第12話 本気の勝負
バディ対抗戦を終え、二週間が経過した。
前期課程の授業が全て終了し、学園は至る所でパーティーの準備が為されていた。
「賑わっていますね」
「学園の一大行事ですからね。気合が入るのも当然ですよ」
準備をする生徒達を横目に僕達は廊下を歩いていく。
「セレスさんは何か準備したりしないんですか?」
「出し物をするのはどちらかと言うと、政治面で活躍する貴族ですから、私のような武闘派の貴族がやることはありませんよ」
「そうなんですね」
「まぁ、出すことも出来るのですが、その場合、我が家に取り入ろうとする者で溢れかえると思うので……」
「あぁ……」
爵位の高い貴族であれば多くの貴族が何らかの目的をもって近づいて来ることは想像に難くない。
「アランも言ってましたよ。純粋な好意で近づいて来る者は稀だって」
「えぇ。ですので、こういった行事には出来る限り、受け取る側でいるようにしているんです」
そう言い、少しだけ寂しそうに笑うセレス。公爵家の令嬢とはいえ、セレスはまだ子供。こういった行事には積極的に参加したいのだろう。
しかし、参加すれば間違いなく様々な思惑に当てられるため、諦めるしかないのだと笑うセレスの顔を見て、僕は思わず彼女の手を取る。
「……だったら、後期のパーティーは僕と一緒に何かをやりませんか?」
「え……?」
「いや、その、僕も今回は何か出し物をするわけではないので、今度はセレスさんと一緒にやってみたいな、と思いまして……」
しどろもどろになりながらも自分の意見を述べると、セレスは柔らかく微笑む。
「……ふふっ、そうですね。では、今度は一緒に参加しましょう」
「は、はい!」
何をしたい、どんな物が好きなのか、などと半月後のパーティーに向けて話していきながら、僕達はいつものように訓練場に足を運んだ。
「そういえば、レイジはパーティー自体に参加しないのですか?」
訓練の準備をしていると、セレスが首を傾げながら僕へ問いかけてきた。
「え、えぇ、そのつもりですけど……」
「どうして参加しないのですか?」
「アランから聞いたんですけど、皆、ドレスと言った社交界用の服を着てくるんですよね?」
「そうですね」
学園で行われるパーティーは貴族の物を模しているため、服装などもそれに近づけたものとなっている。
故に……
「僕、そういった服をもっていないので……」
「制服で参加すればいいのではありませんか?」
「それだと、クリス君辺りの生徒が揶揄ってくる気がして……」
「確かに……」
クリス達が全力で馬鹿にしているのが容易に想像できたセレスは苦い笑みを浮かべる。
「でも、せっかくの機会だし参加した方がいいのでは?」
「ん~」
「……ようは服があればいいのですよね?」
「まぁ、そうですね……って、ちょっと待ってください。まさか……」
「えぇ、私が用意しましょう」
胸に手を当て、そう提案してきたセレスに僕は慌ててふためく。
「いやいや! そこまでしていただくのは悪いですって!」
「気にしないでください。迷宮での異常事態やバディ対抗戦での活躍を労ったものだと思ってください」
「思えませんよ⁉ というか、絶対、僕の手持ちじゃ買えない物を買いますよね⁉」
「いけませんか?」
「いけませんよ⁉」
堂々と言い切るセレスに僕は突っ込みながら、何とかしてセレスの労いを阻止しようと説得する。
「僕は強くなりたいから頑張っただけですし、今日のように訓練に付き合ってもらえるだけで十分、お礼はもらっていますから!」
「ですが、それだと対抗戦だけの話になりますよね? そうなると、迷宮内でのお礼を返す事が出来ません」
「いや、だから、本当にお礼は大丈夫ですから! というか、高すぎる物を頂いたら、失神してしまいますから!」
「ここまで強情とは……困りましたね」
「困っているのは僕の方ですよ!」
しかし、どれだけ説得してもセレスの主張は変わらない。折れてくれないことを察し、どうしようか頭を抱えていると、何かひらめいたのか、ハッとした顔でセレスがこちらを見る。
「では、一つ、勝負をしましょう」
「勝負?」
「いつも通り一対一の模擬戦をしますが、今日だけ勝者には「ある権利」を与えられます」
「ある権利……?」
セレスの言葉に嫌な予感がしたが、今はその主張を聞くことに専念する。
「勝者には『敗者に何でも一つ、命令できる権利』を与える、なんてどうですか?」
「却下で」
「えぇ⁉ 良い案だと思うのに、何でですか⁉」
提案された内容をためらいなく却下した僕に、セレスは目を見開きながら詰め寄ってきた。
「どこが良い案ですか⁉ 大方、その権利を使って、僕を労おうとしているんでしょ!」
「ダメ、ですか?」
「うっ……そ、そんな可愛い顔をしても駄目です!」
瞳を潤ませ、下から覗き込んできたセレスの顔は想像以上に攻撃力が高く、思わず首を縦に振りかけたが、鋼の精神で何とか耐える。
「そうですか……では、レイジがこの提案に乗ってくれないので、私も制服でパーティーに参加しますね」
「いや、何が「では」ですか⁉ セレスさんは公爵家の令嬢なんですから、キチンとした正装で参加してくださいよ! というか、僕はパーティーに参加しませんから!」
「だって、気兼ねなく話せる友人はレイジしかいませんし……」
「うっ……で、ですが……」
自分のせいでセレスが制服でパーティーに参加してしまうのは避けたいがか、黙って労いを受けるわけにもいかない。
故に、僕が取れる行動は一つしかなかった。
「はぁ……分かりました。勝負、受けますよ」
「おっ……やる気になりましたか?」
「そうするしかなかっただけですよ……で、確認ですけど、勝負内容は一対一の模擬戦なんですよね?」
「はい。引き分けなしの一本勝負です」
「……分かりました」
僕はそう言うと、顔を俯かせ深く息をつく。そして、構えを取り、静かにセレスの方へ視線を集中させる。
「準備はいいですね?」
「はいっ!」
「では……ッ!」
凄まじい踏み込みと共に一瞬で僕との距離を詰めたセレスが杖を振るう。
「【氷刃の剣舞】!」
僕の周囲を囲むように生み出された氷刃が一斉に襲いかかり、それに合わせてセレスが付与魔法によって生み出した氷杖で強烈な突きを放つ。
「【氷鷲の魔拳】!」
それに対し、僕は巨大な氷の拳を生み出し迎え撃つ。
「フンッ!」
氷刃を全て砕き、セレスの氷杖を受け止める。
「流石ですね……!」
「そっちこそ……!」
杖と拳が激しくぶつかり合い、訓練場に氷の礫が舞い散る。
「流石に接近戦では勝てませんね……一度、距離を取らせていただきます!」
セレスはそう言い、一瞬で僕の目の前に巨大な氷壁を顕現させる。
「これ、硬いから嫌いなんですよ!」
数発殴り、破壊することには成功したが、その隙に距離を稼いでいたセレスに氷の槍を放たれる。
尋常ではない速度で放たれた槍を見て、瞬時に回避は不可能だと判断した僕は防御の構えを取る。
「くっ……」
予想以上に重い攻撃に思わず呻くも、歯を食いしばり何とか耐える。
「いつもより魔力を込めたのですが……まさか耐えるとは……」
「僕だって少しは成長していますよ、っと!」
氷の槍を弾き、今度はこちらが仕掛ける番だと僕はセレスに接近する。
「そう簡単には近づかせませんよ―――【氷爆の幻楼】!」
高らかな宣誓と共に、大量の氷の花が訓練場に咲き誇る。
「爆発するヤツですか……厄介ですけど、爆発する前に砕けば問題ありませんね!」
そう言い、進路を塞ぐ花を砕き、速度を一切落とすことなくセレスとの距離を詰めていく。
しかし、それを予想していたセレスは油断することなく次の一手を打つ。
「【飲み込め、白銀の王】―――【
セレスの背後に巨大な氷の巨人が現れ、その手に収められた大剣が僕を両断せんと振り下ろされる。
「ちょっ⁉ それは死にますって!」
咄嗟に足に氷を纏わせて滑りながら大剣を躱し、何とか受け身を取る。
「足に氷を纏わせて回避……なるほど、そのような使い方もあるのですね」
「はぁはぁ……今日、ちょっと、本気すぎる気がするんですけど……」
「えぇ。今日は訓練ではなく勝負ですし、本気で勝ちたいので」
そう言い、セレスは杖を振るった。
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