お前を愛することはないって本当ですか?

ひよっと丸 / 久乃り

第1話 プロポーズは突然に

「お前を愛することは無いと誓うから……」


 王都の噴水広場は一番の人気スポットで、たくさんの屋台が立ち並んでいる。昼食の買い出しに散策に大勢の人がごった返していた。そんな中、ファミルは端正な顔立ちをした美丈夫に前を塞がれ、唐突な言葉をかけられていた。


「だから、結婚してくれ!」


 折しも正午を告げる大聖堂の鐘が高らかに鳴り響いた。

 リンゴーン、リンゴーン、リンゴーン(以下略)

 青天の霹靂とはまさにこの事。頭が真っ白になったファミルはその場に立ち尽くし、高らかに鳴り響く鐘の音の数を心の中で数えていた。そう、現実逃避である。

 だがしかし、現実は厳しかった。


「おめでとー」

「幸せになれよっ」


 屋台の店主たちがまるで他人事(じっさいそうだが)の様にはやし立て、祝福の言葉が飛び交った。いやいや、ファミルは承諾なんてしていない。そもそもこの美丈夫は誰なんだ?そう思って顔を上げてみれば、真上からの日差しもあって、まるでスポットライトを浴びているかのように美しい金髪が後光がさしているかのように輝いて、長いまつ毛に縁取られたみどりの瞳はまるでエメラルドの様に輝き、白い肌に頬をバラ色に染めてファミルを見つめるこの国の第二王子アレクシスと目が合った。


「だめよー、いくら男前だからってプレゼントもなくプロポーズだなんて」


 そう言って花家の女将がアレクシスの手に真っ赤なバラの花束を渡してきた。それがそのままアレクシスの手からファミルの手に渡された。思わず両手でしっかりと受け取ってしまったファミルであった。


「おめでとう」

「幸せになりなよ」


 花家の女将がファミルの背中を叩いた。いや、違う。受け入れてないから、いや、花束を受け取ってしまったから承諾したことになってしまったのか?混乱するファミルの視界が突如として暗くなった。


「ありがとう。幸せにする」


 頭上でやたらと大きな声で宣言された。


「みんなありがとう。必ず幸せにする」


 そう言って手を振るアレクシス。バラの花束を抱えたファミルの肩に手を回し、笑顔を振りまいている。噴水広場は歓声の嵐に包まれた。


「行こう」


 そう言われ、いつの間にかに目の前に止まった馬車に連れ込まれた。座席の奥に押し込まれ、ファミルが呆然としていると、アレクシスが隣に乗り込み扉を閉めた。


「行ってくれ」


 それを合図に馬車が動き出す。


「あの、意味が分からないんですけど?」


 揺れる馬車の中、ファミルはようやく声を出した。


「赤い薔薇の花束の花言葉は『愛情』だからプロポーズにピッタリたと思うが?」

「いや、そうじゃなくて」

「大勢に祝福された方が喜ぶかと思ったんだが?民衆では不満だったのか?ファミルは庶民派と聞いたのだが」

「そこじゃなくて」

「昼間ではなく夜の方が良かったのか?」

「時間帯のことでもなく」

「指輪か?やはりプロポーズには指輪が必要だったか?サイズが分からなくてな」

「それでもなく」

「馬車か?オープンの方が良かったか?」

「論点わざとずらしてますよね?」


 ファミルが睨むような目をしてそう言うと、ようやくアレクシスは観念したかのような顔をした。そうして真顔になり、ファミルのそばに座り直した。


「結婚して欲しいのは本当だ」

「だからなんで俺なんです?」

「お前、俺の立場は知ってるだろう?」

「この国の第二王子殿下」

「そうだ。そして母親は」

「正妃マリアンヌ様」


 そこまで答えてファミルは深いため息をついた。ファミルだって知っている。第一王子の生母は側妃エレーヌで伯爵家の出身だ。目の前にいるアレクシスの生母マリアンヌは侯爵家の出身である。侯爵家出身の自分が正妃なのに、王子を産んだら二番目だから王位継承権も二番目なのがきにいらないのだ。ついでに言えば側妃エレーヌが王子を産んだのはマリアンヌよりも10年も早かった。10年も早いから、当然第一王子は結婚もしていて子供もいる。もはやアレクシスにスペアとしての必要性もないから、アレクシスはさっさと結婚して王城から出ていきたいのである。

 だがしかし、結婚は一人では出来ない。だから相手を探していたら、次から次へとマリアンヌの息のかかった令嬢がやってきて、アレクシスは辟易としてしまったのだ。

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