『魔法使い』の英雄譚
苔虫
第1話 無能の少年
『レオザード王立学園』
レオザード王国に建てられた、この学園は大陸最高峰の教育機関をして名をはせており、中でも、魔法に関する授業は他の追随を許さず、毎年、優秀な「魔法士」を数えきれないほど輩出してきた。
そのため、国内外問わず、世界中から多くの者が学びに来ており、僕、レイジも他の者達と同じように魔法を学ぶため、この学園の門を潜ったのだが……
「おい、無能! この課題、全員分やっとけ!」
「え、でも……」
「口答えをするな!」
「はい……」
自身の机に積み上げられた課題の山を見て、僕は肩を落とす。
「また、課題を押し付けられたのか?」
「あ、アラン……」
「この量を一人でやるのは大変だろ? 俺も手伝うぞ」
「ありがとう……」
力なく答える僕の隣に座るのは、クラスメイトのアラン・ノルヴィス。
ノルヴィス辺境伯家の長男であり、僕の友人である彼は積まれた課題の山に手を伸ばしながら、僕の方へと視線を向ける。
「レイジ、こういうのは断ってかないと、どんどん酷くなるんだぞ?」
「分かっているんだけど、断れなくて……」
アランの指摘に、僕は頬をかきながら、話を続ける。
「それに僕、魔法が使えないしさ……」
この学園に入学してから三か月、多くの者が魔法を上達させる中、僕は未だに初級魔法すら使えず、それゆえに、周りからは『無能』と呼ばれていた。
「それは……そうだが、レイジがそんな目に合うのは絶対に間違っているだろ」
「で、でも……」
「それに、アイツらがちょっかいをかけてくる最大の理由は、レイジが魔法を使えないからじゃなくて、平民だからだろうな」
「あー……」
その言葉に、僕は納得の声を漏らす。
この学園には多くの国から学びに来るとはいえ、ほとんどは王国貴族の子弟であり、学園内では身分を気にせず、全員が平等に過ごすよう命じられているにも関わらず、身分による上下関係に従うのが、生徒だけでなく講師の中でも暗黙の了解となっている。
「レイジは平民だから、全ての生徒にとって下の存在であり、何をしても問題ないと思われているんだろうな」
「一応、校則では禁止されているんだよね?」
「あぁ。王族が決めた校則を破るなんて、皆、馬鹿なのか?」
「え、どうして?」
何が馬鹿なのだろうかと思った僕が問いかけると……
「いや、だって、王族の決めたルールを破る=王家の叛意と取れるからな。最悪の場合、極刑で首をはねられても、おかしくはないぞ?」
「え……そうなの?」
「あぁ、学園に王族がいないのが不幸中の幸いだな。もしいたら、一発アウトだぞ?」
「ひぇ……!」
告げられた内容に、僕は思わず情けない声を出してしまった。
そして、一時間もしない内に課題を終え、講師に提出した僕はアランと共に街中をのんびりと歩いていく。
「そういえば、そろそろだったな」
「ん、何が?」
「いや、もうすぐ、『バディ』の授業が始まるだろ?」
「あーそうだったね」
『バディ』
現代の魔法戦に置いて「魔法士」は例外を除き、単独では動かず、必ず二人以上で行動するため、息を合わせた連携が必須となる。この授業はそんな状況にいつでも対応できるように、生徒が二人一組となって様々な課題に取り組む形式を取っている。
「パートナーは完全ランダム。実際の戦場では全く知らない相手と共に行動することはよくあることだから、早い内に慣れておけ、って事だな」
「はぁ……どうせならアランがよかったな~」
「まぁ、これはレイジにとっても悪くはない経験になると思うぞ?」
「そう?」
僕が首を傾げると、アランは力強く首を縦に振る。
「あぁ、性悪な貴族のガキとの接し方を学ぶ、良い機会になると思うぜ?」
「えー……」
そんなことが出来るのだろうかと思いながら、僕は空を見上げる。見慣れた街を吹き抜ける風を感じながら、今後のことを頭の中で思い浮かべる。
『うわ……無能がパートナーとか最悪』
『おい、無能! 足を引っ張るなよ!』
『オラッ! ちょっとは抵抗して見ろよ!』
「……罵倒や暴力に遭う未来しか見えないよ」
「そこは根性で何とか頑張るしかないな」
「そんな~……」
そう言い、肩を落としながら歩き続けていると、分かれ道に差し掛かったので、アランとはそこで分かれ、僕は一人、住んでいる孤児院へと足を向かわせる。
「あ、レイジ兄ちゃんだ!」
「皆、レイジ兄ちゃんが帰って来たよ!」
『わぁ―――!』
十分もしない内に孤児院に到着した僕のもとに、笑顔で駆け寄ってくれる年下の子供達。
「皆、ただいま」
「おかえりなさい、レイジ」
子供達を一人一人対応していると、建物の中から一人の女性が現れ、柔和な笑みを浮かべながら、僕へ声をかけてきた。
「先生、ただいまかえりました」
「学園で疲れているでしょ? さぁ、中でゆっくりと休んでください」
「ありがとうございます」
この孤児院を運営し、僕達の育ての親でもある先生にお礼を言いながら、僕は二階へ上がり自分の部屋へ足を運ぶ。
「ふぅ~」
部屋に備えつけられたベッドに飛びこみながら、僕は大きな息をつく。
「バディの授業、不安だな……」
胸の中にある不安を零しながら、天井を見つめる。
とある『夢』を叶えるために学園に通い始めたが、この三か月、魔法は一切使えなかった。
「才能、なかったのかな……」
入学試験で受けた魔力測定では、会場にいた全員が驚くほどの魔力量だったと、アランから聞いたが、魔法が使えないようでは宝の持ち腐れである。
「……ん、深く悩んでもしょうがないし、とにかく頑張ろう!」
そう覚悟を決め、お腹が空いたので食堂のある一階に降りると、子供たちが集まって何かをしているのが見えた。
「あ、レイジ。ちょうど夕飯が出来たので、貴方を誰が呼びに行くかで、あの子達が勝負していたんですよ」
「あーなるほど」
何をしているのだろうか、と思いながら見ていると、いつの間にか後ろに立っていた先生が料理を乗せたお盆を片手に教えてくれた。
子供達の盛り上がりを見るに、降りてこない方がよかったかなと考えたが、降りてしまったものは仕方ないので、僕は苦笑いしながら子供達の方へと歩いていく。
「おーい、皆~」
「あれっ!? レイジ兄ちゃんが降りてきている!?」
「嘘っ!? 今、良いとこだったのに!」
「いやーごめんね。兄ちゃんもご飯が待ちきれなくて、早く降りてきちゃった」
子供達が口々に不満を垂れ流しているが、冗談だと分かっているので、僕はそれらを流しながら食堂の席につく。
「皆、席につきましたね?」
『はい!』
「では、いただきます」
『いただきます!』
先生が食事開始の音頭が取り、子供達は出された料理を美味しそうに食べる。
「先生、おかわり!」
「俺も!」
「私も!」
「はいはい、分かっていますから、順番に並んでくださいね」
一瞬で完食した子供達が次々とおかわりする姿を横目に、僕は空になった容器を洗い場へ持っていく。
「あら、レイジ。おかわりはいいのですか?」
「あ、はい。どうせなら、子供達にいっぱい食べて欲しいので」
王国から多額の支援金を貰っているとはいえ、全員が贅沢出来るほどの余裕があるわけではなく、僕は年上なので他の子にどうぞと視線で答えると、先生は困った笑みを浮かべる。
「もう……貴方も私にとっては愛する子供なのですから、我慢はし過ぎないでくださいね?」
「はい、勿論です」
子供達とも軽く言葉を交わした僕は自室に戻り、明日の準備を終わらせた後、ベッドの上で横になる。
「よしっ、明日からも頑張るぞ……!」
そう小さく呟き、僕は眠りにつくのだった。
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