勉強の呑み込みがえげつない程早かった。


「……ごめん。馬鹿って言ったけど、馬鹿のベクトルが違ってたかも」


 美紅の隣に座っている望が苦笑いしながら鈴乃と優希を見る。


「この子、授業がつまらないからって寝ちゃうんだよね。それなのに教えられたらすぐできちゃうんだからタチが悪い」


「……要するに……」


「本当に、別の方向でお馬鹿さんなんですね」


「おいそこ2人!私の事バカにしてるよね!?」


 何だか拍子抜けだった。勉強が全然できない物だと思っていたので衝撃も大きい。その衝撃をかき消すように美紅は勢いよく立ち上がる。


「はい勉強終わり!終わったしどっか行くよ!クレープの一つでも奢って望!」


 そう言って勉強道具を爆速でしまう美紅とそれに文句を言う望を優希は唖然と眺めていると、同じく2人を見ていた鈴乃は少し笑って席を立つ。


「それでは、私達も帰りましょうか」


「……あ、うん。そうだね」


 そうして教室を出ようとした二人だったが、美紅が背後から真ん中に入って来て2人の両肩を掴む。


「ねぇ君達。今何時かにゃ?」


「……えっと、5時15分」


「それじゃあお礼も兼ねて何か食べに行こーよ!もちろん望の奢りで!」


「おい!勝手に俺の奢りにするな!どちらかと言えばお前の奢りだろ!」


 話が勝手に進みそうだったが、後から教室を出て来た望が全力ダッシュで美紅を2人から引き離して口論を始めてしまった。


「望は見てるだけで何もしてなかったからそのくらい当たり前でしょ!?」


「ま、まあまあ2人とも落ち着いて?ね?鈴乃が困ってるから」


 肘でちょいちょいと合図を出せば鈴乃はすぐに少し困った感じの顔をしてくれた。苦笑いみたいな感じの。それを見た2人は少しの間睨み合った後に2人の元へ大人しく歩いて来た。


「……ごめんなさい……望が」


「は」


「……あ?」


「はいはい分かった分かった僕が出すから!僕が出すから2人は落ち着いて!」


 全然落ち着いてなかったのでしょうがなく優希がお金を出す事で事なきを得た。優希の財布には少しばかりのダメージが入るが、この場を掌握できるのであれば安いものだ。


「え?ほんと!?わーいゆーきの奢りー!」


「……いいの?俺も少しは出すよ?」


「そうですよ。私も少しは……」


「いいの。僕が言ったんだから。それよりほら、どこに行きたい?」


 そう言うと美紅がスマホである場所を示したマップを表示する。


「ここ!」


「……よ、よーし分かった。じゃあそこに行こうか!」



「「……大丈夫かな…………?」」


 夕方の誰もいない廊下に映し出された光景は、目に見える程喜んで歩いて行く美紅と財布の中を眺めて少し肩を落としながらも強がって歩く優希を眺めて少し心配になってお互いに顔を見合わせた後、隠れて財布を用意した望と鈴乃であった。

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