15話:~戦闘。~

「やばいやばいやばいって!」


 ドカン、ドカンと大きな爆発音を立てながら晴を追ってきている者がいる。それは戦闘にしか興味のない雫にも珍しく要注意するように言われていたTN-175という男。攻撃を受けて実感したが、今の晴の身体能力では、とてもではないがまともに相手をして勝てるような相手ではない。時折物凄い爆発に巻き込まれながら、路地の奥地まで追い込まれると流石に「たんまたんま!」と待ったを掛けた。そのまま無理に戦い続けることも覚悟していたが、爆弾を大量に持っているとは思えないくらい身軽に地面に舞い降りたTN-175は、その場で足を止めた。


「……GK-8の元相棒が無様なもんだね」

「何十年前の話っスか……それ……」

「十五年前」

「そりゃ体力も落ちてるに決まってるっスよ。もう俺はワンちゃんやめて日本に住んでる普通のお兄さんなんス」

「そう」


 吐き出すように言ったなけなしの言い訳も吐いて捨てられ、手に持っていたナイフで晴に攻撃を仕掛ける。その組織特有の鋭い刃を受け止めたステンレス鋼の腕が、ガインと嫌な音を立てる。


「叛逆を起こしたっていうGK-8を攻撃するのはともかく、俺まで攻撃して組織は何の得になるんスか。俺の件はそれこそ十五年前に終わったはずっスよ」

「叛逆?GK-8?確かにそうだけど、そうじゃない。軍の目的はだ。この日本を――いずれは世界を支配しようとしている。そのために手始めに見せしめとして反発した強化人間たちの排除をしようとしているんだ」


 ギギギ……と継ぎ目に食い込んできた刃。痛い痛いと悲鳴を上げる訳にもいかず、ぐっと奥歯を噛み締める。


「そういう意味ではGK-8の叛逆はいいきっかけになったよ」

「支配……、反発した強化人間の排除!?それって俺も対象ってことじゃないっスか!」

「そう。キミが大切にしているあのAIたちもね」


 なんて残酷な事実を突きつけられたんだ。そう思うと同時に、雫が晴にこのことを隠そうとしていたのではないかと直感する。真顔で「もういい?」と言って、ふらふらと倒れ込む晴の心臓部分にきっさきを向けてくるTN-175を見上げ、はくはくと息をした。

 いつだってあの男は戦い以外何も出来ないくせに、一人で何とかしようとするきらいがあった。だから今回もああやって下手くそな誤魔化し方をしていたのか。全ての絡まった糸が一気に解けたような気がして、言葉が出ない。決してTN-175の気迫に負けたわけではない――というのは負け惜しみだが。


「…………キミは十分、大切な人と一緒にいたでしょ?」

「は…………」


 ぽそりとつぶやかれた言葉の半分以上は、晴の耳には届かなかったが、彼から送られる軽蔑の視線にハッと息を呑む。その一瞬。目にも止まらぬ速さで振り上げられたナイフの斬撃を避けつつ、慣れない手つきで機械の腕の制御を解除した。ガションとロボットアニメばりの音を立てて機械の腕から折りたたみの槍が出てくる。他にもこの腕には、武器が一式入っているらしい。これをつけた理は「あはは」と笑って悪ふざけだと言っていたが、彼は仮にもと呼ばれていた男である。いずれはこうなることを見越していたのかもしれない。ロジ曰く「ほんっとうに邪魔くさい装備」だそうで、ここ数年はもう使わないだろうし外してもらおうかとロジと相談していたが、今ばかりは心を持つAIを生み出すことが出来る天才科学者に感謝する他ないのかもしれない。降りてくるナイフを受け止め、弾き飛ばし後退すると、機械的な表情をしたTN-175を睨め付ける。そしてため息を一つ。


「俺はもう本気出さないって決めてんスけど……?」

「何……」


 何かを確認するように、トントン、と手に持った槍の柄で地面を突き、気怠げ後頭部を掻いた。


 空気が変わった――

 TN-175は眉間の皺を更に深めて彼を注視した。彼は、GK-8に次ぐ最強と言われていた。しっかりその行動を見極めねば。そう思って警戒心を強めて身構えた瞬間だった。ドッと脳天を突かれるような振動が全身に伝わった後、くたりと嘘のように脱力して地面へとへたり込む。「嘘――」そう思った刹那だった。TN-175を襲ったのは、痛み、とも言えぬ熱さ。冷たさ。両方が同時に起こっているようなその感覚に、TN-175は絶叫した。声にもならぬ声。最早、己の耳にもそれは届かないほどに

 何が起こったのか、何とか冷静な思考を取り戻した部分をフル回転させて、ギョロリと見開いた目を動かし、状況を確認する。どうやらあの一瞬で、ナイフを持つ右手を狩り取られたらしい。我が身を離れてのたうち回るそれを見て脂汗が滲み出てくる。


「よかったっスよ。アンタも痛覚はあるみたいっスね。アンタ大怪我したことないタチでしょ?」


 呑気な口調でそういう男は何食わぬ顔でTN-175を見下ろして、ピッと矛先についた血を払い除けた。そして、痛みに喘ぐTN-175を放置し、やりにくそうに槍を元の位置に戻すと膝を着くTN-175の横を通り越してその場を立ち去る。


「はっ、ぐ……、ま、待て……っ!殺さないのか!?」

「殺さないっスよ。アンタは心の痛みはあっても死ぬ痛みはまだ知らない方がいいっス。組織に所属してる限りは」

「…………」

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