12話:~双子と相棒と。~

 ――最近、TN-175の様子がおかしい。SG-563は、そう思って首を傾げた。

 おかしいというより、彼らしくないのだ。いつどんな状況でも落ち着いて行動を出来る彼が、あからさまに気が急いているし、彼らしくないミスが続いている。だからなのか、彼は外の仕事を全てSG-563を含む部下に任せ、部屋に引き篭もるようになってしまった。


 しかし、彼の気持ちは分からなくもないのだ。


 我々は肉体を強化された改造人間の集団。兵士くらいいくらでも復元でき、疲れを忘れて延々と戦うことが出来るからいくら消費しても構わないと、上層部から許可を得ているとはいえ、いくら何でもGK-8を始末する目処めどが立たなさ過ぎる。苛々としてしまうのも当然だ。その上、過去に組織に所属していたYM-200という男が、GK-8に協力していると知れば、彼の心の負担は計り知れないだろう。GK-8はYM-200がいてこそ更に厄介になる男なのだ。

 そう機械的に思考しながら、SG-563はTN-175の背中を見詰めた。苦しんでいる彼を見る度、あの望月圭という男をこちら側に引き込むことを考えた。何故ならいつ隠れてGK-8を偵察しているSG-563を見つけ出し、何より彼は強化人間に匹敵するくらいに強い。こちら側の味方になってくれさえすれば、強化人間にならずともTN-175の力になってくれるに違いないのだ。どうやら、GK-8やYM-200とも関わっているようであるし、我々の知らない情報も大量に持っているであろう。しかし、彼はこの『スターアロー』に所属するにはのと、GK-8やYM-200と関係が深すぎる。それだけがネックだった。しかも、あの男はどこか懐かしい。彼の隣にいるとおかしくなってしまいそうだった。


「…………。あ、SG-563帰ってたんだ。声を掛けてくれて良かったんだよ」

「すみません。大事なかと思いまして」

「あはは、馬鹿な子。キミもボクの家族なんだから見たって良いって何度も言ってるよね」


 おいで、と優しい声を出し、己の座る床の隣を叩くとSG-563は素直にTN-175に従う。

 TN-175が見ていたのは一つカプセルだ。その中では幼い少年がコードに繋がれて眠っている。彼こそが、TN-175が肉体強化人間になるきっかけとなった少年だった。

 赤髪で背丈の小さな幼子。見た目はおおよそ三歳程度であるが、少年はTN-175の双子の弟だ。幼い頃、守ってくれる両親も病死し、弱い立場の弟を守るため、三歳児にしては頭の回ったTN-175は名を捨てて、軍事組織『スターアロー』に入隊したのだ。しかし、TN-175だけが成長して更に頭がよく回るようになってくると、これはだけだということに気付いてしまったのだ。その事実を知った瞬間からTN-175は組織を恨み、しかし逆らうことはせず、弟を取り戻すために日々精進しているのだ。それが今は完全に憔悴しょうすいしているのだから、SG-563だって不安になる。


「この子の名前は長居陸ながいりく。自分の名前は覚えていないくせにそれだけはよく覚えているよ」


 そう言って、苦笑を浮かべたTN-175の顔を今でも良く覚えている。TN-175がどれだけ長居陸のことを取り戻したいのか、SG-563も痛いほどに理解しているつもりだ。だからこそ、伝説とも呼ばれているGK-8を暗殺することは不可欠だ。何か、何か打開策はないのか。そうSG-563もTN-175も何度も上層部に交渉した。しかし、彼らの下したは、「GK-8の暗殺に成功すれば、長居陸をTN-175に返還する」ということだけだった。


 だが、TN-175を騙してまで名前を放棄させた組織が、そんな約束を守るとは到底思えない。しかし、SG-563の相棒は己の双子の弟のことになると、いつも冷静さを失ってしまうのだ。だから、組織の企みなど微塵も考えていないのだろう。しかし、SG-563はそれを今のTN-175に言い出せなかった。彼を傷つけたくなかったからと言っても過言ではない。


「…………」

「SG-563?」


 それでも、真実を言い出そうかそうしまいか考えて、もじもじとしているSG-563に気付いたTN-175は、こてんと年相応に可愛らしく首を傾げて微笑み、SG-563を抱き寄せる。ぬいぐるみを扱うようにSG-563を優しく抱き締め、髪を撫で回すと頬擦りをする。


「お前はいなくならないでね」

「はい」


 TN-175の懇願にSG-563は当然だと答えるが、SG-563の頭の中にぎるのは、あの望月圭の顔であった。TN-175に対するこの回答は、どうしてか彼のことを裏切っているような感覚に陥る。


 何だこれは。


 GK-8を見張るSG-563を発見する度、嬉々として寄ってくる圭の顔を思い出すと、きゅうと胸が締め付けられる。ある時、彼が語った行方不明の恋人がSG-563に似ているということも、どうしてこんなにも気にかかってしまうのだろう。彼と出会うまではそんなことはなかったのに。

 造られた心臓の故障だろうか。後で研究所へメンテナンスに行ってみることにしよう。TN-175に相談するつもりは毛頭ない。しかし、幼いまま苦しんできた彼のことを見放すつもりなども到底ない。ずっとそばにいるつもりなのだから。たとえ、あの男望月圭が、SG-563にとってどういう存在であろうとも、絶対にTN-175の前から消えたりしない。絶対だ。


「……ねえ、今日は一緒に寝てくれる?」


 無表情のままTN-175に甘えるふりをするSG-563に甘い声で囁く。――こういう時、これがどういう意味なのかしっかり理解した上で、SG-563は頷いた。


 彼のためにいるのだ。今の僕は。


 そう考えたSG-563は、矢張り無表情のまま頷くと、壊れ物を扱うようにしてくるTN-175の手をそっと握り返した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る