第30話 二人目の詐欺師

この村に来て初めて道具屋に行ったとき、僕は詐欺師に勘違いされた。


いま思い返すとそれもそのはずで、相手のことを何も考えずに話してしまったからだ。


そしていま目の前で僕と同じ失敗をしている人がいる。


謎の中年男性が道具屋のイザベラさんにマシンガントークを繰り広げている。僕もあの時こんな感じだったのか……。客観的に見ていると確かに怪しい。


その男は道具屋の経営改善についてひたすら説明していた。


「………それで何をしたいかというと、私にこの道具屋の経営を手伝わせて欲しいんです。より効率よく仕入れや販売ができるように改善します。もちろんお金はいりません。どうかご検討してくれませんか?まず、具体的に何をするかというと……」


その光景を見たらほとんどの人がその中年男性のことを怪しむと思う。


でも同じことを経験した身からすると、この人は詐欺師ではない気がした。たぶん自分のやりたいことを必死に伝えようとしているだけだ。騙そうと思っていたらもっと表情豊かに印象よくしているだろう。


淡々と伝えたい情報を伝えている姿からおそらく危険な人ではないけど、だからと言ってそのままにしとくわけにはいかない。この怪しい人をどうにかしよう。


「すみません。この道具屋に何か用があるんですか?もしよろしければ僕が聞きますよ。さあ、こっちに来てください。」


「あっ、あなたは!……はい。分かりました。ついて行きます。」


すんなりいうことを聞いてくれてよかった。戦闘力では負けないけどなるべく手荒なことはしたくない。ひと気のない場所に移動すると、向こうから話しかけてきた。


「もしかして……あなたがユウゴさんですか?」


「……えっ!なんで僕のことを知ってるんですか?まさか……僕のことを監視してたんですか!?もしかしてバロンさんの手先ですか!?」


「監視?あなたのことを?……なんでですか?私はリオンさんに聞いた情報からあなたのことを推測しただけですよ。はじめまして私はローガンと言います。」


先日のバロンさんのことで警戒したけど、どうやら関係ないらしい。そしてローガンさんはどうやってリオンくんと知り合ったのか教えてくれた。この村に来たのは恩を返すためだということを話してくれた。


「あ〜そうだったんですね。リオンくんの知り合いなら安心です!てっきり詐欺師かと思いました。話しかけている姿けっこう怪しかったですよ。」


「すみません。ついつい自分の思いついたことを一方的に話してしまいました。気をつけます。」


「そうですね。まぁ、僕も全く同じことをやってしまったことがあるんで、お互いに気をつけましょう。ところでさっきは何を話していたんですか?」


僕がそう聞くとかなり詳しく教えてくれた。


ローガンさんはもともと町の予算を決めるような仕事をしていて、お金のことに詳しいらしい。その経験を活かして道具屋をさらに効率よくお金を稼げるようにしたくて、イザベラさんに提案していたと教えてくれた。


「じゃあそのことについては僕から話しておきますよ。今はもう信用されていると思うので、たぶん僕が言えば大丈夫だと思います。ところでローガンさんはこの村にいつまでいるんですか?」


「訳あって元いた町で私は死んだことになってるんです。だからもう戻れる場所はありません。よければこの村で何か役に立てればいいと思っています。私にやれることはありますか?」


いろいろ事情がありそうだけど、それは後々聞くことにしよう。ローガンさんは数学が得意だということで、それを生かした仕事を頼むことにした。


「それならちょうど良い仕事があります!ローガンさん、学校の先生になって下さい!」


学校の先生は多いに越したことはない。科目ごとに先生がいればより詳しく教えることができる。


少し前にこの村に訪れた小説家のバロンさんが文系の科目だとしたら、ローガンさんは数学が得意だから理系の先生に向いているはずだ。


しかし学校の先生になって欲しいと言われて、すぐに受けてくれる人の方が少ないだろう。ローガンさんの反応も前向きなものではなかった。


「私が……学校の先生ですか?……それは適任とは言えませんね。さっきの光景を見てましたよね。私は大人にだってうまく話せないのに子どもに授業をすることなんてできる気がしません。」


「うーん……そうですかねぇ。僕は大丈夫だと思いますよ。……それならこういうのはどうですか?ローガンさんは子どもたちに算数を教えて、逆に子どもたちから人との話し方を学ぶ。」


「教師であり生徒であるということですか?それは……うまくいけばとても効率が良さそうですね。でもうまく話せるまではどうするんですか?子どもに関わることですから失敗は許されません。いまの私では子どもたちの役に立てそうにないです。」


能力があるのに自信がないところがリオンくんに似ている気がした。そして似ているならば、自分の役割を見つけたときの爆発力も期待できる。僕は拒否されても食い下がって説得を続けた。


「失敗というのは必ずしも取り返しがつかないわけではないと思います。」


初めてこの村に来た時、アダムさんの家を全壊させた話をした。


「それはモンスターを倒すために使った魔法によるものでした。いまならもっとほかのやり方があると思うんですけど、あの時は必死だったんです。僕はこの村に来てたくさん失敗しました。でもその度に村のみんなが助けてくれたんです。だから安心して失敗してください。」


「いい村ですね。今まで失敗しないために、自分のできる能力の範囲のことしかやりませんでした。でもこの村でなら……新たなことに挑戦してもいいかもしれませんね。」


そしてローガンさんは会ってから初めて見る表情で僕の提案に対する答えを聞かせてくれた。


「……わかりました。では、やってみましょう。教師として子どもたちを良い方向に導いていけるように頑張ります。もちろん道具屋の利益向上の手伝いもします。これからよろしくお願いします。ユウゴさん。」


僕たちは力強い握手を交わした。


心強い仲間がまた一人増えた。学校を作るなんてやったことないから手探りでやってくしかない。でも生徒としては経験しているからそれを思い出して参考にしながら進めて行くことにしよう。

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