第6話 『魔法使い』との出会い


「だいぶ、日が暮れているわね」

「わっ、本当ですね。急いで帰らないと!」

「何か用事でもあるの?」


 僕の言葉に、セレスが首を傾げる。


「いえ、帰りが遅くなると、育ての親でもある方に心配をかけてしまうので」

「そういうことね……」


 そう言いながら、顎に少しの間手を当てていたセレスが、ハッと何かが閃いたような顔でこちらを見る。


「では、我が家の馬車で送りましょうか?」

「……え?」


 セレスの提案に一瞬、呆気にとられた僕はその言葉の意味を理解した次の瞬間、思わず目を見開いた。


「いや、いやいやいや! それはダメですって!」

「どうしてですか? いい案だと思うのですが……」

「いや、だって学園の敷地外では公爵家の権威は絶大なんですよ⁉ 僕みたいな平民を乗せたらいけませんって!」

「気にする必要はありませんよ。その程度の事で権威が失墜するほど、我が家は弱くありませんから」


 そう言うと、セレスは僕の手を掴んで教室へと向かっていく。おそらく、荷物を取りに行くのだろう。


 抵抗しようにもその細腕からは想像もできない程も力によって、何も出来ないまま、僕達は教室にたどり着いてしまった。


「お~レイジ、無事だったか~?」

「微塵も心配していなかったような声音で言われて、今、心がボロボロだよ……」

「すまんすまん。でも、俺が血相を変えてまで詰め寄ったら、それはそれで怖いだろ?」

「うん」

「おい! 少しは否定しろよ!」


 そう言いながら、アランは僕の隣に立つセレスに視線を移す。


「で、なぜ、セレス様がここに?」

「様は不要です。遅くなったので、レイジを教会まで馬車で送ろうと思っただけですよ」

「おー、よかったな、レイジ。公爵家の馬車なんて滅多に乗れないからな~」

「よくないよ⁉ 今にも心臓が張り裂けそうなんだけど⁉」

「一応、自己紹介を。アラン・ノルヴィスだ。色々とウチの友人が迷惑をかけるかもしれないが、仲良くしてやってくれ」


 僕の叫びを無視して自己紹介を済ませるアラン。それに対し、セレスは首を傾げる。


「あの、申し訳ありません。私は『ノルヴィス』という貴族を知らなくて、どの辺りを治めているのか教えてもらってもいいでしょうか?」

「王国の最北端にある名もない地方だ。辺境だから滅多に人は来ないな」

「そうなんですね……すみません、こんなことを聞いて」

「別に構わないが、どうしてこんなことを聞いてきたんだ?」

「公爵家の人間なので、王国の貴族は全て覚えておくよう教育を受けるんですよ。なので、聞いたことのない貴族の名前を聞いて、確認しておこうと思ったんです」

「なるほどな~」


 アランは納得した顔で何度か頷くと、僕の鞄を手に取る。


「って、そんなことより、早く帰らないと行けないんだろ? ほい、鞄をどうぞっと」

「あ、ありがと!」

「では、話も終わったことですし、私達はここで」

「おう、また明日な~」

「うん、また明日!」


 アランに別れの挨拶を告げると、僕はセレスの後をついていき、敷地内に設けられた馬車置き場に足を運ぶ。


 周りをキョロキョロする僕とは対照的に、セレスは慣れた様子で歩み続ける。


 そして、馬車置き場におかれた馬車の中で特に高級感のある馬車の前に到着すると、傍で控えていた執事が声をかけてきた。


「お帰りなさいませ、お嬢様。隣の方はご学友でしょうか?」

「えぇ、バディのレイジよ。少し遅くなってしまったから孤児院まで送って行こうと思ったの」

「なるほど、かしこまりました。では、お二人とも、どうぞ乗ってください」


 そう言い、執事が馬車の扉を開けてくれたので、僕達は中に入る。そして、馬の嘶きと共に馬車が動き出した。


 ゴトゴトと揺れる馬車内で、学園の椅子以上にフカフカな座席に動揺を隠せないでいると、対面に座っていたセレスが口を開く。


「今日は災難だったわね」

「は、はい……」

「どう? まだどこか痛むところはある?」

「いえ、治療のおかげでどこも痛くありません」

「そう。なら、よかった」


 安堵の息を漏らし、顔をほころばせるセレス。


「そういえば、迷宮で言っていましたが……レイジは『魔法使い』になるのが夢なのですか?」

「えっ、あ、はいぃ……子供っぽいですよね……」

「いえいえ、良い夢だと思いますよ」

「え?」


 馬鹿にされると思っていたため、セレスから肯定に僕は思わず、驚きと戸惑いを含んだ声を漏らす。


「御伽話に登場する『魔法使い』になる……レイジらしい夢だと思いますよ」

「そ、そうですか……?」

「ちなみに、どうして『魔法使い』になろうと思ったのですか?」


 セレスの問いかけに、僕は当時の事を思い出しながら答える。



 昔、孤児院を抜け出して、一人で近くの森に探検しに行った時のことなんですけど、運悪く、魔物に遭遇してしまったんです。必死で逃げ回ったんですけど、最終的には追いつめられてしまい、死を覚悟していました。


 しかし、そこに現れた、ある方が強力な魔法で魔物を一瞬で倒したんです。その姿に見惚れた僕は思わず問いかけました。



『ど、どうやったら貴方みたいになれますか!』

『ん? 簡単な事だ———』



 その時、あの人が告げた言葉は今も僕の記憶に残り続けています。



『―――俺みたいな『魔法使い』を目指せばいい!』





「……それが、『魔法使い』を目指すことになったきっかけなのですね?」

「はい。それからどうやって『魔法使い』になれるか調べたりしていた時に、孤児院の先生からこの学園のことを聞いたんです」

「なるほど……」


 知りたかったことが聞けたためか、満足したような顔を見せるセレス。


「お二人とも、孤児院に到着しました」


 ちょうどいいタイミングで馬車が孤児院に到着し、執事が扉を開いてくれる。馬車から降りた僕は一言、お礼を言おうとセレスの方へ振り返る。


 すると、僕よりも先にセレスが口を開く。


「あの、もし良ければなんですが……明日から、私と魔法の訓練をしませんか?」

「……え?」


 告げられた言葉を上手く呑み込むことが出来ず、僕は思わず素っ頓狂な声を上げる。


「い、嫌でしたか……?」

「あ、ち、違いますっ! ちょっと信じられなかったというか……」


 話しながら、僕はセレスの提案を少しずつ整理していく。


「ち、ちなみにどうして魔法の訓練をしようと誘ってくれたんですか?」

「レイジはクリムゾンオーガと戦った時のことを覚えていますか?」

「は、ハッキリではないんですけど……何かが拳に集まっていたのは覚えています」


 死闘の中で突如発現した力。おそらくは魔法の類であろうが、あれ以来、一度も使うことは出来ずにいた。


「あの力には心当たりがありまして、レイジさえよければ私に指導させてもらえないかと思ったんです」

「え、せ、セレスさんはあの力に心当たりがあるんですか⁉」

「はい。なので多少はお役に立てると思いますよ」


 セレスの言葉に、僕は喜びを露にしながら答える。


「じゃ、じゃあ! 何かと面倒をかけてしまうかもしれませんが、お願いします!」

「えぇ、では、また明日。学園でお会いしましょう」

「はい!」


 馬車が去って行くのを見送った僕は先生や子供達のいる孤児院へと足を運びながら、明日からの訓練に心を躍らせるのだった。



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